焦燥かあるいは




「奈々美が消えた……!」

 中城さんのその言葉を聞いて、四葉さんの表情が凍りついた。しばらくの沈黙の後、絶望とも怒りとも取れる表情を浮かべながらぐっと拳を握り、中城さんに掴みかかった四葉さんを必死に止める。

「んだよそれ!消えたってどう言う事だよ!」
「俺だってわかんねえよ!」
「お二人とも落ち着いてください!」
「あんたが一緒に居てなんで……!って、オサムん、血……」

 四葉さんの言葉に顔を上げれば、中城さんの額から血が垂れていた。それだけではない。四葉さんの腕を掴んでいる手にも血が滲んでいて、心なしか頬も腫れている。

「その怪我……」
「……詳しく話すから、一回中に入ろう」
「そうですね。とりあえず、私は警察に連絡を」
「いや、警察はまだいい。タイミング見て俺から連絡する」
「はぁ!?何言ってんだよ、ななみん居なくなったんだろ!?なら今すぐ……!」
「あいつだって、できれば警察に頼りたくないはずだ。その理由はお前も知ってるだろ?」

 心当たりがあるのか、四葉はそれ以上は何も言わなくなった。再び握った拳を力任せに壁に打ち付け、くそっ! と吐き捨てた彼の背中は、とても痛々しかった。




「それで、何があったんですか?」

 傷の手当てをし終え早速本題に入る。中城さんは頭を抱えながら順を追って話し始めた。

「仕事を終わらせて、昼前に会社を出たんだ。それから奈々美の家に来る前に、俺が家に忘れ物した事に気がついて、俺の家に向かったんだが……」

 言いにくそうに私たちの顔を見たあと、一呼吸おいて中城さんは再び口を開いた。

「奈々美を車で待たせて忘れ物を取りに帰って、戻ってきたら奈々美が誰かに無理矢理車から降ろされてたんだ。助けようと思って殴りかかったんだが、相手が持ってたバッドで返り討ちにあってこのザマさ。気を失って、目が覚めたらもうそこには誰も居なかった」
「……オサムん、そいつの顔見たのか?」
「ああ……山田だったよ」
「あいつ……!」

 ぐっと拳を握る四葉さんを尻目に、私は中城さんに問いかける。

「それで、これからどうしますか?私たちだけではどうする事もできないですし、とりあえず警察に」
「だから、警察はいいって言ってるだろ!」

 ローテーブルを叩きつけながら大声を上げた彼に、思わず肩を揺らした。悪い。と再び頭を抱えた中城さんは、ぶつぶつと何か呟いたかと思えばおもむろに立ち上がった。

「オサムん……?」
「探しに行く」
「探しに行くって、心当たりはあるんですか?」
「んなもんねえよ。片っ端から探すんだ。早く探さないと奈々美が……くそっ!」

 足元のゴミ箱を蹴飛ばして玄関に向かう中城さん。そんな彼の背中を見送った後、私と四葉さんはただ顔を見合わせることしかできなかった。



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