アップダウン
「この学校を選んだ理由?」
翌日の昼休み、お弁当を食べながら早速例の質問をぶつけてみた。突然の質問に片瀬さんは首を傾げている。
「実は前からちょっと気になってたんだよね」
「そうなの?」
「うん。あ!ちなみにオレは、サッカーが強いから!」
「卒業生にサッカー選手いっぱいいるもんね」
「そうそう!小さい頃通ってたクラブのコーチもこの学校出身だったんだ!そのコーチがめちゃくちゃいい人でー……って、オレばっかり話してごめん!」
片瀬さんはオレの話を笑顔で聞いてくれるから、いつもつい話しすぎてしまう。
「全然大丈夫だよ?春原くんお話聞くの好きだもん」
好き。その言葉に心臓がドキッと音を立てた。いや、今のはオレの話を聞くのが好きって話で、別にオレの事が好きってわけじゃないんだぞ百瀬! 心を落ち着かせるため自分にそう言い聞かせていると、片瀬さんが口を開いた。
「私はね、両親の母校だからこの学校にしたの」
「親が決めたって事?」
「ううん。決めたのは私なんだけど、ちょっと憧れちゃって」
「憧れ?」
オレの問いかけに、片瀬さんは少し照れくさそうに話を続けた。
「私の両親ね、高校生の頃の思い出話をよくするの。人生で1番楽しかった!って。小さい頃からそれを聞いて育ったから、普通の高校生活に憧れがあって。芸能コースがある学校も考えたんだけど、やっぱりちょっと違うかなぁってなって」
「なるほど……」
「お仕事大変な時は間違えちゃったかなって思う事もあるけど、学校に来るとやっぱりこの学校選んでよかったなって思うの。春原くんとお友達になれたし、サッカーも強いしね!」
「えっ!?絶対サッカー関係ないでしょ!」
そんな事ないよ? と、クスクス笑っている片瀬さん。その笑顔につられてオレも笑みを溢した。
その後も他愛無い話をしていると、時間が経つのはあっと言う間で、気付けば昼休みが終わる10分前になっていて、俺は重い腰を上げる。
「そろそろ戻ろうか」
「うん。あーあー、こんな足じゃなかったら、あと5分は喋れるのに」
唇を尖らせながらギプスを叩く片瀬さんはいつもよりも幼くて、新たな一面を見た気がして不謹慎だけどほんの少し嬉しくなった。
「今更だけどさ、ここまで来るの大変じゃなかった?」
「ちょっとだけ。でも、春原くんに会えるって思ったら全然平気だったよ」
そう言って笑顔で力こぶを作った片瀬さんに、思わず頭を抱えたくなる。そんなこと言われて嬉しく無い男なんて居ないわけで、現にオレの心臓はさっきの比にならないくらいドキドキしてるし、心なしか顔が熱い。
あー! と叫びたい衝動を抑えて、立ち上がるのに苦戦している片瀬さんに手を差し伸べれば、ありがとう。の言葉と共に、小さな手がゆっくりと重ねられた。
このまま抱きしめたら彼女はどんな反応をするんだろうなんて頭の片隅で邪な想像しながら、もっと教室に近い場所で2人きりになれる場所があればいいのにと、心の中で大きなため息を吐いてしまった。
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