陸BD
『お誕生日のお祝い、今年はプレゼントの代わりに、陸のやりたいことに付き合ってあげる』
幼馴染の奈々美からそう連絡があったのは2ヶ月前、オレの誕生日当日だった。嬉しくてすぐに返事を返したけれど、一緒に花火大会に行きたい! という俺の願い事が実現することのないまま、気が付いたら9月の上旬になっていた。
「陸と花火大会行けるの、楽しみにしてたんだけどなぁ」
「本当にごめんね……」
「うそうそ。お仕事忙しかったんだもん、しょうがないよ。今日も久々の休みなんでしょ?疲れてない?大丈夫?」
心配そうにオレの顔を覗き込む奈々美。急に近付いた距離にか、鼻をくすぐる甘い香りにか、心臓がほんの少しトクンと音を鳴らした。
「だっ、大丈夫!最近は調子良いんだよ。仕事も楽しいし!この間も、ライブでナギと環がすごく面白くて、勿論ナギと環だけじゃなくて……って!ごめん、オレばっかり話してる!」
「ふふっ、大丈夫だよ。お仕事楽しいならよかった」
「ありがとう。奈々美は?大学楽しい?」
「うん、楽しい」
こんな授業を取ってるんだとか、変わった教授がいるんだとか、自分から聞いたくせに、楽しそうに話す彼女がまるでオレの知らない人に思えて、何だか無性に寂しさを覚えた。
「あっ」
そんな中、何の気なしに見回した部屋の枕元に見覚えのあるものを見つけてオレは思わず声を上げる。
「え?何?ああ、これ?」
奈々美が手を伸ばして取ったのはうさぎのぬいぐるみ。それは中学生の時一緒に行った花火大会の屋台でオレが取って、彼女にプレゼントしたものだった。
「陸がまぐれで当てたやつ!」
「なっ!まぐれじゃないよ!それに、奈々美が欲しいって言ったやつちゃんと狙ったんだから!」
「本当に?」
「本当だよ!」
「えー?」
くすくすと笑いながらぬいぐるみに、そうだったっけ? なんて尋ねる奈々美は小さい時人形遊びをしていた頃から何も変わっていなくて、さっきまで寂しさを覚えていた分、それがやけに嬉しかったオレは気が付いたら笑い声を溢していた。
「え?何で笑ってるの?」
「ごめん、なんか嬉しくて」
「嬉しい?何が?」
「奈々美が昔と何も変わってないから、ほっとしたと言うか」
えへへ。と頬を掻きながらそう言ったオレの言葉に、彼女の眉がほんの少し下がった気がした。
「陸から見たら、私って何も変わってない?」
「え?えっと、あっ!髪伸びたよね!」
「それから?」
「それから、えっと……」
すごくかわいくなった。本当はそう言いたいのに、緊張のせいか喉が一気にカラカラになって、声が思うように出て来ない。ごくりと喉を鳴らして、意を決して口を開く。
「すごくかっ……髪が伸びたよね!」
「それさっき聞いた!」
「あはは……」
「……あーあー。私、陸にかわいいって言ってもらいたくて、いろいろ頑張ったのになぁ」
「へっ!?」
陸のバカ。そう言ってぬいぐるみを抱きかかえて顔を隠してしまった奈々美。今の言葉は都合のいい聞き間違えだろうかと思ったけれど、僅かに見えているほんのりと赤い彼女の耳が、聞き間違えなんかじゃないことを物語っていた。
「あのさっ!」
「……何?」
「来年は、花火大会行こう!絶対!」
突飛押しのない提案に、奈々美は隠していた顔を上げて瞬きを繰り返した。その頬は、やっぱりほんのり赤い。でもきっと、今はオレの顔の方が赤いと思う。だってまるで熱でもあるんじゃないかって思うくらい顔が熱いんだから。
「新しいぬいぐるみ、頑張って取るよ!」
「ぬいぐるみ?」
「えっ!あ、いや、本当はぬいぐるみはどうでもよくて!」
必死なオレが面白いのか、くすくすと笑う彼女を真っ直ぐ見つめる。それに応えるように、奈々美も笑うのをやめて真っ直ぐとオレを見てくれた。
「えっと、つまり!それまでに、ちゃんと言葉にできるように、オレ頑張るから!」
「……わかった。じゃあ、もっとかわいくなって待ってるね」
「えっ!?今でも十分かわいいのに……って!オレ今かわいいって言っちゃった!?」
慌てて口を閉じてももう遅くて、奈々美は頬をさらに赤く染めながら、言っちゃったね。と嬉しそうに笑った。そんな彼女を見て頭に浮かんだ、やっぱりこの子が好きだな。って言葉を今度はうっかり口にしないように、オレは唇を引き結ぶ力を強くした。
2022.07.09
HAPPY BIRTHDAY RIKU
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