混ざり合う




お互い、そう言う気分の時だけ呼び出し、まるで作業のように事を済ませて、朝が来る前に家に帰る。それが私たちの関係だった。

「今日はできないの」

だから私のこの一言に、いつもは気怠げな目が丸くなるのも仕方ないと思う。

「なんで?」
「アレだから」
「…じゃあ、何で来たの?」
「…なんとなく」

そう。と、覆い被さっていた体を起こしながら彼、千は呟いた。
それもそのはずだ。今日は千の方から呼び出しがあった。つまり、千は『今そう言う気分』って事で、できない私を必要としていない。
そうはわかっていても、彼に呼ばれたら舞い上がってしまうし、一目でもいいから会いたいと思ってしまうのは仕方ないと思う。だって私は、関係を持つ前から彼の事が好きだから。

「…他の子、呼ぶ?」

体を起こしながら尋ねれば、千は首を傾げた。

「え?呼ばないよ。今はこういうことする相手、君しか居ないし」
「…なんで?」
「他の子だと物足りないんだ」
「そう、なんだ…」

嘘かもしれない千の言葉に、口元が緩みそうになったのがわかって、慌ててきゅっと力を入れる。きっと私の気持ちがバレてしまったら、面倒くさいと思われる。そしたら私はもう、千に抱いてもらえないから。
そんな私を彼がじっと目つめていると気が付いた時には、私の体は再びベッドの上へと逆戻り。突然の事に驚いて瞬きをしていると、千の顔が目の前にあって、そのまま触れるだけのキスをされた。

「今日はキスだけで我慢するよ」

その言葉を合図に何度もキスを繰り返す千の首に、私はそっと腕を回す。それと同時に触れるだけだったキスは次第に深くなっていく。
いつもより丁寧で優しい彼からのキスに、下半身が疼いた。
どれくらいの時間そうしていたかわからないくらい、私たちは何度もキスを繰り返し、どちらからともなく唇を離す。
音を立てて離れていった千の唇に、名残惜しさを感じた。

「…酷い女」
「え?」
「そんな顔されたら、ダメだとわかってても抱きたくなるだろ」

どんな顔?そう尋ねるより早く、再び唇が重なった。さっきみたいに優しいキスじゃなくて、少し荒っぽいキス。口内から頭に響く水音と、どちらのものかわからない荒い息が部屋に響く。
千の手が、私の腰を撫でては離れるを繰り返す。きっと触りたいのを我慢してるんだと思う。千のらしくない行動に戸惑いながらも、一瞬だけ太ももに当たった硬くなった千のモノに、身体が跳ねる。
あぁ、やっぱり来なきゃよかった。
今すぐ繋がりたいのに繋がれないもどかしさに、心の中でそう呟いた。

「ねぇ…抜くの、手伝おうか?」
「…いや、キスだけでいい」
「キス、そんなに好きだった…?」
「別にキスが好きなわけじゃないけど、体を重ねるだけのために君を呼んでるんじゃないって、そろそろわかって欲しいから」

君もそうだろ?千の言葉の意味を理解したと同時に、柄にもなく頬が熱くなる。バレてたんだ。私が千のことが好きだって。そして多分、千も私のことを…。

「…ちゃんとした言葉には、してくれないの?」
「したらきっと、我慢できない。挿れてもいいなら言ってあげるよ」

たった2文字の言葉も千も、どっちも欲しいのに、今はどっちも叶わない。こんなにももどかしい気持ちを抱いたことが、今まであっただろうか。

「奈々美」

今日初めて呼ばれた名前。ただ呼ばれただけなのに、まるで好きだと言われているような錯覚に陥り、私は我慢できず千の唇に噛み付いた。

キスだけでイけそうだ。

耳元で囁かれたその言葉に、私の中から溢れたものは、きっと純粋な赤じゃない。



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