予想外
特番打ち合わせ後。
八乙女との話に夢中になっていると、気付いた時にはみんなは俺を置いて寮に戻っていた。なんならマネージャーも見当たらなかった。声くらいかけてくれてもいいのになぁ。なんて思いながら、俺は1人いそいそと帰路に着く。
打ち合わせ自体は滞りなく進み、今後のロケやリハーサルのスケジュールがとんとん拍子で組まれていった。
ひとつ気になったのは十さんと片瀬ちゃんの空気感だが、そこはまぁ、いろいろあるのだろう。と、あえて口には出さなかった。
しかし、それが原因で明らかにうちの末っ子のテンションが低かったのは、少々考えものだ。
「このまま何事も無く済めばいいけど…」
気付けばそう口に出していて、小っ恥ずかしくなったオレは、寮への足を早めた。
「ただいまー」
「あっ!大和さん!おかえりなさい!」
「あれ?マネージャー?」
「おかえりなさい!」
「ヤマト!どこへ行ってたんです?」
寮のドアを開けたらマネージャーを筆頭に、みんなが出迎えてくれる。
「あぁ、打ち合わせの後八乙女と話してたら盛り上がっちゃってさ…。って、お前ら俺のこと置いてっただろ。お兄さん寂しかったんだけど」
「すみません、実はいろいろありまして…」
「一応言っておくと、オレたちは帰る時声かけたんだからな」
そう続くミツの言葉で、気付かなかったのは自分の方だった事がわかり、ばつが悪くなる。ソウの言う"いろいろ"とは何だろうか、と思いながらふと顔をあげると、そこにイチとタマの姿だけ見当たらないことに気が付いた。
「あれ?イチとタマは?」
そうみんなに聞くも、一織は自分の部屋だけど…。と、なんとも微妙な反応が返される。どうせタマも部屋にいて、1人でしょぼくれてるんだろう。と、買い溜めしているビールを取りにキッチンへと足を運ぼうとするが、わー!とみんなが一斉に俺の前に立つ。
「え?何?」
「いや、あの…。深い意味はないんですけど、今は多分、キッチンには近付かない方がいいと…」
「そ、そう!行かない方が絶対いいよ!ねっ!マネージャー!」
「えっ?!あ、はい!そうです!行かない方がよろしいかと!」
「そんなことより、私たちはこれからミツキの部屋でここなのDVD観賞会です!ヤマトも一緒にどうですか?」
「いや、やらねぇし!っていうか、オレの部屋を勝手に使おうとすんな!」
変に目を泳がせながら俺を止めようとするソウとリクとマネージャーに、いつも通りギャーギャーと騒ぐナギとミツ。
いや、ビール取るだけだから。と言い残し、5人を掻き分けて、キッチンへ続くドアを開けると同時に、みんなの、あぁ…。という声が耳に入る。そして、静止を聞かずにドアを開けた自分を呪った。
そう、キッチンに立っていたのは、ここに居るはずのない片瀬ちゃんと、彼女にべったりくっついている、タマだったのだ。
「なぁ、ななみん。まだできない?」
「まだ作り始めたばっかでしょ?しかもそれ聞くの3回目」
大人しく待ってて。と言う片瀬ちゃんに、はーい。と返事をして、彼女の肩口に顔を埋めるタマ。
ちなみに、キッチンに向かう彼女に、タマが後ろから抱きついている状態だ。
あれ?ここ、俺達の寮だよな??
とりあえず、何事もなかったかのようにドアを閉め、振り返ると、だから言ったのに。と言わんばかりの表情の5人と目が合う。
「えっと、とりあえず…どういう状況?」
「それが…」
ソウ曰くこうだ。
打ち合わせ終了後、光の速さで片瀬ちゃんの元へ飛んで行ったタマは、彼女と共に廊下へと姿を消した。(ちなみに、ここまでは俺も見ていた)
その後いくら待っても返ってこないタマを、ソウが呼びに行った時には、もうタマは片瀬ちゃんにべったりの状態だったらしい。
帰る旨を伝えても、やだ。の一点張りで、2人とも困り果てていたところに、他のメンバーがやってきた。そして片瀬ちゃんにべったりのタマをイチが注意すると、タマは怒って片瀬ちゃんの手を取り、そのまま事務所を飛び出してしまった…と。
「慌てて追いかけたんですけど、僕たちが着いた時には、もう部屋に篭ってて…」
「タマキ、私たちの声には応じませんでしたが、ナナミが説得しました!」
「そうそう。で、そっからがまた大変だったわけ」
と、ミツが話を続ける。
どうやら、1つだけ言うことを聞いてあげる。という交換条件で家に帰してもらう事になったらしい片瀬ちゃん。そんな彼女にタマがしたお願いは"ご飯作って欲しい!"だった。
勿論、そんな事イチが許すはずがなく、それが原因でタマとイチは言い合いになったそうだ。
許可が得られればいいんだろ!と、タマがマネージャーに連絡したところ、まさかのOK。しかも私も手伝いに行きます!と、寮へと赴いた。
(いつの間にか、うちのマネージャーと片瀬ちゃんは仲良しになっていたようだ)
痺れを切らしたイチは自室へ篭り、みんなは最初こそリビングで寛いだり料理の手伝いをしていたものの、2人が醸し出す雰囲気に耐えられなくなり、一時避難してきた。という事らしい。
「なんか2人ともラブラブって感じで、オレちょっと照れちゃった!」
「私もです!って、すみません。私が許可を出さなければこんな事には…。一織さんは大丈夫でしょうか…」
「まぁまぁ、マネージャーも奈々美さんとゆっくり話したかっただけだろ?一織ならそのうち出てくるって」
頬を少し赤らめながら頬を掻く陸と、同じく頬を染めながらも、反省するマネージャー。そしてそんなマネージャーを慰めるミツを横目に、俺はため息をついた。
何事も無く済めばいいと考えていた矢先にこれか…。と、頭を抱えたくなったが、今はとりあえずビールだ。こういう時こそビールを飲まずにはやっていられない。イチの事はそれからだ。
「状況は把握した。とりあえず、このまま2人きりにしといたら、何かあった時にイチとタマの関係に更に亀裂が入るかもしれない。だから」
「だから…?」
首を傾げるミツの肩に手を回す。ちょっ!と、驚くミツを他所に、俺はそのままキッチンへの扉へ向かう。
「みんなで突撃だ!!」
と、扉を勢いよく開けたはいいが、オレは2人の様子を見て思わず固まった。
タマが、片瀬ちゃんに、キスをしていたのだ。
持っていた荷物が床に落ちる。
そしてその音に反応し、タマがこちらを向く。
「おー、ヤマさんおかえり。…みっきーと肩組んで何してんの?」
「あっ、二階堂さん、すみませんお邪魔してます」
タマの気の抜けた声につられ、片瀬ちゃんもこちらを向く。その目は今にも溢れんばかりの涙で濡れていた。
「えっ、奈々美さん、なんで泣いてんの?!」
ミツの声に、廊下にいたみんなも、えっ?!と、リビングへと駆け込んでくる。
その様子にタマは、みんなどうした?と呑気に笑っていて、片瀬ちゃんは、何でもないです!とティッシュで涙を拭い始めた。
「oh!タマキ、女性を泣かすだなんて!紳士にあるまじき行為ですよ?」
「た、環くん片瀬さんに何をしたんだ?!」
ナギとソウの言葉に、タマはムッとし、何もしてねぇし!と、片瀬ちゃんに抱きついた。
「ななみんが、たまねぎ切ってたら目痛くなって、んで、瞬きいっぱいしたらまつ毛が目ん中入ったって言うから…。だからオレが見てあげてたの!オレ何もしてない!」
悪いのはたまねぎだよな?と、片瀬ちゃんに聞くタマに、彼女はお恥ずかしながら…と、肩を小さくする。
「なんだ、よかった!オレ達てっきり、環が奈々美さんに何かしたのかと思って、びっくりしちゃった!」
「そーそー。お兄さんも、タマが片瀬ちゃんにキスしてんのかと思って、びっくりしちゃったわ」
と、リクのおかげで和んだ空気に便乗して、俺は冷蔵庫に向かい、ビールを取り出しながらタマを揶揄う。
すると、タマは数秒おいた後、さっきまで片瀬ちゃんにくっついていたのが嘘のように、彼女から勢いよく離れ、顔を真っ赤にし喚き始めた。
「バッ!ヤマさん、バッカじゃねーの!き、き…すとか!変な事言うなし!バーカ!バーカ!もー!」
ヤマさんのバーカ!と、捨て台詞を吐きながら自室へと駆け込んだタマ。
まさかの反応に、みんなただ無言でその背中を見送る事しかできなかった。
は?何言ってんだし。とか、そんなテンションで返されると思っていたのだ。それはみんなも同じだったようで、何となくアイコンタクトを取り、なんとも言えない空気感になる。
「あ、二階堂さん。今日はカレーなんですけど、大丈夫ですか?」
そんな中、1人だけ平然と料理を続けようとする片瀬ちゃんに、あぁ、そこら辺の感覚がズレてるのはこっちの方か…。と俺は顔を引きつらせたのだった。
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