背中に描く




「モモちゃん、そういえばさっき気が付いたんだけど」
「え?」

ご飯を食べたあと、2人ベッドの上でのんびりごろごろしてると、奈々美が急に声を上げた。なになに?と問いかければ、奈々美は上体を起こし、真剣な顔でオレを見つめ、こう言った。

「今年のバレンタイン、もう終わっちゃってない?」
「え?あ、うん。終わっちゃってるね」

だよね〜…。そう言ってうつ伏せになり枕に顔を埋めた奈々美は、唸りながら足をバタバタさせ始める。
どうやら、昨日まで海外で撮影をしてた奈々美の頭からは、すっかりバレンタインの事が抜けていたらしい。
オレはいつもお世話になってるスタッフさんからもらったし、バレンタインの存在を忘れてはいなかったけど、あえて自分から言うものでもないし、チョコレートが欲しい!と駄々をこねる年齢でもないから、気にしてないんだけど…。
そんなオレとは打って変わってめちゃくちゃ落ち込んでる奈々美の頭を、ぽんぽんっと叩けば、ゆっくりと顔だけをオレの方に向けた。眉を下げて罰の悪そうな表情を浮かべている奈々美に、思わず笑みが溢れる。

「…ずっとなんか忘れてると思ってたの」
「ううん。忙しかったんだからしょうがないよ。気にしないで!」
「ごめんね」

お詫びのハグ!と言いながらオレのお腹の上に乗って、ぎゅー!っと力を込めた奈々美を、同じ強さで抱きしめ返す。しばらくそうして抱き合った後、奈々美が再び口を開いた。

「…ねぇ、モモちゃん。明日どっか行かない?」
「えっ」

突然のお誘いに瞬きを繰り返していると、眉を下げた奈々美。彼女が何を考えてるかがわかって、オレは腕の力を込めた。

「気にしなくていいってば」
「…私の気が済まないんだもん」

チョコをあげられなかった代わりに、どこか行かないか?という事なんだろう。こういうところは頑なな奈々美は、行きたいところない?と首を傾げながらオレの返事を待ってる。

「うーん。じゃあ、折角だからさ」
「うん!」
「家でゆっくりしたいな。また忙しくなって会えなくなっちゃうじゃん?だからその分、充電しときたいなって!」

どう?と尋ねれば、深く息を吐いて脱力をした奈々美の頭を撫でる。さらさらの髪を指で梳いていると、彼女が耳元で呟いた。

「…私も充電しないとダメ」
「じゃあ決まり!」

細い体を抱きしめたまま体を反転させて、向かい合うように横になると、奈々美がぽつりと呟いた。

「…モモちゃん好き」
「うん!オレも好き!」
「私の方が好きだよ」
「えー?絶対オレの方が好きだよ?」

私だよ!と言いながら勢いよく顔を上げた奈々美の唇にそっと近付けば、それを阻止するように隙間に手が差し込まれる。
突然の事に照れたのか、一気に赤く染まった頬を指で突けば、奈々美は再びオレの胸に顔を埋めた。

「…不意打ちは禁止です」
「オレの方が好きって伝えたかっただけなのに!」
「…絶対私の方が好きなのになぁ」

その言葉と同時に、背中に回っている奈々美の指が、ゆっくりと動き始めたのがわかった。初めはくすぐったいよなんて笑っていたけれど、それがある形を描いている事に気付き、くすぐったさとは違う笑いが溢れる。

「…伝わった?」

様子を伺うようにゆっくりと顔を上げた奈々美に、オレは返事の代わりにキスをしながら、彼女の背中にハートを描いた。



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