【clap log】BD




 奈々美が何かを隠している。それに気付いたのはつい最近だ。オレの前でスマホをいじる時、いつもはあえて隠したりしないのに、ここ最近露骨に画面を見せようとしない。おまけに画面を見て口元を緩ませる事も多々ある。

「モモちゃんに何か隠してるな〜!?」

 そんな風にいつもの調子で聞けたら楽なのに、もしも浮気をしてたら……なんて考えたら、怖くて聞けないはしょうがないと思う。もうすぐ誕生日なのになんだか気持ちが晴れない日々が続いている。





「それで、その時ユキがさ!」
「ふふっ、そうなの?」

 お互い仕事を終えてオレの家でのんびりその日の出来事を話している最中、彼女のスマホからラビチャの通知音が聞こえた。スマホは、テーブルの上に伏せた状態で置かれている。

「あ、ちょっとごめんね」

 そう断りを入れてスマホを手にした奈々美の口元が緩んでいて、あっ、いつものやつだ。と気分が下がる。その光景が"いつもの光景"になってしまっている事に更に気分が下がって、思わずため息を吐いた。

「はぁ……」
「モモちゃん、どうしたの?」
「え?あっ!いや、何でもない!」
「疲れてる?大丈夫……?」

 俺の顔を覗き込んだ奈々美の表情が、どれだけオレのことを心配してくれているのか物語っていた。そんな彼女に少しでも浮気を疑った自分に嫌気がさす。それでもやっぱり気にはなるし、可能性が0ではないわけで……。

「最近さ」
「うん?」
「何か隠してることある……?」
「隠してること……?」
「スマホ、とか……いや!やっぱ何でもない!」

 ごめん忘れて! そう言って慌てて次の話題を考える。この期に及んで怖気付いてはぐらかした自分が女々しくて、かっこ悪い。いろんな言葉が頭を巡る中、奈々美の口から言葉が溢れた。

「……ごめんなさい」
「え……?」
「バレないと思ってたんだけど、やっぱり無理……だよね」

 罰が悪そうに視線を落とした彼女に、心臓が大きく鳴って嫌な汗が伝った。えっ、本当に? 気持ちの整理がつかないままのオレをよそに、彼女は話を続ける。

「でもユキさんが、いいんじゃない?って言うから……。あっ!その、別にユキさんのせいにしたいわけじゃないんだよ!」

 手をぶんぶんと振って必死な様子の奈々美。どうやら浮気の相手はユキらしい。え、本当に整理ができない。確かに、奈々美は元々ユキとも仲良いし、なんならファンだし、そうなってもおかしくないのかもしれないけど……。

「いつから……?」
「1ヶ月くらい前、です」

 1ヶ月くらい前と言うと、奈々美が仕事で忙しくて連絡もあまり取れなかった時期だ。でも、今までだってそれこそ数ヶ月間会わないなんてザラだったのに、今更、なんで。考えれば考えるほどわからなくて、それでも必死に理由を探す。答えは一向に出ない。

「そっ、か……」
「ごめんなさい。やっぱり嫌だよね、自分の子どもの頃の写真を勝手に待ち受け画面にされるの。すぐ変えるから!」
「うん……って、え?何?待ち受け?」
「え?うん」

 ちょっと見せて。と、奈々美のスマホを手に取れば、画面の中では幼少期のオレがこちらを向いて笑顔でピースをしていた。

「えっ!何!?どう言う事!?」
「これの事じゃないの……?」
「え……?」

 お互い首を傾げた後、オレ達は改めて話をした。どうやら、モモちゃんに会えなくて寂しい! と嘆いていた彼女に、ユキが誕生日企画で使う用の写真をこっそり送った事がことの発端らしい。

「許可無く待ち受けにしちゃってたから、見られて引かれたくないなって思って……」
「だから隠してたの?」
「うん。このモモちゃん、本当にかわいくて見る度に笑顔になれるから変えたくないし、やめてって言われないように隠すしかないかなって……」
「そうだったんだ……。その、オレてっきり……ユキと、浮気してるんだと勘違いして」
「えっ!?わっ、私がユキさんと浮気!?ないないないない!あり得ないよっ!」
「うん。冷静に考えたらあり得ないんだけどさ」
「もー!!」

 そう言って勢いよく飛びついてきた奈々美は、頭をオレの胸にぐりぐりと押し付けながら小さく唸っている。

「私がモモちゃん以外の男の人を好きになる事なんてないって、いつも言ってるのにぃ……」
「うん、ごめん……」
「しかもユキさんとなんてぜっっっったい無い!」
「う、うん」
「……どうしたら私の気持ちモモちゃんに伝わりますか」
「十分伝わってるよ!」
「伝わってたら、浮気疑われたりしないと思うんですけど!」
「それは……」

 胸から顔を上げてじっとオレを見ている奈々美はきゅっと口を引き結び、その目が少し潤んでいた。疑う方もつらいけど、疑われる方もつらいに決まってる。そんな当たり前のことに今更気付いて、罪悪感に襲われた。

「本当に、ちゃんと伝わってるよ。オレが女々しかっただけ」

 ごめんね。その言葉と共にぎゅっと抱きしめれば、彼女はオレの背中に腕を回す。

「モモちゃん」
「ん?」
「私は、どんなモモちゃんも好きだよ。ずっとずっと、大好き」

 彼女のその言葉で、モヤモヤしていた気持ちも罪悪感も、全部全部吹っ飛んで、心が晴れていくのを感じた。それと同時に、この子が居なきゃ生きられないかもしれない。そんな事を本気で思ってしまった。






2022.11.11
HAPPY BIRTHDAY MOMO



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