一織BD
「一織くんって、昔はこんなにかわいかったんだね」
スマホに表示されている一織くんの幼少期の写真。くまのぬいぐるみを抱いてこちらを見上げる天使の様な彼とは打って変わって、今目の前に居る彼は眉間に皺を寄せてため息を吐いた。
「誰からもらったんですか、その写真」
「陸くん」
「まったく、あの人は……。今すぐ消してください」
読んでいた本を音を立てて閉じ、私を睨みつける一織くんと写真を見比べる。それに気付いた彼は呆れた様な表情で、私のスマホに手を伸ばしてそれを取り上げた。
「あっ!ちょっと!」
「消してくださいって言ってるでしょう……って、なんでわざわざロックしてるんですか」
「一織くんの事だから、写真を消そうとするだろうなと思って」
私の言葉に押し黙った一織くんは小さく咳払いをして、渋々私にスマホを返してくれた。
「七瀬さんみたいに、軽率に他の人に送らないでくださいよ」
「はーい!」
「はいは伸ばさない」
まったく。と文句を言いながら再び本を読み始めた一織くん。
なんだか無性に彼の隣に座りたくなった私は、正面の席から彼の隣に移動する。そんな私に一織くんは、なんなんですか。と言いながらも、少しずれてスペースを作ってくれた。
「一織くんってなんやかんや優しいよね」
「それって褒めてます?」
「褒めてるよ!それよりさ、この三月さんとのツーショットもかわいいね」
「その写真まで……」
「あ、これはねえ」
「わかってます。どうせ七瀬さんでしょう」
「ううん。これは環くん」
私の言葉に、一織くんが本日2回目のため息を吐く。それをBGMにスマホのアルバムを見ていると、本を読んでいたはずの一織くんが、画面をスライドさせていた私の指を止めた。
「ちょっと待ってください。この写真はなんですか?」
「え?これ?私の小さい頃の写真」
一織くんの小さい頃の写真を見ていたら懐かしくなって、親からラビチャで送ってもらった自分の幼少期の写真。それを穴を開くように見つめている一織くんは、そんな一織くんを見ている私の視線に気が付いたのか、姿勢を正して座り直した。
「かわいくて見惚れちゃった?」
「なっ!そんなはずないでしょう」
「えー。そうかな?自分で言うのもなんだけど、そこそこかわいいと思うんだけどなあ」
じゃあこっちは? と、別の写真を見せれば、一織くんは口元を隠しながら食い入るようにその写真を見始めた。
「かわいい……」
「ねっ?かわいいでしょ?」
「ごほんっ!……そもそも、幼少期は誰でもかわいいものなので、あなたの幼少期がかわいいのも当然です」
「まあ、それもそうか。一織くんですらこんなにかわいいんだもんね」
「私ですらって、失礼な人ですね」
「お互い様ですー!あーあー。こんなかわいい子に甘えられたら何でもしちゃうなぁ……」
再び画面に表示された幼少期の一織くんの写真を無意識のうちに指で撫でる。あ、今のは流石にキモかったかもしれない。冷ややかな視線が飛んでくると身構えたけれどそんなものは飛んでこなくて、代わりに肩にほんの少しの重みを感じた。
「一織くん?」
「今の私が甘えても、何でもしてくれますか?」
「えっ!?」
私の肩に寄りかかっている一織くんに目を向ければ彼は上目遣いで私を見上げている。それは、いつものクールでシャープな彼からは想像もできない可愛さだった。
「やっぱり、今の私じゃダメですか?」
私の手をそっと握りながら、まるで猫のように擦り寄る一織くん。あまりの近さに体が強張る。
「だっ、ダメじゃないです。……何でもします」
「本当に?」
一織くんは私が頷いたのを見て満足気に笑った後、私のスマホを指差していつもの表情で言い放った。
「なら、その写真を今すぐ消してください」
「えっ!?それは嫌!」
「あなた、何でもするって言ったばかりでしょう」
「言ったけど!」
「はぁ……。なら、あなたの写真を私に送ってください」
「え?」
ほら早く。と自身のスマホを指で叩いて催促する一織くん。それってつまり……
「一織くんも、私の小さい頃の写真が欲しいってこと?」
「は?」
「それならそうと言ってくれれば……」
「別に誰もそんな事言ってませんけど?都合のいいように解釈しないでください。あなたが私の写真を持っているのに私があなたの写真を持っていないのは不平等だと思っただけです。わかったらほら、早く」
ほぼノンブレスかつ早口でそう言った一織くんからの圧に勝てずに、私は彼のラビチャに幼少期の写真を送った。
「1枚しか来てませんが」
「うん。厳選して送ったの」
「何言ってるんですか?全部に決まってるでしょう」
「え?」
「全部です。1枚も漏れなく。全て」
キッ! と私を鋭い目つきで睨みつける一織くん。さっきのかわいさはどこに行ったの!? と心の中で叫びながら、私は写真を送り続けた。
暫くして、一織くんは自身のスマホと私を見比べた後、じっと私を見つめてきた。何か言いたげな一織くんに、私は首を傾げる。
「一織くん?」
「幼少期のあなたは、その……やっぱり、かわいいと思います」
「えっ?ありがとう」
「ただ……」
「ただ?」
「私は、今のあなたが1番……いや、やっぱり何でもないです」
そこまで言ってそっぽを向いてしまった一織くんの耳が真っ赤になっている事に気が付いて、心臓がきゅんっと音を立てた。
私も、今の一織くんが1番かわいいと思う! なんて言ったらきっと彼は、かわいいって言わないでください。って怒るんだろうな。そんな事を考えながら、私は目の前の背中に思い切り抱きついたのだった。
2022.01.25
HAPPY BIRTHDAY IORI
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