数秒後の俺達は




「本当、最低な男だった!」

幼馴染の奈々美から、飲みに行こう!と連絡があったのは数時間前。
本当は仕事が終わった後、すぐに帰って都築先生の新作を読みたかったが、俺は誘いを断り切れず今こうして居酒屋で、かれこれ1時間以上奈々美の愚痴を肴に酒を飲んでいる。

「…またその話かよ」
「だって、俺の事が好きなら、俺好みの女になれ!とか言って、髪切られたんだよ?!あり得ないでしょ?!」

肩につかないくらいの長さに切り揃えられた髪を一房取って、あー!また腹立ってきた!と勢いよくジョッキを傾けた奈々美に、思わずため息を吐いた。

半年前、奈々美から彼氏ができたと聞かされた時、どうせまたすぐ別れるだろうって思った。こいつは男を見る目がない。いつも3ヶ月もてばいい方だ。
だから今回は長く続いてて、順調なんだと勝手に思ってたが、どうやらそうではなかったようだ。

「お前、本当男見る目無いよな」
「私に見る目が無いんじゃなくて、この世に変な男が居すぎなの!」

アル中、ヒモ、DV…なんて、碌でも無い男の特徴を挙げながら指を折る奈々美は、途中で思い出す事を放棄して目の前の唐揚げを頬張った。

「ねえ、誰かいい人いない?」
「いねえよ」
「えー。職場の人は?警察官ならまともな人しかいないでしょ?」

奈々美に言われて思い浮かべた3人は、いい人達には違いないが、一癖も二癖もあって"まとも"と言えるかどうかは疑問だった。まぁ、こいつが今まで付き合ってきた男達と比べればまともには違いないが。

「…お前に紹介できるような人はいない」
「ちぇーっ。蒼生の知り合いなら、信頼できると思ったのに」

メニューを片手にため息を吐いた奈々美に、俺は問いかけた。

「…俺じゃダメなのかよ」
「は?」

俺の言葉に数秒動きを止めて俺を一瞥した奈々美は、目を泳がせながら笑ったあと、再びメニューに目を落とした。

「冗談やめてよ。何、急に」
「急じゃねえ」

いつもこいつの別れ話を聞く度に思ってた、『俺じゃダメなのか』って。
昔から一緒にいて、お前の事を一番わかってるのは俺なのにって、そう思ってた。

「蒼生、酔ってるんじゃない?」
「…だとしても、本心だ」
「いやいやいや」
「ダメなら、理由聞かせろよ」

真っ直ぐ見つめてそう言えば、奈々美はメニューで顔の下半分を隠して目を逸らしながら呟いた。

「別に、ダメって、わけじゃないけど」
「けど、なんだよ」
「蒼生のこと、そういう風に見たこと無いし、ほら、私たち幼馴染だし」
「そんなの関係ねえだろ」

女なんて正直興味ねえ。彼女なんて居ても煩わしいだけだし、できたところで仕事が最優先だ。構ってやる時間だって、余裕だって無い。
でも、こいつがまた変な男に引っかかって、傷ついて、それを強がりで隠してる姿を見るのも、ただ愚痴を聞かされるのも、もうごめんだ。

「俺にしとけ」

そんな柄にも無い言葉を躊躇いもなく言ってるあたり、奈々美の言う通り俺は酔ってるのだろう。
それでもやっぱり、この言葉は本心以外のなんでも無い。

聞こえるはずのない腕時計の秒針が、カウントダウンを始めた数秒後、目の前の赤い顔が縦に動いた。



back


novel top/site top