純情が目にしみる




「二階堂さん!おはようございます!」
「おー、片瀬ちゃん。おはようさん。今日も元気だな」
「はい!二階堂さんに会えるのが嬉しくて!!」

ドラマの収録現場でいつも元気に挨拶してくれるこの子、片瀬奈々美ちゃん。現役女子高生で、タマとイチと同じ学校の同じクラスらしい。
そんな彼女は、なぜか俺にめちゃくちゃ懐いている。

「二階堂さん、今日いつもとヘアスタイル違うんですね…!」
「あー…実は今日寝坊して。ここだけの話、これ寝癖」
「えっ?!そうなんですか?」

二階堂さんも寝坊なんてするんですね。
そう言ってくすくす笑ってる片瀬ちゃんは、正直かなりかわいい。
しかし、俺くらいの年からみると、申し訳ないけれど女子高生ってやっぱり子どもだ。そういう対象には見れない。
いや、別に告白されたとかそういうわけではないんだけど…。

「奈々美ちゃん、今ちょっといい?」
「おはようございます!大丈夫です!」

そんな事を考えていたら、数人の男性スタッフが彼女に声をかけた。先頭のスタッフは、何やら大きな紙袋を手にしている。

「これ、俺たちからお返し。まとめてでごめんね」
「えっ!そんな!わざわざありがとうございます…!」
「気に入ってもらえるといいんだけど。あ、二階堂さん。お話し中すみませんでした」

それじゃあ、失礼します。と、ぞろぞろ持ち場へ戻っていくスタッフたちに、なんだったんだ?と首を傾げていると、片瀬ちゃんがその紙袋を抱きながら嬉しそうに笑った。

「片瀬ちゃん、もしかして今日誕生日とか?」
「え?ああ!違いますよ!バレンタインデーのお返しをいただいたんです」
「バレンタイン…お返し…?!」

そう言われてようやく気が付いた。今日は3月14日、ホワイトデーだ。やばい、すっかり忘れていた。
いや、ただ忘れていただけなら構わない。
しかし、目の前でお返しの紙袋を嬉しそうに抱きしめている片瀬ちゃんからは、俺もチョコレートをもらっているのだ。そして、なんなら誕生日プレゼントまでもらっている。

寝坊して忘れたって言うか?いや、でもそもそも用意してないし…。よし、ここは素直に言うしか無い。俺は意を決して、口を開いた。

「あー…ごめん、片瀬ちゃん」
「どうしました?」
「あのさ、今日がホワイトデーって、すっかり忘れてて」
「え?あっ!全然!大丈夫です!!その、私が渡したくて渡しただけなので…!」

ほんと!気にしないでください…!
そう言って顔の前でぶんぶんと手を振る片瀬ちゃんは、そう言いながらもほんの少し寂しそうな表情を浮かべている。これが他の人なら気が付かないふりをするのに、なぜだかそれができなかった俺は、ある提案をした。

「あのさ、片瀬ちゃん。代わりと言っちゃなんだけど」
「はい?」
「お兄さんが片瀬ちゃんの言うことなんでも聞きます」
「えっ…?!ほ、本当ですか?」
「まじまじ。ほら、なんでも言ってみなさいよ」

欲しいものは?1日パシリでもいいぞ。そんな事を言いながらけらけらと笑っていると、目の前の片瀬ちゃんの頬がほんのり染まっていることに気がついた。

あ、やばい。これ、彼女にしてくださいとか言われるんじゃ…?いやいや、お兄さんも一応アイドルだし、片瀬ちゃんは未成年だし、それはまずいだろ。よし、先手を打っておこう。

「あ、あのさ片瀬ちゃん…」
「じゃあ、1個だけいいですか…?」

同じタイミングで声を上げた俺たち。すみません。と謝りながら、頬を赤くして上目遣いで俺をみる奈々美ちゃんを見て、確信した。

これは、告白に違いない。

なるべく早く傷つけないように断らないと。そんな事を考えながら、何かある?と問い掛ければ、奈々美は小さく頷いた後、こう呟いた。

「下の名前で呼んでもらえませんか?」
「ごめん。俺も一応アイドルだからそれは…って、え?」
「…やっぱりダメ、ですか」

紙袋をぎゅっと抱きしめて、顔を半分隠した片瀬ちゃんは、しゅんと音が聞こえて来そうなほど落ち込んでしまった。そんな彼女の、俺はお願いをもう一度聞き返す。

「ごめん、何て言った?」
「その…下の名前で、呼んで欲しいなって…思って…。でも、ダメならいいんです!全然、そのえっと、あっ!ジュース!りんごジュース飲みたいです!って…二階堂さん?」

パイプ椅子の背もたれに寄りかかりながら天を仰いでいる俺に片瀬ちゃんは、大丈夫ですか?と優しく声をかけてくれる。
いや、そうだよな。普通に考えて告白なんてありえないよな。何を浮かれてたんだ俺は。
数秒前の自分に呆れながら、眉間を指で強めに摘んだ。

「あの…どこか体調でも…?」
「いや!全然!めちゃくちゃ元気!んじゃまあ、とりあえずりんごジュース買いに行きますか」
「えっ、あの」
「ほら、早く行かないと撮影始まっちゃうぞ?奈々美ちゃん」

そう言って立ち上がり、自販機に向かって歩き出そうとした俺の背後で、パイプ椅子が倒れる音が聞こえた。
振り返ればパイプ椅子から落ちた奈々美ちゃんが、真っ赤な頬を両手で押さえて俺を見上げている。

「えっ、ちょっ、大丈夫か?」
「あの、二階堂さん…。私、今すごく幸せです…!」

きらきら輝いた純粋な瞳に、俺の頬もほんの少し熱をもった気がした。ああ、せめて自分も未成年だったらな。なんて、柄にもなく思ったのだった。



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