相思相愛
「…羽鳥くん、また他の女の人見てる」
デート中、急に足を止めたかと思えば口を尖らせながらそう呟いた奈々美ちゃんに、俺は首を傾げる。
それと同時に彼女の大きな瞳がいつもの半分ほどの大きさまで細められた。どうやら彼女はご機嫌斜めらしい。
「さっきもお店の前に居た女の人のこと見てたし、今だってあそこの女の人見てたよね」
そう言って彼女が向いている方に目をやれば、そこにいたのは見知らぬ女性がスマホをいじりながら立っていた。
その女性は確かに数秒前まで視界に入っていたような気がしなくもない。
「いいな、って思ってたんでしょ」
「ん?思ってないよ」
「嘘だ。女の人見てニコニコしてたもん」
全部見てたんだから。と、そっぽを向いてしまった奈々美ちゃん。場違いとは分かっていても、その様子がとてもかわいくて口元が緩む。
「怒っちゃった?」
「…見ての通りです」
「ごめんね、白状するよ。見惚れてた」
「やっぱり…」
「でも見惚れてたのはあの女の人じゃないんだよね」
「他の女の人って事…?」
「まあ、そんなところ。誰に見惚れてたか知りたい?」
「えっ…!あ、いや…知りたいような…知りたくないような…」
そう言って俯いた奈々美ちゃんの手を引き、俺達がやってきたのはアパレルショップのショーウィンドウの前。
綺麗に磨かれたガラスには、俺たちの姿が映っている。
「えっ、何…?まさかこのワンピースでご機嫌取るつもり?その手には乗らないから!」
「確かに、このワンピースは奈々美ちゃんに似合うと思うけど、それよりも俺が見惚れてた人達を見せてあげようと思って」
「人達…?」
うん。と、ショーウィンドウを指差せば、奈々美ちゃんはそれにつられるように、再びショーウィンドウへ目を向けた。
「…私達以外誰も映ってないけど」
「うん。ここに映ってるのは、俺と奈々美ちゃんだけ。…俺が見惚れてた相手、さすがにもうわかったんじゃない?」
俺の言葉の意味を理解したらしい奈々美ちゃんは、気まずそうに目を泳がせている。
「つまり、ショーウィンドウに映ってた自分達を見てたってこと…?」
「そう。なんだか無性に、俺たちが並んで歩いてるところを見てみたくなったんだよね。でもそんなこと不可能だし困ってたんだけど、いいもの見つけちゃって」
細い腰に腕を回して、いつの間にかできていた隙間を埋めるように抱き寄せれば、初めこそ抵抗していた奈々美ちゃんも、次第に大人しくなった。
「びっくりしたよ。俺達って客観的に見てもお似合いなんだもん」
「…普通そういうのは自分から言わないんですけど」
「そう?でも事実だし」
「はぁ…もうやだ。勘違いしてたの恥ずかしい」
ほんのり頬を染め、もういいから早く行こ!と俺の手を握って歩き出した奈々美ちゃん。その手を握り直せば彼女の歩く速度が落ちた。
隣に並んだ顔を覗き込んで俺は目を丸くする。奈々美ちゃんが落ち込んでるように見えたから。
「どうしたの?」
「いや、あの…疑っちゃって、ごめんなさい」
「気にしないでいいのに」
「でも」
「俺は嬉しかったよ。まさか奈々美ちゃんがヤキモチ焼いてくれるなんて思ってなかったから」
奈々美ちゃんは、初めて自分から好きになった女の子だった。
なかなか靡かなくて、言い方は良くないかもしれないけれど、落とすのに苦労した。それはもう、ものすごく。
何度目かわからない告白で彼女が頷いてくれた時は柄にもなく『これが幸せって事なのか』なんて思ってしまったほどだ。
そんな彼女がヤキモチを焼いてくれるなんて、そんなの嬉しいに決まってる。
「大丈夫、もう奈々美ちゃんにしか興味ないよ」
握っていた手の力を強めて、空いている手で柔らかな頬をそっと撫でる。それと同時にゆっくりとこちらを向いた奈々美ちゃんの顔は、先ほどよりも赤く染まっていた。
ただそれだけのことなのに、それがとても愛おしくて、胸に浮かんだ言葉を、気持ちを、余すことなく伝えたいなんて気持ちが溢れ出す。
今すぐ2人きりになりたいなんて、わがままをぐっと飲み込んだ。
「じゃあ、買い物の続きしようか」
歩き出そうとする俺の手を、待って。の言葉と共に奈々美ちゃんが引いた。
「どうしたの?」
「あの、さ…買い物の続きはまた今度にしない…?」
「え?」
何かあったのかと首を傾げれば、彼女は恥ずかしそうに視線を落としたあと、俺の耳元に唇を寄せて囁いた。
その言葉に、頷く以外の選択肢は無い。
「あのね、2人きりになりたくて」
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桃様リクエスト
大谷羽鳥 恋人、甘
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