描く未来
「ねーねー、巳波くん」
「今いいところなので話しかけないでください」
恋人の巳波くんの事が、私はよくわからない。今日だってこうやって私を家に呼び出したのは巳波くんなのに、私の事を放ったらかしにして彼はずっと本を読んでいる。巳波くんと一緒に居られるのは嬉しいけど、正直言って退屈だ。
「ねー、巳波くんってばー」
「聞こえませんでしたか?」
「……聞こえてました」
向けられた綺麗な笑顔に圧を感じて口を閉じる。あーあー、つまらない。ソファから立ち上がり巳波くんの部屋を歩き回るけど、そんな事で潰せる時間なんかたかが知れていて、私は再びソファに腰を下ろした。
ソファの上に膝を立てて、巳波くんの横顔をじっと見つめる。巳波くんは本当に綺麗な顔をしてると思う。透き通るような肌、長いまつ毛、通った鼻筋――上げたらキリがないほど全てが完璧で、見惚れてしまうほどだ。
「……何してるんですか?」
「暇だから、巳波くんを観察しようと思って」
「やめてください」
「……じゃあ構ってくださーい」
巳波くんの太ももをつつきながら拗ねたように呟けば、彼は大きなため息きながら音を立てて本を閉じた。
「仕方ないですね」
「やった!」
「それで?奈々美さんは私に何をして欲しいんですか?」
「え?」
構って欲しいと言ったものの、いざ何をして欲しいのかと聞かれると特に思い浮かばない。困っている私を見て巳波くんは私の手を取った。
「手相占いでもしましょうか」
「占い!して欲しい!」
姿勢を正して巳波くんに向き直れば、彼はくすくすと笑い声を漏らした後私の手をじっと見つめた。
占いだとわかっていても、好きな人に自分の体の一部を見つめられるのは緊張する。手、カサついてないかな? ハンドクリーム塗っておけばよかった。なんて事を考えていると、巳波くんがぽつりと呟いた。
「生命線がものすごく長いですね」
「え!それって長生きするって事?」
「そう言われてます。……頭脳線は短めですね」
「……それって、バカってこと?」
「ふふっ、どうでしょう」
「……あとで調べます」
その後もこの線は何を指してるとか、ここに線があるから運がいいとか、いろいろ説明してくれた巳波くん。ふと、手相と言えばよく聞くあの線について聞いてみる事にした。
「ねえ、結婚線は?私、結婚できる?」
そう言えば、私の小さい頃の夢はお嫁さんだったな。そんな事を思い出しながら巳波くんの言葉を待つも、彼は私の手ではなく顔をただ見つめている。不思議に思って首を傾げると、巳波くんは私の指に自身の指を絡め始めた。
「みっ、巳波くん?」
「気になりますか?」
「え?うん!気になる!」
「できますよ。恐らく10年後くらいに」
「10年後……」
「ええ。将来的に子どもは2人、大きな桜の木がある家に住んでます」
「えっ!すごい!手相占いってそんなことまでわかるの!?」
「まさか。占いじゃないですよ」
くすくすと笑っている巳波くんの言ってる意味がようやくわかって、私は段々と頬が熱くなるのを感じた。だって、占いじゃないって事は、それってつまり……。
「えっと、あの、巳波くん」
「なんですか?」
「私、動物も飼いたいです」
「うさぎ以外なら検討します」
「ふふっ。あとね、お家はあんまり大きい家だと巳波くんが死んじゃった時寂しいかなって思うの。ほら、私長生きするみたいだから」
「大丈夫ですよ」
私もそう簡単には死にませんから。と笑った巳波くん。それはなんかちょっと長生きとは意味合いが違う気がするけど、巳波くんが楽しそうだからまあいっか。
「ねえ巳波くん」
「なんですか」
「えっとね、好きだよ!」
「急に何ですか?」
「急に言いたくなったの。巳波くんは?私のこと好き?」
絡み合ったままだった指にきゅっと力を入れて巳波くんの顔を覗き込めば彼は、まあ、そうですね。と呟いた後に綺麗に笑った。
恋人の巳波くんの事が、私はよくわからない。ついさっきまでそう思っていたけど、今ひとつわかったことがある。それは――
「10年後も一緒に居るのを考えるくらいには、好きですよ」
巳波くんは私が思っている以上に、私のことが大好きだって事だ。
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棗巳波 恋人、ほのぼの
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