初めまして、恋
放課後、友達からの誘いを断って一目散にやってきた学校の近くのゲームセンター。
今日入荷の王様プリンのぬいぐるみがどうしても欲しくて、入荷の日も事前に確認して、これでもかってくらい気合を入れてやって来たのだけれど…。
「あああ!また落ちた…!」
お目当てのものは全く取れる気配がなく、正直絶望しか感じない。どうしよう…。財布の中身を見てため息を吐いていると、不意に声をかけられた。
「それ、取りてえの?」
「え?あ、はい…」
振り返れば、背の高い水色の髪の男の子と、少し離れたところに綺麗な顔した黒髪の男の子が立ってた。2人ともブレザーを着ているから高校生なんだと思う。
「ふーん」
「あの、お兄さんもこれ狙いですか…?」
「…そう。でも、ラスト1個なのな」
「そうなんですよね…。でも、全然取れなくて、私もう諦めようと思ってたので、どうぞ」
床に置いていた鞄を肩にかけ、軽く会釈をして、私はゲームセンターを後にした。
財布の中身を覗けば、残っているのは500円玉が1枚。本当はあと500円分やろうと思ってたけど、どうせ取れない。それなら、クレープでも食べて帰ろう。
そう思い立ってゲームセンターの隣のクレープ屋さんで、500円で買える一番豪華なクレープを注文したと同時に、横から声をかけられた。
「なぁ」
そこに立っていたのはさっき、クレーンゲームの前で声をかけてくれた水色髪のお兄さん。その手には王様プリンのぬいぐるみが握られている。
「あっ、さっきの…!ぬいぐるみ、取れたんですね!」
「おう。これ、あんたにやるよ」
ずいっ!と勢いよく差し出された王様プリンのぬいぐるみに戸惑う。
やるって、くれるって事?なんで?私の考えがわかったのか、彼は頬をぽりぽりと掻きながら呟いた。
「俺、もう持ってっから」
「え?でも、このぬいぐるみ今日からの…」
「いーの!!ほら、これはもうあんたの!」
そう言って私のカーディガンの裾を引っ張り、お腹の部分にぬいぐるみを押し込んでくる彼。
え?!何なのこの人!!突然の事に驚いている私を、店員さんが呼んだ。どうやら、クレープが完成したようだ。
「大事にしろよ!じゃあな!」
カーディガンの上からぬいぐるみをぽんぽんと叩き、そそくさとその場を去ろうとする彼を、私は慌てて呼び止めた。
「あっ、あの!」
私の声に振り返った彼の元に駆け寄って、出来立てのクレープを差し出せば、今度は彼が驚いた表情を浮かべる。
「これ、お礼です!」
「は?別に、お礼なんていらねーし!」
「いいんです!私がしたいだけなので!」
ほら!受け取ってください!と彼の顔の前にクレープを差し出せば、彼は戸惑ったような表情を浮かべたあと、大きく口を開けてクレープに齧り付いた。
「ん。うめー。あんがとな!」
口の端についたクリームを指で拭いながら笑った彼のその表情に、なぜだか頬が熱くなる。
かっこいい人だな。
生まれて初めて、そんな気持ちを抱いた。
「四葉さん、そろそろ時間です」
「おー、今行く。んじゃあな!」
四葉さんと呼ばれた彼は、そう言って黒髪の男の子の元へと歩みを進める。その途中、振り返って彼は自分のお腹を叩きながらニカッと笑い、大きな声でこう言った。
「そのまんま帰んなよ!」
そう言われて、そういえばお腹にぬいぐるみを詰められたままだった事に気が付いた。
慌ててカーディガンからぬいぐるみを出し、抱きかかえ、彼らが歩いて行った道に顔を向けたが、他の人よりも高い位置にある水色の頭はもう、随分と遠くに行ってしまっていた。
「これ、どうしよう…」
まるごとあげるつもりだったのに、大きな一口分だけ無くなったクレープを見つめながら、私は少し早くなった鼓動を落ち着かせるため、暫くその場に立ち尽くしたのだった。
「よかったんですか?」
「何が?」
「ぬいぐるみです。四葉さんも欲しかったんでしょう?」
いおりんに言われて、さっきカーディガンに無理矢理詰めてきたぬいぐるみの事を思い出す。
確かに、欲しかったっちゃ、欲しかった。
でも、本当はぬいぐるみが目当てだったんじゃなくて、ゲーセンで何回か見かけてた、あの女の子と話したかっただけだった。なんて言ったら、いおりんはどんな反応すんだろう。
「んー、まぁ、目的は果たせてっし」
「…取りたかっただけって事ですか?」
そーそー。なんて、いおりんに適当に返事をしながら、さっき食べたクレープの味を思い出す。
「…プリン味だったな」
プリン、食べるのも好きなんだな。俺と一緒だ。なんて、名前も知らない女の子との共通点を見つけて、ちょっと嬉しくなる。
あーあー、次はいつ会えるだろ。次会えたら名前を聞いて、学校を聞いて、そんでもってラビチャも交換したい。
そんな事を考えたら、なんだか胸の奥がくすぐったくなった。
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