ナギBD
「本当に王子様だ……」
ナギくんが王子様だと言うことは随分前に本人から聞いていたが、正直冗談だと思って今日まで過ごしてきた。しかし、今手にしている彼の幼少期の写真はどこからどう見ても一般人のものではない事が、一般人の私からしたら一目瞭然だ。
「Oh!ワタシの言葉を疑っていたのですか?」
「疑ってたって言うか……冗談だと思ってた」
「冗談!?ワタシはアナタに冗談なんて言いません!ナナミに対してはいつも本気です!勿論、好きだというのも本気ですよ?」
「はいはい。もうそれは聞き飽きました」
隙があれば口説いてくる彼を、いつものように軽くあしらう。私の言葉にオーバーなリアクションをしたナギくんを無視し、私は再び写真に目を落とした。白馬に乗っている幼き日のナギくんは、私がかつて思い描いていた理想の王子様でつい見惚れてしまう。
「すごいね、おとぎ話に出てくる王子様みたい」
「そんなに写真を見つめなくても、本人が目の前に居ますよ?」
「本当、白馬の王子様がぴったり。憧れちゃうなあ」
「……アナタには、写真の中のワタシの方が魅力的なのですね」
寂しそうな声色に渋々顔を上げれば、待ってましたと言わんばかりの早さで頬に触れたナギくんの唇。声にならない声を上げて距離を取った私を見て、彼はくすくすと小さく笑った。
「あまりにも熱い視線を送っているので、少しだけイジワルしたくなりました」
ナギくんのスキンシップは未だに慣れない。そもそも、付き合っていない女性の頬にキスをするなんて、海外じゃ普通なのかもしれないけどここは日本だ。しかも、私が慣れてないのをわかっていてこういうことをするのだから、なかなかにタチが悪いと思う。
「……そう、ですか」
「写真の中のワタシが美しいのはわかりますが、今はここにいるワタシとの時間を大切に過ごして欲しいです」
折角会いに来たのですから。私の両手をぎゅっと握りながら私の顔を覗き込み、OK? と尋ねるナギくんの言葉に無意識のうちにゆっくりと頷く。すると今度は心底嬉しそうに笑ったナギくん。その笑顔があまりにも綺麗で、少し照れる。
「白馬の王子様に憧れているのですか?」
「うん。私、小さい頃はお姫様になるのが夢だったの。白馬の王子様に迎えに来てもらうのとか、ダンスパーティーとか、そういうのも夢だったなぁ」
昔を懐かしみながら答えれば、ナギくんは徐に立ち上がり私の手を引いた。
「ワタシならその夢、全て叶える事ができますよ!」
立ち上がったとほぼ同時に腰にナギくんの手が回ったかと思えば、彼はそのまま私の体を支えながらくるくると周り始めた。
「まずはダンスパーティーです」
「えっ?えっ?あははっ、待って、目回っちゃう!」
突然の事でなぜか笑いが止まらなくなってしまった私につられて、ナギくんも楽しそうに笑っている。それからしばらくの間、彼の口ずさむメロディに合わせて踊る私たち。くるくるくるくる、こんなに狭い部屋でよくまあ綺麗に回れるものだと感心していると、不意にナギくんが動きを止めた。
「ワタシとのダンスは楽しんでいただけましたか?」
「すごく楽しかったです!」
「Oh!それはよかったです。あとは白馬の王子の迎えですね」
にこっと笑ったナギくんは私の手を握ったままその場に跪き、戸惑っている私を見上げて再び笑った。
「今はまだ叶いませんが、いつかワタシは白馬に乗ってアナタを必ず迎えに来ます」
「えぇっ……?」
「なのでその時まで、ここはワタシのために空けておいてくださいね」
その言葉と共に左薬指に落とされたナギくんの唇は、さっき頬に触れたものと同じはずなのに、その時とは比べ物にならないほど熱い。その熱は一瞬で全身を駆け巡り、顔に集まった。ナギくんの言葉の意味を理解できないほど子どもじゃない。
「またそういう冗談を……」
「冗談じゃありません。アナタに対してはいつも本気、そう言ったはずです」
ゆっくりと立ち上がったナギくんの手が私の頬をそっと撫で、親指は唇をなぞる。
「好きですよ。心からそう思っています。言葉だけでは足りないのなら、キスを贈りましょうか?」
「結構ですっ!」
逃げるように俯いた私の心臓は、今にも爆発してしまうんじゃないかと思うほどドキドキと大きな音を立てている。
「残念です。キスをすれば、ワタシの気持ちを余す事なく伝えられるというのに」
「……大丈夫、ちゃんと伝わってるから」
今まで冗談として受け取ってきた『好き』という言葉を、どうせナギくんは本気じゃないからと決めつけて突っぱねてきた。でも本当は彼の言葉が本気ならいいなってずっと思ってた。だって私もナギくんの事がずっと前から……。
「あの、私もナギくんが好き、です」
自分の気持ちを認めたらなぜだか急に冷静になって、私は俯いていた顔を上げる。何も言わずに慈しむような表情で私を見つめているナギくんには、何も聞こえていなかったのだろうか。
「ナギくん……?」
「今の言葉、もう一度聞かせていただけますか?」
「恥ずかしいから嫌だ」
そう言って彼の言葉に首を振った後、私は目の前の綺麗な顔の、形のいい唇を目掛けて背伸びをした。しかし、あと数cm足りなくて、背伸びをやめナギくんをじっと見つめる。彼はすぐに私が何をしたいのか理解して身を屈めてくれた。
「これで届きますか?」
嬉しそうに笑っている彼に小さく頷いた私は、再び背伸びをする。そして、この言葉だけじゃ足りない気持ちを持て余す事なく伝えるために、その唇にそっとキスをした。
2022.06.20
HAPPY BIRTHDAY NAGI
back
novel top/site top