校門前でのあれやこれや




「あなたが春原百瀬くん?」

グラウンドの整備の関係で部活が早めに終わったある日の放課後、校門を出ると同時に見知らぬお姉さんに声をかけられた。
その人はスーツを着ていて、それでいてなんだか威圧感がすごくて、オレは内心でビクビクしながら頷く。

「そう、ですけど…あの、どちら様ですか…?」

オレを上から下まで舐めるように見た後お姉さんは、失礼。と言って1枚の名刺を差し出した。
受け取ったそれには『星影芸能事務所 マネージャー 櫻井ゆうこ』と記載されていて、もしかして。とオレが声を上げようとしたタイミングで、櫻井さんから声をかけられた。

「奈々美の担当マネージャーの櫻井です。あの子がいつもお世話になっているみたいで」

ありがとう。と頭を下げた櫻井さんに、オレは慌てて顔の前で手を振る。

「いや!お世話なんて全然!」
「あなたのおかげで、あの子学校が楽しいみたい。いつもあなたの話ばかりしてるわ」
「え?」
「まぁ、最近はなんだかいろいろあるみたいね」

詳しくは知らないけど。その言葉と共に櫻井さんの目つきが一瞬鋭くなったように感じて、思わずたじろぐ。
めちゃくちゃこわいんだけど!!と、内心で冷や汗をかいていたら背後から聞き慣れた声が聞こえた。

「春原くん?」
「えっ!あ、片瀬さん…!」

振り返ればそこに居たのは松葉杖をついている片瀬さんだった。彼女はきょとんとした顔でオレを見た後、オレの後ろに視線を移して、はっ!とした表情を浮かべる。

「ゆうこちゃん?!なんで居るの?!」
「何でって、ラビチャ送ったでしょう?まさか…」
「あ…ごめんなさい、仕事用のスマホ見てなかった、です」

あはは…。と乾いた笑いを漏らした片瀬さんと打って変わって、櫻井さんは大きなため息を吐く。2人の様子をハラハラしながら眺めていると、そんなオレに気が付いた片瀬さんが再び、はっ!とした表情を浮かべた。

「春原くん、ゆうこちゃんから何か言われた?」
「え?いや、あの…」
「いつもお世話になってるみたいだから、お礼を伝えただけよ」

櫻井さんの言葉に片瀬さんは安堵の息を吐く。

「聞かれちゃまずいことでもあったのかしら?」
「ない!ないよ!ないからね…!」

そう言って片瀬さんは、頬を染めながら必死な表情で詰め寄ってきた。その様子がすごくかわいくて、思わず笑い声を上げてしまう。

「春原くん、なんで笑ってるの?!」
「片瀬さん、めちゃくちゃ必死なんだもん」
「えっ…?!」
「はいはい。お楽しみのところ悪いけど、もうあまり時間がないわ。ごめんなさいね」

ほら、行きましょう。と車のドアを開けた櫻井さんに促され、片瀬さんが車に乗り込んだ。
ドアが閉まると同時に車の窓が開く。

「ばいばい、春原くん」
「うん。また明日」

控え目に振られた手に応えるように手を振り返せば、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
動き出した車を見送って、さてオレも帰るか。と、エナメルバックを背負い直したオレの背中に衝撃が走った。

「おい春原!なんだよ今の!」
「お前、佐藤さんという彼女が居ながら〜!」

のしかかってきたのは、同じサッカー部の田中と鈴木だった。興奮気味の髪を掻き乱されながらも、何とか2人の腕から逃れる。

「ちょっ!それ誤解だって!」
「何が誤解なんだよ〜!!」
「オレと佐藤さんが付き合ってる、ってやつ!」
「何を今更!」
「はっ!もしかしておまえ、二股してんのか?!」
「二股?!してない!するわけないじゃんか!と言うか、誰とも付き合ってないって!」
「ほー。しらを切るつもりか!これは取り調べが必要だな!」
「だな。連行します!」
「取り調べ!?連行!?」

なにそれ!と驚いているオレを他所に、ほら行くぞ!とオレの両腕を左右からがっしりと掴み歩き出した2人。
まるで本当に連行されているかのような形で、オレは強制的に学校を後にした。



back


novel top/site top