幸せとは
まだ15時を過ぎた頃なのに西日が眩しくて、やっぱり冬は日が傾くのが早いなぁなんて季節を感じつつ、奈々美の家にやってきた。
「あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます!今年もよろしくね!」
「よろしくお願いします。モモちゃん、お正月も元気だね」
そう言ってにこにこ笑ってる奈々美に、当たり前じゃん!と返しながら抱きつく。
それもそのはず。奈々美に、今年のお正月は家に居るって聞いてから、2人でゆっくりできるのをずっと楽しみにしていたんだから!
何でも、事前収録の番組が多くて、生放送もドラマの収録があるからと、極力控える方針に決まったらしい。
オレは今日も夜から音楽番組の生放送だから、すぐに帰らないといけないんだけど…。
「モモちゃん、眠れた?」
「寝た寝た!元気いっぱいだよ!奈々美は?」
「モモちゃんが出てる番組観てたら、いつの間にか寝ちゃって、昼過ぎに起きたの」
寝すぎだよね。と照れたように笑った奈々美に、たまにはいいんだよ!と、ほんの少し赤く染まった頬を突く。
「それより、準備平気?」
「うん…。でも本当に行くの?」
「行くよ!」
そう言ってオレ達が向かったのは、芸能人御用達の芸能神社。毎年来よう来ようと言って来られなかった初詣に来たのだ。
「わ…人いっぱい居る…大丈夫かなぁ…?もっと大々的な変装した方がよかったかなぁ…」
「ウィッグ被ってるし、大丈夫だよ!おかりんに事前に相談してるから、もしバレても仕事って事にできる!」
この神社、芸能人に会えるのを狙ってファンの子が来るなんて話もあって、今日も案の定そこそこの人数が居た。
手を繋ぎたいのを我慢して参道を進めば、あれRe:valeの百じゃない?!一緒に居るの誰?!なんて、コソコソ話してるのが聞こえる。
ちらっと奈々美に目を向ければ、緊張とか不安とかそんなんがいろいろ混ざって、めちゃくちゃ強張っているのがマスク越しでもわかった。そんな彼女の様子に、オレは思わず笑ってしまう。
「な、何笑ってるの?!」
小声でそう言った奈々美に、何でもないよ。と笑って返して、オレ達はそそくさと参拝をして、早々に神社を後にしたのだった。
「緊張した…」
家に着くなりソファーに腰を下ろして呟いた奈々美は、ウィッグを外して前髪を整える。
「バレなかったね!」
「…うん。でも、心臓に悪かった〜!」
はぁ…。とソファーに倒れ込んだ奈々美の頭をそっと撫でれば、奈々美は嬉しそうに微笑んだ。
「オレのわがままに、付き合ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
「来年か再来年には、Re:vale神社できるから!そしたら人の目気にせず初詣しようね!」
「ふふっ、本当に作るの?楽しみにしてるね」
笑い声をあげながら起き上がった奈々美の乱れた後髪を整つつ、神社の事で電話をしていた時におかりんに言われた言葉を思い出す。
「そう言えば、神社の件で本名で電話してたらさ」
「うん?」
「おかりんに、結婚ですか?なんて言われて、ちょっとドキッとしちゃった!」
「そう、なんだぁ…」
「…案外、うちの事務所はOK出してくれるのかも」
髪を整えていた手を頬まで下ろして、親指で柔らかい頬を撫でれば、奈々美はくすぐったそうにしながら、オレを見上げた。
「大丈夫。私は、モモちゃんと一緒に居られればそれで幸せだから」
「…うん」
ありがとうとか、ごめんねとか、いろんな気持ちを込めながら奈々美を抱きしめて、触れるだけのキスをした後、何となく見つめ合ってお互い照れ笑いをする。
そんな些細なことに幸せを感じて、確かにオレも奈々美と一緒に居られれば、それだけで幸せだな。と、欲張っちゃいけないなと、そう思った。そんな事を考えながら時計に目を向ければ、もう出発の時間で、名残惜しさを感じながらも、オレは帰り支度を始めた。
玄関まで見送ってくれる奈々美にオレは、そう言えば!とたった今思い出した話題を振る。
「小鳥遊事務所の新年会、奈々美も来るって本当?!」
「え?あ、うん!環くんと陸くんから誘われて。ゆう子ちゃんに確認したら、OK出してくれた」
「なるほど?!大和から聞いてびっくりしちゃったよ!」
「言ってなくてごめんね。すごく楽しみ」
「ね!あ、じゃあ、もう行くね。また連絡するから」
そう言ってドアノブに手をかけたと同時に、モモちゃん!とオレを呼ぶ声。それに振り返れば、唇に柔らかい感触がして、オレは瞬きを繰り返す。
「いってらっしゃい。お仕事頑張ってね」
頬を染めながら笑った奈々美のかわいさに、心臓がぎゅん!!!と音を立てたのを感じながら、ありがとう。と告げてオレは奈々美の家を後にした。
その後の生放送は歌もトークも絶好調だった。
これが初詣のおかげなのか、奈々美のおかげなのかと尋ねられたら、オレは間違いなく後者だと思う。
神様には申し訳ないけど、やっぱりオレの元気の源は彼女なのだと、改めて感じた1年の始まりだった。
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