何気ないひと時




「お正月って、大人になると忙しないだけよね」

 こたつに入ってテレビを眺めている奈々美は、そう言いながらみかんの山に手を伸ばし、俺の手の上にそれを1つ置いた。

「今こたつの中でだらけきってるやつが言うセリフとは思えないな」
「やれ大掃除だおせち料理の準備だーって、別に義務じゃないのになんか頑張っちゃうの、なんなんだろう」

 手の上に置かれたみかんを剥き始めれば、奈々美がその様子をじっと見ていた。あ、これ、俺にくれたんじゃなくて剥いて欲しいだけだな、こいつ。

「子どもの頃はもっと特別な感じしなかった?」
「まあ、言いたいことはわかるけど」
「でしょ?カウントダウンの歌番組観て、そのまま夜更かししてても、お正月は親に怒られなかったもん」
「確かに」

 剥き終えたみかんを奈々美の手に戻せば、ありがとう。の言葉を発すると同時に口に放り込んだ。幸せそうにみかんを食べている奈々美に、つい笑みが溢れる。

「どっかの誰かさんは明日からお仕事ですし」
「年始は生放送が多いからね。今日休む代わりに明日出るんだよ」
「ふーん……。そんな万理くんには、栄養たっぷりのみかんをあげよう」
「ありがとう。って、俺が剥いたやつだけど」

 ほら。と口元に運ばれたみかんを食べれば、甘酸っぱさが口に広がる。

「実家、帰ればよかったのに」
「んー……別に帰ってもやることないし、移動めんどくさいからいいかなって。それに」
「それに?」

 じーっと俺の顔を見た後に、やっぱり何でもない。と視線を逸らした奈々美の手からみかんを奪う。

「あっ!」
「それに?」
「……万理が寂しくなっちゃうと思ったから残ってあげてるんですう」

 そう言って俺の手からみかんを奪い返した奈々美は、呆気に取られて瞬きを繰り返している俺を見て口を尖らせた。

「何か言いなさいよ」
「いや、おまえって本当俺のこと好きなんだな」
「はぁ……?」

 怪訝な表情を浮かべ、そんなわけないじゃん。と言いながら、耳に髪をかける奈々美。数秒後それに気付いたのか、はっ! として髪を元に戻した彼女は、俺を思いっきり睨みつける。

「……にやにやしないで」
「かわいいなと思って」
「あー!もう、本当そう言うとこ!」
「ちょ、足蹴るな!」
「脚が長くてすみませーん」

 照れ隠しでこたつの中の足をげしげしと蹴った奈々美は、残りのみかんを一気に頬張りこたつから出た。そして冷蔵庫から冷えた缶ビールを2本手にして再びこたつに戻ってきた。

「はい」
「今から飲むの?」
「折角だから、乾杯しようよ」
「何に?」
「んー、新年に?」
「なんだそれ」

 くすくすと笑い合いながらプルタブを開け、何にと言うわけでもなく乾杯をする。そして一口飲んだ後、俺たちは再び顔を合わせて笑い合った。

 別に何か特別なことがなくても、心が満たされる。こういうのを幸せって言うのかな、なんて柄にもなく思ったりした1年の始まりだった。



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