向日葵と太陽@




「海、行きたいなぁ」

 TVで流れた海外旅行のCMを観ながら、奈々美がぽつりと呟いた。奈々美からどこかに行きたいと言うのは珍しく、え! と大きな声をあげてしまう。

「行こうよ!」
「行きたい!でも明後日から来月末までほとんどオフ無いんだよね」

 ほら見て。と、手帳を見せてくれた奈々美。そこにはびっしりとスケジュールが書き込まれていて、これは体力的にも難しそうだ。

「明日行く?」
「モモちゃんお仕事でしょ」
「……そうでした」

 奈々美の数少ない望みを叶えてあげられないなんて……! と悔しさを胸に再び彼女の手帳を眺めれば、ドラマの撮影やその番宣が続く中『写真集撮影』と書かれている期間が目に付いた。

「えっ、写真集出すんだ!?2冊目だっけ?」
「そう!久しぶりに出すの!クールキャラの縛りも無くなったし、なんていうか、等身大の私を皆んなに知ってもらおうって」
「めちゃくちゃいいじゃん!」
「ちょっと緊張するけど、楽しみだよ」

 奈々美の嬉しそうな笑顔を見て、彼氏のモモちゃん的には複雑だけど! というわがままな言葉をぐっと飲み込んだ。奈々美が喜んでるんだから、余計な事は言わない! 我慢できて偉いぞ、オレ。

「どこで撮影するの?」
「なんと沖縄です!」
「海じゃん!」
「……そうなんだけど、1人で行っても楽しくないもん」
「まぁ、そうだよね……」

 オレもたまに撮影で海に行くけど、超インドア派のユキは撮影が終わると同時に車に戻っちゃうから、1人で海を見る寂しさはわかる。

「向こうでオフ取れるの?」
「うん。1日だけだけど」
「そっか…。ちなみに、それっていつ?」
「えっと、撮影が順調にいけばこの日」

 どれどれ? と手帳を覗き込み、奈々美が指さした日をしっかりと頭の中のスケジュール帳に書き込んだ。

「なるほど……。撮影順調にいくといいね」
「うん!あっ、ちゃんとお土産買ってくるからね!」
「えー!ありがと!」

 楽しみにしてるね! と奈々美を思いっきり抱きしめながら、オレは愛しの彼女と最高の夏を送るために、おかりんと繰り広げるであろうバトルのイメトレを始めるのだった。





「って事で、この期間に夏休みちょうだい!」
「夏休み、ですか」

 翌日、オレは仕事終わりに事務所に寄り、おかりんに頭を下げている。
顔の前で両手を合わせ、拝むようにお願いー!! と叫べば、うーん。とおかりんの悩む声が。今まで夏休みなんていらなーい!と仕事をし続けてきたから困っているのだろう。

「休みの前後バリバリ働くから〜!」
「いいですよ」
「そこをなんとか!へっ?」

 イメトレ通りだともう少し渋られるはずだったのに……。こんなにすぐにOKが貰えるとは思わず、オレは間抜けな声を出してしまった。

「いいの!?」
「勿論です。どちらにしろ、どこかで休ませないととは思っていたので。まさか百くんが自ら休みが欲しいと言ってくるとは思ってなかったですけど」

 じゃあ、ここは空けておきますね。と、パソコンのキーボードを叩くおかりんに、ありがとうー! と抱きつけば、そのタイミングでユキが事務所にやってきた。

「あれ、モモが堂々と浮気してる」
「浮気なんてしてないよ!感謝の気持ちを全身で表現してただけ!」
「へぇ。おかりんはモモに何をしてあげたの?」
「百くんが夏休みを取りたいそうで、スケジュールを調整してたんです」
「夏休み?どこか行くの?」

 ユキからの問いかけに昨日の奈々美とのやり取りを話す。途中、いいね海。なんて言うもんだからユキも一緒にどうかと誘ってみたけど、案の定即断られた。

「ってことは、撮影現場に乗り込むんだ?」
「うん!その辺はもうゆう子ちゃんに許可得てるんだ!プライベートビーチ貸し切ってるし、スタッフもいつものチームで心配ないから特別にいいよってさ」
「へえ。よかったじゃない」

 楽しんでおいで。と優しく笑ってくれたユキにも感謝のハグをすればおかりんが、今日も仲良しですね。と笑ってくれた。
 それからお土産は何がいいかとか、前にロケで行ったここのお店良かったよね。とか、そんな話をしていたら、あっという間に1日が終わったのだった。



 ああ、夏休みが待ち遠しい! そんな子どものような気持ちで数週間を過ごし、やっと迎えた夏休み当日。現地に着いて早々に、ゆう子ちゃんに謝られた。

「えっ、明日のオフ無くなりそう?」
「そう。撮影が予定よりだいぶ押してて、時間取れそうにないのよ」
「奈々美、調子悪いの……?」

 オレの言葉にゆう子ちゃんは小さく頷き、少し遠くで撮影をしている奈々美に目を向ける。それを追いかけるように目を向ければ、そこにはぎこちない笑顔を浮かべている奈々美がいた。どうやら撮影に集中していて、オレにはまだ気付いていないようだ。

「今までずっとクールキャラで売ってきたのがよくなかったかしら。カメラの前で自然体っていうのがあの子には難しいみたい」

 盲点だったわ。とため息を吐いたゆう子ちゃんの言葉に納得してしまう。

「奈々美自身も、明るい役を演じるみたいに笑えばいいって思ってたんだろうけど、カメラマンさんにダメ出しくらいまくっててね。段々わかんなくなってきちゃっちゃったんじゃないかしら」
「どうにかなりそうなの?」
「まあ、まだ時間はあるから……。でも、どうにもならなかったら、今回はまたクール路線の写真集にするしかないわね」

 その言葉に、写真集の話をしていた時の嬉しそうな奈々美の笑顔が頭をよぎって、胸が痛くなる。

「休憩入りまーす!」

 スタッフさんの声でみんなが散り散りになる中パラソルの下に移動した奈々美は、遠くから見てもわかるくらいに落ち込んでいて、椅子の上に立てた自分の膝に顔を埋めている。

「ねえゆう子ちゃん、今奈々美に声かけてきてもいい?」
「……ええ。あの子も喜ぶと思うわ」

 頼んだわよ。なんて、言われてしまったら頑張らないわけにはいかない。
いっちょ、愛しの彼女を笑顔にしてやりますか! そう心の中で意気込んで、オレは奈々美の元へと足を向けたのだった。



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