答えは数時間後
朝、寝苦しさで目を覚ました。鼻をくすぐる甘い香りの元に顔を向ければ、まだ幼さの残る寝顔があって思わず笑みが溢れた。
それにしても苦しい。背中に回っている腕から逃れようともがくも、その腕はびくともしなくて小さくため息を吐いた。
環くんはいつも私を抱き枕にして眠る。その力は最初こそ可愛いものだけれど、眠っているうちにどんどん強くなっていき、朝になれば金縛りにあったのかと思うほど身動きが取れず、今日のように寝苦しさで起きることも多々あるのだ。
「環くん、私もう起きるから離してー」
気持ちよさそうに寝ている環くんに声をかけながら背中に回っている腕を叩くも、彼は全く起きる気配がない。
「環くーん」
「んー……あと5分」
「うん、寝てていいから離して」
ほら。と再び彼の腕を叩くと、あろうことか腕の力は更に強くなった。私と環くんの間にあった僅かな隙間はゼロになり、甘い香りが強くなる。
「環くん苦しい……!」
彼の胸をドンドンと叩き、胸に埋もれていた顔をやっとの思いで上げれば、寝ぼけ眼の環くんと至近距離で目が合った。
「あれ、起きてたの?おはよう」
「はよー……。今ので起きたけど、まだ眠い」
今何時? とヘッドボードに置いてある目覚まし時計に手を伸ばした環くんの腕は、相変わらず私の背中に回ったままだ。
「んー……?なんだ、7時じゃん」
「私、持ち帰ってきた仕事あるからもう起きるよ」
「ダメ。ななみんは休みの日くらいゆっくり寝ろっていつも言ってんじゃん」
「でも」
「でもじゃねー!昨日も寝るの遅かっただろ。睡眠時間、絶対足りてねえから!」
私の言葉にさっきの寝ぼけ眼はどこにいったのかと思うほど眉を釣り上げた環くんは、目覚まし時計を元の位置に戻し、そのまま私の上にのしかかってきた。
「うっ!たっ、環くん重いっ!」
「ななみんがまだ寝るって言うまで退かねえし」
「わかった!まだ起きないから降りて……!」
背中を強めに叩けば、環くんは私の横にごろんと寝転び満足そうな顔で笑ったあと、力一杯私を抱きしめた。
「ははっ、今日も俺の勝ち」
「はいはい。今日も私の負けですよ」
実はこの攻防、数ヶ月前に睡眠時間が十分に取れずに私が体調を崩したのがきっかけで始まって以来、毎週末繰り広げていたりする。戦績は今のところ私の全敗。今日こそはと思ったけれど、今日もまた勝てなかった。
「ななみん本当弱いよな」
「環くん重いんだもん。王様プリンの食べ過ぎで太ったんじゃない?」
「はぁ!?太ってねーし!腹筋バッキバキだし!」
勢いよく起き上がってシャツをたくし上げた環くんは、ほら! と自身のお腹を自慢げに披露した。確かに彼の腹筋は割れていて、見惚れてしまうほどだ。
「本当だ。すごいね」
「だろ!俺、めっちゃ筋トレしてっから!」
勢いよく寝転がった環くんの頭を、偉い偉い。と撫でれば、彼は照れたような表情を浮かべた後私の手を取り自身のお腹へと導いた。
「触んならこっち!」
「え!すごい硬い」
「だろ!ななみんとは真逆だろ?」
「え?」
「ななみんのお腹、柔らけえじゃん」
そう言って私のシャツを捲った環くんの手を軽く叩き、私は唇を尖らせる。そんな私を環くんは首を傾げて不思議そうに見ていたかと思えば、ああ。と納得したように小さく声を上げた後、チュッと音を立ててキスを落とした。
「えっ、いきなり何?」
「何?って、チューしたかったんじゃねえの?」
「なんでそう思ったの!」
「だって、唇出てたから」
「それは、怒ってただけ!」
「怒ってたあ?なんで」
「……お腹、柔らかいって言われたから」
自分のお腹をさすりながらそう呟けば、環くんは眉を顰め再び首を傾げる。その表情からして、本当にわかっていないようだ。
「なんで怒んの?」
「だって、柔らかいって太ってるって事でしょ!?」
「俺、太ってるなんて一言も言ってねーし」
環くんはそう言って私をぎゅっと抱きしめ、コツンとおでこをくっつけた。そして、顔色を伺うように上目遣いで私を見つめる。
「柔らかくて抱き心地良くて好き、ってこと」
「……本当に?」
「本当!ななみん全然太ってねえから!……でも、怒らせたなら謝る」
ごめんなさい。と申し訳なさそうに眉を下げた環くん。その表情が可愛くてつい笑い声をあげれば、今度は環くんの唇が尖った。
「何笑ってんだよ」
「環くんが可愛くてつい」
「あ!かわいいって言うの禁止つったじゃんか!」
「ごめんごめん」
「……ななみん、俺今怒ってっから」
「うん。だからごめんって」
「そうじゃなくて!」
唇を尖らせたまま私を見つめる環くんが何を言いたいのかはすぐにわかったけれど、自分からキスをするのは恥ずかしくて、私は逃げるように環くんの胸に顔を埋めた。
「あ〜、目覚めたと思ったけど眠くなってきちゃった」
「は?」
「環くんの言う通り睡眠時間足りてないみたい。ほら、環くんもまだ眠いんでしょ?一緒に寝よ」
「えっ、ちょっ、ななみん」
「おやすみなさーい」
環くんの言葉を全部無視して瞼を閉じれば、環くんの心臓の音が聞こえた。その音を聞いていたら本当に眠たくなってきてしまった私は、仕事は起きたらちゃんとやります。と神様に誓って、そのまま夢の世界へと旅立った。
夢の世界へ旅立つ瞬間、あー! という大きな声と一緒に、起きたら覚えとけよ。なんて言葉が聞こえた気がするけれど、それが現実なのか夢なのかはもうわからない。
その答えは数時間後、二度目の目覚めを迎えた時に、きっと環くんが教えてくれるはず。
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四葉環 恋人、甘
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