思い浮かぶは君の姿
「万理くんも、そろそろ身を固めたらどうだい?働き詰めも良くないよ」
ある日、社長に呼び出された俺は、突飛押しもない話に目を白黒させる。
はぁ…。と、なんとも間抜けな声が思わず溢れ、それに対して社長が微笑んだのがわかった。
「紡が結婚してその分の仕事が君に回ってしまって、すまないと思ってるよ」
「いえ、それは全然。働けるうちに働いておきたいですし」
「そう、それだよ万理くん」
「え?」
「君は自分の幸せに対して無頓着だ。だからこそ、家庭を持って幸せを手にしてほしいんだ」
君も、僕の息子のようなものだからね。という社長の言葉に、再び間抜けな返事をしてしまう。そんな君に、どうかな?と、社長から手渡された封筒には、1人の女性の写真が。
「こ、これは?」
「知り合いの娘さんでね。今ちょうど相手を探しているんだそうだ」
「えっ、お、お見合い写真…?!」
今のご時世に、しかも社長からお見合い写真を渡される日が来るとは思わなかった。彼女は素晴らしい女性だよ。と、写真の女性の紹介を始める社長。
まずい、このままではとんとん拍子に話が進んでしまいかねない…!そう思った俺は、断腸の思いで、あのっ!と、社長の話を遮った。
「社長にはお伝えしてませんでしたが、実はもう心に決めた人が…」
「おや。そうだったのかい。いや、てっきり仕事熱心な君だから、そういう事は二の次にしているのかと…。いや、お節介で、すまないね。この話は無かったことにしよう。」
と、俺の手から封筒を取り、机の引き出しにしまう社長。
その姿に、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。で?と、社長が振り向く。
「えっ?」
「どんな人なんだい?是非紹介してほしいな」
「しょ、紹介だなんて!」
まさか紹介してほしい。だなんて言われるとは思わず焦る。そう、心に決めた人なんて、まだいないからだ。
お見合いを断るための嘘だった。とりあえずこの場を凌げればいいと思い、ついた嘘だったが、社長はそれに気付いているのか、いないのか。いつも通りニコニコしながら尋ねてくる。
「年齢は?どれくらい付き合ってるの?お仕事は?もう一緒に住んでるの?」
「ちょ、待ってください社長。そんな、社長がお気になさることでは…」
「いや、さっきも言っただろう?万理くんは僕の息子のようなものだ。君が心に決めた人がどんな人なのか、気になって当然だろう?」
で、どんな人なんだい?詰め寄る社長に息が詰まる。どうしたものか思案してるうちに、ある1人の女性が思い浮かんだ。確か彼女は、今都内で働いてると聞いている。僅かに頭に残っている情報と、それっぽい嘘で俺は社長の質問に答えていくことにした。
「え、えっと…。付き合ったのは2年くらい前ですね、そろそろ同棲しようか。って話しているところで」
「うんうん!それでそれで?」
それで…と、続けようとして、自分は今の彼女のことを何も知らない事に気付いた。どんな仕事をしてるのか、なんなら、どこに住んでるかも詳しくは知らない。
「えっと…実は忙しくて暫く会えてないんですよね。なので、紹介は機会をみてさせてください」
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「えっ?」
仕事終わり、ラビチャをチェックすると、そこには懐かしい名前が表示されていて思わず声をあげる。
大神万理
地元が一緒で、家も近い。小学校から高校まで学校も一緒だった所謂腐れ縁ってやつだ。大学進学とともに特に連絡を取る事もなく、自然と疎遠になっていた彼からの連絡。何の用だろう?と思いながら、ラビチャを開く。
−久しぶり。急な誘いで悪いけど、今度食事でも行かない?
スタンプなどは使用しない、シンプルな文だけが、私の目に飛び込んできた。
食事?私と万理が?困惑しながらも返信を打てば、すぐに既読がついた。
−久しぶり。本当急だね?どうしたの?別に食事くらい大丈夫だけど。
−ちょっと相談があって。日程はおまえに合わせるから、都合いい日送っといて。
手帳を開き候補の日程をいくつか送るが、そのラビチャを境に暫く既読が付かず、その日のやりとりは終わった。次の日朝起きてラビチャをチェックすると、日程の連絡が来ていた。
−じゃあ、1週間後。来週の金曜日19時で。
来週の金曜日…そう呟きながら手帳に"19:00〜万理"とだけ記入する。
「なんか変な感じ」
その声は1人の部屋に、静かに響いた。
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