不可抗力
「百ちゃんはいつも笑顔だね」
なんとなく投げかけた言葉に、彼は笑いながらこう答えた。
「うん!いつも好きな人と一緒にいられるからね!」
彼と私の関係はただの仕事仲間だ。
アイドルの彼と、その専属のスタイリスト。それ以上でもそれ以下でもない。
しかし、私は彼密かに思いを寄せていたりする。
国民的アイドルなのに親しみやすくて、いつも笑顔で人間的にも素晴らしい。ルックスもいい上に性格もいい百ちゃんと毎日のように一緒に居て、好きにならない女が居るなら会ってみたい。
「それ、ちょっとわかるかも」
「本当に?!好きな人と一緒にいられる時間って、最高にハッピーになれるよね!」
「どんな仕事も頑張れるよね」
「そうそう!」
今日の番組にはこっちの衣装の方が合うかな。
両手に持っている衣装を彼に当てながら、百ちゃんの言葉に相槌を打っていると、彼はうーん。と何やら唸り始めた。
「あ、こっちの衣装の方がいい?」
ラックに戻した衣装を改めて百ちゃんの前に掲げれば、彼は違う違う!と手を顔の前で左右に振った。
「ユキの事だと思ってるでしょ?」
「え?」
「オレの好きな人」
「えっと…」
千さん以外に、誰がいるんだろうか…。もしかして、専属のメイクさん…?でも彼女は結構年上だった気がする。もしかして、百ちゃんはそういう人がタイプなのかな…。いや、もしかしたら最近よく共演してる女優さんかも。
瞬きを繰り返しながら、頭の中でいろんな可能性を考えていると、百ちゃんは大きな笑い声を上げた。
「えっ?!なに?!」
「ごめんごめん!顔色ころころ変わるのが面白くって、つい!」
「もー!どうせ千さんなんでしょ!その好きな人って!」
真剣に考えて損した。とため息を吐いたと同時に聞こえてきた百ちゃんの言葉に、心臓が大きな音を立てて、顔が熱くなるのがわかった。
「今、目の前にいるって言ったら、どうする?」
真っ赤に染まったであろう私の顔を見て、彼は楽しそうに口角を上げた。
ああ、この人を好きにならない女が居るなら、本当に会ってみたい。
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