嵐の前




「あ、マネージャーからラビチャだ」

MEZZO"での仕事終わり、帰りの車の中で環くんが呟いた。それに反応したのは万理さんで、バックミラー越しにこちらを見ながら環くんに声をかける。

「紡さん、なんだって?」
「えっとー『奈々美さん、無事帰宅しましたよ。Re:valeのお2人が送ってくださいました』だって。…よかった」

環くんはラビチャに返信をしながら安堵の表情を浮かべたあと、なーなー。と、万理さんに話をかけた。

「バンちゃんも、ストーカーってあったことある?」
「え?んー…後つけられるくらいはあったけど、そこまで酷いものはなかったかなぁ」
「へー。…そういう人って、なんで好きな人困らせるような事すんだろな」

そう言って窓の外を眺めた環くんは、膝の上に乗ってる拳にはギュッと力を込めた。僕はそれに、そうだね。と返す事しかできない。

「俺、ぜってーななみんのストーカー捕まえてやんだ。そんで、何でこんな事すんだ!って問い詰める」
「気持ちはわかるけど、あんまり危ないことはしないでね。手出すのもダメだよ」
「……うっす」

環くんの返事をもってこの話は終了し、その後僕たちは仕事の話をはじめた。
あの時の髪型が好きだったとか、ファンからはあの髪型が人気だよとか、そう言う話が主な話題で、片瀬さんに関係する話だからだろうか、環くんは終始嬉しそうにしていて、僕も自然と顔が綻んだ。




それから1週間後、雑誌の撮影で一緒になった片瀬さんが話があると、珍しく楽屋にやってきた。彼女の話にいち早く反応したのは、やっぱり環くんだった。

「え、引っ越し?ななみん引越しすんの?」
「うん。ずっと紡ちゃんのお家でお世話になるわけにもいかないし、百さんと千さんに相談した時も、できるなら早めにしたほうがいいよって」
「Re:valeが?」

一織くんの問いかけに、この間根掘り葉掘り聞かれて…。と困ったように笑った片瀬さん。その姿に、7人で顔を見合わせる。その原因が僕たちにあるのは明白だったからだ。

「奈々美さん、すみません…。あの日オレたち、白熱しちゃって」
「陸くんが謝る事じゃないよ」
「ミスターモモ&ユキ、なにかアドバイスをくれましたか?」
「うん。いろいろと。おすすめの防犯グッズも教えてくれたの」
「さすがRe:vale先輩は慣れてんなぁ…」
「それで、物件とか引越しの日程は決まってんの?片瀬ちゃんも忙しいだろ」
「物件も日程も、もう決まってます。来週の金曜日がお昼には仕事終わるから、その日にしちゃおうかなって」
「俺、手伝い行く!」

片瀬さんの話を聞くや否や、その日オフだし!と、意気揚々と手を上げた環くん。そんな彼に、一織くんが腕を組みながらため息を吐く。

「四葉さん。来週の金曜日は、補習授業の日ですよ」
「そんなん、また今度でいいじゃん!」
「ダメです。先生方がわざわざ私たちのために調整してくださってるんですよ」

一織くんの言葉に駄々を捏ね始めるかと思った環くんは、意外にもすんなりとそれを受け入れて、そっか。と呟いた後、片瀬さんに目を向けた。
それに気が付いた片瀬さんは、笑いながら口を開く。

「こっちは大丈夫だから」
「…わかった。じゃあさ!補習終わったらななみんの家行く!それならいい?」
「勿論。家に合鍵置いておくの怖くて持ち歩いてるから、あとで渡すね」
「うっす。鍵、新しくしたんだっけ?」
「うん、一応ね」

それから、できれば人が多い方がいいのでは?という話の流れから、他に行けそうな人は居ないかと募ったが、生憎その日はみんなそれぞれの仕事が入っていて難しいという事が判明。
オサムさんも居るなら大丈夫だろう。という結論に至ったと同時に、スタッフさんから撮影準備完了の声がかかり、僕たちは楽屋を後にした。

それから1週間はあっという間に過ぎて、片瀬さんの引越しの日がやってきた。
しかし、この日まさかあんな事が起こるなんて、僕たちは誰も予想していなかった。



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