巳波BD




「みなちゃんはかわいいね」

 それが幼馴染の彼女の口癖だ。2歳年上の彼女が私を『かっこいい』と言ったことは、私の記憶が正しければ今まで一度も無い。勿論、私の記憶が間違っているなんてことがあるはず無いのだけれど。

「またそれですか」

 自分が中性的な見た目をしていることは理解している。それに、今まで彼女に限らず言われてきた『かわいい』と言う言葉に特別嫌悪感を抱いたことは無い。しかし彼女から発せられるその言葉は、何か呪いでもかかっているのではないだろうか? と錯覚するほどに、私の胸を締め付ける。それが意味する感情が何かは、とうの昔にわかっていた。

「だってかわいいんだもん」
「もう聞き飽きました」
「そうだよね、ごめんね」

 ため息混じりに呟いた私の頭を彼女の手がそっと撫でる。幼い頃から幾度もされてきたこの行為も今では複雑な気持ちになる。このまま目の前にある細い腕を引いて抱き締めたら、彼女は私の事を意識してくれるのだろうか。

「ねえ、みなちゃん。身長何cm?」
「174cmですけど」
「そんなにあるの?私より小さかったのに……。ほら、背伸びしても全然足りない」
「何年前の話をしてるんですか?それに、特別高いわけではないですよ。平均身長より少し高いくらいです」

 私の頭に手を添えたまま背伸びをしている彼女に思わず笑みを溢せば、それに気付いた彼女は気の抜ける笑顔でこう言った。

「そっか、こんなにかわいいみなちゃんも、ちゃんと男の子なんだよね」

 こういうの嫌だよね、ごめんね。その言葉と共に離れた手を追いかけて、逃がさないように捕まえる。今がチャンスだと、そう思ったから。

「みなちゃん?」
「そうですよ」
「え?」
「私もちゃんと男の子なんです」

 指を絡めて至近距離で見つめれば、徐々に赤くなる彼女の顔。そんな彼女の耳元で「赤くなってますよ。かわいいですね」と囁くと、耐えきれなくなった彼女は俯いてしまった。

「みなちゃん、あの」
「なんですか?」
「あの、近い、です」
「わざとですよ」
「意地悪しないで」
「意地悪なんかしてません」

 私との距離を開こうとじりじりと退く彼女の腕を引き寄せて、細い腰に腕を回す。彼女があげた驚きの声はすぐに私の胸に吸収された。

「変わったのは身長だけじゃないでしょう?手だってほら」

 手の大きさを比べるように重ね合わせ、そのまま指を絡めれば彼女の肩が小さく跳ねた。

「昔はあなたの方が大きかったけど、今では私の方が大きいです」
「そう、だね」
「そんな私を、まだかわいいと思いますか?」
「……みなちゃん、やっぱり意地悪だ」
「意地悪なんかしてませんよ」

 わざと頬を掠めながら彼女の髪を耳にかける。それに合わせるように上がった彼女の顔は赤く染まっていた。欲しい言葉を聞くことができなくても、私を見上げた真っ赤な顔が、私を見つめる潤んだ瞳が、彼女の気持ちを物語っていた。






2022.06.08
HAPPY BIRTHDAY MINAMI



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