あの頃のまま




「え?IDOLiSH7のレギュラー番組、ですか?」

今日はバラエティ番組の収録現場でのお仕事。ひとしきり仕事を終えた私とオサムさんは撮影の様子を見ながら、来週からの現場について軽くミーティングを行っていた。

「そう。って、まさかお前IDOLiSH7を…」
「し、知ってますよ!」
「本当かぁ?おまえあのTRIGGERを知らなかったからな。てっきりまた、え〜?知らないです〜。とか言い出すかと思った」
「うっ…」


IDOLiSH7
デビューして間もないにもかかわらず、ブラホワであのTRIGGERを破り見事優勝を果たした。今最も話題のアイドルを、この業界にいて知らないわけがなかった。
しかし、オサムさんの言う通り、私は仕事で芸能業界に身を置いているにも関わらず、芸能人にとても疎い。元々芸能人に興味のなかった私がこの業界で仕事をしているなんて、数年前の自分が知ったら驚くことだろう。

きっかけらしいきっかけは特になかった。
私が通っていた専門学校のOBであるオサムさんこと、中城オサムさんに在学中に気に入られ、何かにつけて面倒をみてもらっていた私は、専門学校卒業そのまま彼の事務所でヘアメイクアーティストとしてお仕事をさせてもらう事になったのだ。
オサムさんは、若手のタレントから大御所まで担当する、芸能人御用達の超有名ヘアメイクアーティストで、そんな彼のモットーは、『経験が命!!』である。
何事も経験だ!と、業界の右も左もわからなかった私は、アシスタントとして現場に同伴を命じられる事が多く、徐々に雑誌やテレビの現場で一担当としてお仕事をさせてもらう機会が増え、今に至る。


「IDOLiSH7には、この前ドラマで担当した二階堂くんが居るだろう?」
「あぁ…そうですね…」
「今度は熱烈なアタックは控えろよ」
「そんなんじゃないですってば!」

怒るな怒るな。なんて笑いながら言うオサムさんは私に資料を手渡し、一服してくるから、直し入ったらよろしく〜。とスタジオを出て行った。

手元の資料に目を落とし、ため息をつく。

周囲から"熱烈なアタック"と取られてもおかしくないくらいには、前回のドラマ撮影では積極的に二階堂さんを担当した。それはミーハー心でも、個人的に好意を寄せているわけでもなく、ただ単純に、知りたい事があったからだ。
資料の表紙をそっと捲れば、1ページ目には番組の概要と一緒にIDOLiSH7のメンバーの名前が羅列されていた。私はその中の見覚えのある名前を指でなぞる。


四葉 環


それだけで懐かしい気持ちが胸に広がる。向こうはもう私のこと忘れてるかもなぁ。あの頃と苗字も違うし、見た目も多少は変わっているはずだ。なんて思いながら、先日テレビで見かけた彼の姿を思い出してみる。
身長はだいぶ伸び、声も低くなっていた。独特な雰囲気と、マイペースな感じはあの頃のままだった。

(そういえば私がよく弄っていた髪も、あの頃のままだったなぁ…)

そんな事を考えながら、私は目の前の撮影風景をぼんやりと眺めていた。



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