2人ならなんでも楽しい




「ねえモモちゃん。一緒にこれ作らない?」

久々にオフが被った今日。いつも通り2人でのんびり過ごしている最中、奈々美からそう言われて手渡されたのは、見覚えのある字で書かれているお菓子のレシピだった。

「なになに?三月から教えてもらったの?」
「そう!マフィンなんだけど、レシピと一緒にいろいろいただいちゃって」

すごくかわいいの!と、奈々美が紙袋から取り出したのは色とりどりのカップや飾りたち。なんでも、ロケに行った時にいいお店を見つけたからと、奈々美の分も買って来てくれたのだとか。

「へー!さすが三月!でもオレお菓子作りとか全然だけど」
「それは私も相変わらずだから大丈夫!」

胸を叩きながらドヤ顔で言った奈々美に、オレは思わず笑ってしまう。
バレンタインに三月からお菓子作りを教えてもらった奈々美は、それ以降何度かお菓子作りに挑戦していたが、忙しくなって作れない期間ができてしまったと同時に、どうやらお菓子作りのノウハウがリセットされてしまったらしい。

「三月くんにまたお菓子作れるようになりたいんだよねって相談したら、じゃあ簡単なものを百さんと一緒に作ってみたらどうですか?ってこのレシピを教えてくれたんだけど…」

顔を若干俯かせて上目遣いでオレの顔色を伺う奈々美が、何を言おうとしてるのかわかって、オレは慌てて首を左右に振った。

「ダメじゃないよ!イヤでもない!」
「じゃあ…!」
「うん、一緒に作ろ!」
「やったー!」

俺の言葉に目を輝かせてオレの胸にダイブしてきた奈々美を抱きとめる。
それがなんだかかわいくて、ぎゅーっと腕の力を強めれば奈々美は、痛いよー!と言いながらも、楽しそうにけらけらと笑い声を上げた。







「よし!やりますか!」

材料と器具を用意して、キッチンに並んだオレと奈々美。ちなみに三月がプレゼントしてくれたお揃いのエプロンを身につけている。

「はい!よろしくお願いします、モモちゃん先生!」
「え?!オレが先生なの?」
「…絶対私よりモモちゃんの方が上手にできるもん」

オレの言葉に少し遠くの方を見ながらそう呟いた奈々美にオレは何も言えず、とりあえずレシピへと目を落とした。

「うーんと…?改めて見ると、工程少ないね。これなら失敗しないんじゃない?」
「本当に?さすが先生…!」
「ちょっ、先生はやめてよ!じゃあ、早速これとこれを混ぜて…」

こうして、レシピを見ながらせっせとマフィンを作り始めたオレたち。順調に進んでいると思った数十分後、オーブンから出てきたマフィンを見てオレは絶句した。

「え?!なんで?!」

そこには、歪な形で焼き上がったマフィン達が並んでいたのだ。驚くオレを尻目に、奈々美は失敗したお菓子を見慣れているせいか、何事もないかのようにマフィンを一つ手に取って、そのまま口へと運んだ。

「…どう?」

オレの問いかけに奈々美は、んー!っと言いながら顔を上げる。
大きな目がいつもより大きく見開かれていて、見た目が悪いだけなんじゃないかと期待したのだが…。

「美味しい?」
「美味しくない!」
「えっ、美味しくないの?!」

期待虚しく、なんかボソボソしてる。とオレの口元にマフィマンを差し出してくれた奈々美。それにかぶりつけば、たしかに…なんか、ボソボソしてるし…心なしか苦い気がする…。

「…美味しくないね」
「ね〜」
「何がいけなかったんだろ?!」

お菓子作りって失敗すると、こんなにもショックなものなんだな…。そんな事を考えながらレシピを読み返し、その後も何度か挑戦するも毎度同じ失敗。
最早芸術作品のような大量のマフィン達に2人で顔を見合わせた。

「先生、これどうしましょう?」
「…どうしようか」

何がいけないんだろう?と頭を捻るオレと打って変わって、奈々美が楽しそうにくすくすと笑い始める。

「えっ!なんか面白かった?」
「ううん。1人だったら、こんなに失敗したら嫌んなっちゃうけど、モモちゃんとだったら失敗してもなんだか楽しいなって」

そう言った奈々美は本当に楽しそうで、その笑顔に吊られてオレの顔も綻ぶ。

「奈々美が楽しいならよかった!」
「楽しいよ!でも、そろそろ成功させないと!三月くんに写真送る約束したし!」

胸の前でぐっと拳を握った後、再びレシピを見ながら生地を作り始める奈々美。頑張ってる彼女を眺めているとオレはある事に気が付き、慌てて奈々美を呼び止めた。

「ちょ!ちょっと待って奈々美」
「なに?」
「それ、ベーキングパウダーだよね?」
「そうだよ!生地膨らませるやつ!」
「…もしかして、毎回その量入れてた?」
「え?うん!」

不思議そうに首を傾げている奈々美が手にしているのは、小さじスプーンに山盛りのベーキングパウダー。

「たくさん入れた方が膨らむと思って」
「…あの、すごく言いづらいんだけどさ、多分、それが原因、かも」
「えっ!」

ほら。と、レシピの最後に書かれている注意書きを指差し2人で読み上げる。

『※ベーキングパウダーの量は守ること!
奈々美さんの事だから、いっぱい入れたらいっぱい膨らむ!って思ってるかもしれませんけど、入れすぎるとうまく焼き上がりません!』

読み終わったあと、奈々美とオレは再び顔を見合わせて同じタイミングで吹き出した。

「あははっ!三月、こうなること予想してたんだ!」
「えー!やだー!恥ずかしい!」
「でも原因がわかってよかった!」
「たしかに…」
「じゃあ!気を取り直して、また1から一緒に作ろっか」

うん!と勢いよく頷いた奈々美が、これまたすごく楽しそうで、オレの唇はまた自然と弧を描いたのだった。


翌日、成功したのが嬉しくて大量に作ってしまったマフィンを、会う人みんなに配り歩く奈々美の姿が目撃されたのは、また別のお話だ。



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