大和BD
「二階堂さんって、先月誕生日だったんですか!?」
ドラマの撮影の休憩中、楽屋のドアを勢いよく開けて乗り込んできた片瀬ちゃんに、そうだけど。と返せば、彼女はこの世の終わりと言わんばかりの表情で床に崩れ落ちた。
「お祝いできなかったぁ……」
「あー、別にそんなんいいって」
「二階堂さんが良くても私が良くないんですっ!」
「海外で撮影だったって聞いたけど」
「そうなんですけど!」
好きな人の誕生日だったのにっ! そう嘆く彼女は、ドラマで共演してからなぜかずっと俺に好意を寄せてくれている売れっ子の女優だ。なんで俺なんかを? と思う事も少なくはないが、男としてはこんな美人に好かれていて嬉しくないわけがない。
正直、いつも好き好き言ってくれる彼女から、誕生日を祝ってもらえなくてちょっとだけ凹んだ。だから今、実はかなり嬉しかったりする。(彼女が海外で撮影していると知ったのはつい最近だった)
「あのっ!何か欲しいものありませんか?私、二階堂さんのためなら何でも用意します!メロン買って来ましょうか!?」
すくっと立ち上がり詰め寄って来た彼女があまりにも必死で、それがなんだかおかしくて、俺はぷっと吹き出した。
「なんで笑ってるんですか」
「いや、あまりにも必死だからつい」
「必死にもなりますよっ!」
頬を膨らませながら上目遣いで俺を睨みつける彼女は、これを計算ではなくて素でやってるんだからタチが悪い。これで落ちない男がいるなら、そいつは多分男じゃない。
「何かないですか?」
「本当になんでもいいわけ?」
「はい!」
「ふーん。んじゃあ、ここ座って」
「はい」
頭に疑問符を浮かべつつも俺の指示通りに動いた彼女。次はどうすればいいんですか? と俺を見上げている彼女に俺は告げる。
「目瞑って」
「えっ?」
俺の言葉に戸惑いながらもゆっくりと目を閉じた片瀬ちゃんに内心ため息を吐く。いくら好意を寄せてる相手だからと言ってこんなに馬鹿正直に言うことを聞くもんだろうか。
「あの、二階堂さん?」
整っている顔をただぼーっと眺めていると、痺れを切らした彼女が俺の名前を呼んだ。何もするつもりはなかったのに、あまりにも無防備なその姿に心が疼く。俺は目の前の白く透明な頬にそっと手を伸ばし……左右に思いっきり引っ張った。
「痛っ!なっ、なにするんですかっ!」
「いやー、あまりにも無防備すぎてお兄さんびっくりよ」
「びっくりしたのは私ですよ!期待したのにひどいですっ!」
痛みで開かれた瞳は涙目で、そこには意地の悪い顔をした俺が映っている。
「へえ。何を期待したのかなー。お兄さんに教えてくれる?」
「えっ!いや、それは……」
「あー、言えないような事?」
やらしー。と言う俺の言葉に頬を真っ赤に染めた彼女は勢いよく立ち上がり、二階堂さんなんか大っ嫌いですっ! と捨て台詞を吐いて、逃げるように楽屋を出て行った。
「え……大っ嫌いは凹む……」
やりすぎたことを後悔している俺の呟きが楽屋に響いたかと思えば、再び楽屋のドアが開いた。隙間からは片瀬ちゃんがこちらを覗いていて、その顔はまだ真っ赤だ。
「あの、二階堂さん」
「は、い」
「大っ嫌いは嘘です。その……大好き、です。あっ、あのっ!お誕生日おめでとうございました!」
それだけです! そう言って勢いよく閉められたドアと遠ざかっていく足音を聞きながら、俺はソファに寝転がった。ああ、情けないことにきっと今の俺の顔は、彼女に負けないくらい赤いんだろう。
「大好きは反則だわ……」
2022.02.14
HAPPY BIRTHDAY YAMATO
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