3つのルール
所謂"偽装恋人"になった私と万理は3つのルールを作った。
1.必要以上に相手の生活に関わらない
2.地元の友人には絶対に言わない
3.絶対に本気にならない、手を出さない
1つ目は万理から、2つ目と3つ目は私からの提案だった。特に3つ目の前半は、表明しておかないとダメかなと思った。
というのも、高校時代私は万理の事が好きだったのだ。
幼い頃から一番身近にいた男子だったからだろうか、ある日、私の異性の基準は全て万理だった事に気付いた。
男子から告白されても、万理よりかっこよくない。万理より背が低い。万理より…と、相手に告げる事はせずとも、断る理由は全て万理だった。
それを友達に話すと、奈々美は大神くんのことが好きなんだね。と言われ、そこから万理を異性として意識してしまい、ただの腐れ縁。から、好きな人。へ変わったのだった。もっとも、自覚したからと言って自分の想いを告げる事なんてしなかったし、大学進学と共に私の周りには万理以外の男性も増えて、彼氏もできた。高校卒業と同時に上京した万理とは物理的にも疎遠になり、好きだった人から、ただの腐れ縁というカテゴリーへと再び戻された。
とはいえ、彼氏と別れたばっかりの今、10年以上前とはいえ、好きだった男と、偽装とはいえ恋人になるなんて、下手したら本気になりかねない…。と、自戒の意を込めて、3つ目のルールを提案したら、万理は少し笑っていた。
後半部分に関しては、私達も年頃の男女だ。何か過ちが起きないように、念のためだったが、これまた万理は少し笑っていた。
お前に本気になる訳ないだろう。という事なのだろうか。真意はわからないが、少しだけ胸が痛くなった。
2つ目は言わずもがな、地元には私が万理の事を好きだったと知ってる人が多いし、何より噂が広がると、とにかくめんどくさいのだ。いろいろと。
そこに関しては万理も同じ考えを持っていたようなので、特に何も言わなかった。
「万理の言う、必要以上に。って、どの程度?っていうか、今思ったけど、彼女のフリってその社長?に会いに行く時だけすればいいんじゃないの?」
「いや、俺もそう思ってたんだけど」
けど?と、首を傾げながら万理の顔を見ると、頬杖をつきながら私をじっと見たかと思えば、爽やかな笑顔でこう言った。
「なんかおまえ、寂しそうだし。俺が相手してあげようかなって」
「…その発言やばいよ。クズ男って感じ」
そう口では言いながらも、図星をつかれて、思わず肩が跳ねそうになった。万理の言う通り、最近周りの友達はみんな結婚したり、子どもが生まれたりで、気軽に会う事ができなくなったし、彼氏には浮気されるし…私は誰からも必要とされていないのではないか。と、正直寂しかった。
家と会社を往復するだけの日々、1人で食べるご飯、だらだら過ごす休日。どれも退屈で、何か面白い事が起きないかな。と思っていた時に万理からの誘いだった。
最初は単純に、また万理とたまに会えるような関係になれれば。と、思っていたが、それ以上に面白い事になったな。と今では内心ワクワクしている。
正直、万理の提案にはドン引きしたがすぐに、まぁ万理とならいいかな。という考えに至った私自身にもドン引きだった。
「まぁ、勝手に合鍵作って当たり前のように家にいる。とか、既読付かないと鬼電してくるとか。そういう事してこなければ別に普通でいいよ。ラビチャも、時間があれば返すし」
「えっ…そんな事しなくない?」
あんた今までどんな女と付き合ってきたの?と続けようとしたが、大学時代、東京に遊びに行くついでに彼のライブを観に行った時、毎度やばそうな女が沢山居たことを思い出した。
そしてその辺の女と軽率に関係を持った万理が簡単に想像できて、深く聞くのをやめた。
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想像以上にとんとん拍子に話が進み思わず、本当にいいの?と尋ねれば、自分から頼んできたくせに。と奈々美に笑われた。
その後、万理の話が衝撃的すぎて、酔いが覚めた。と、酒を飲み続けた彼女は、あっという間にまた酔っ払ってしまったのだった。
夜も更けてきて、そろそろ帰るぞ。と俺たちは店を出る。
店先で、ん〜!と伸びをした奈々美は、じゃあ私はあっちだから!と、覚束ない足取りで駅へと向かう。その手を、俺はとっさに掴んで止める。
「何?まだなんかあんの?」
「…車だから送ってく」
本当はそんなつもりはなかった。
なんなら、この食事が終わったら事務所に戻って仕事の続きをするつもりだったのだ。
しかし、こんな時間に酔っ払っている女性を1人で返すのは流石に心配だった。そんな俺の心配を他所に、何それ彼氏っぽーい!なんて言いながらケラケラ笑っている彼女に、はいはい。と相槌を打ちながら、テレビ局付近に置いてきた車へと足を進めた。
「へー、いい車」
「まぁ、仕事でも使うし。っていうか、寝るなよ?」
「大丈夫、大丈夫!」
ナビは任せて〜!と、笑っている奈々美は、車で送ってもらえるという安心感からか、さっきより酔いが回ってる感じで、正直不安すぎる。
「ほら、さっさと住所入れて。寝たらその辺に放って行くから」
「またまた〜。万理は優しいからそんな事しないもん」
ね〜ろっぷちゃん。と、鍵につけているウサギのぬいぐるみに話をかける奈々美は、テレビが見れるカーナビをしばらくいじったり、ご機嫌に鼻歌を歌ったりしていたが、次第に眠くなってきたのか、船を漕ぎ始めた。
「おい、寝るなって」
「うーん、起きてるよー…」
「住所入れた?どっち方面?」
「んーまだー。あっちかな、んー?違う、あっちかな?」
んーわかんなくなっちゃった。と、呟く奈々美。
おい、嘘だろ?と、信号待ちのタイミングで助手席を見れば、奈々美は窓に頭を預けて完全に眠ってしまっていた。
「勘弁してくれよ…」
俺の呟きは、後ろの車のクラクションによってかき消された。
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