午後六時




 入店した時はまだ明るかった空がだんだんと夜に近付いてきた頃、時計が退勤の時間を指した。退勤の報告をしてノートPCを閉じ、スマホでLIMEを開く。羽鳥からの連絡は数時間前に彼からきたメッセージが最後で、その様子からしてまだ仕事は終わらないのだろう。
 ビジネスマンが多い街なこともあって、店内は私と同じようにPCと睨めっこしている人が多い。とは言え長居をしてしまったし、少しウィンドウショッピングでもしようかなと、飲みかけのドリンクを飲み干して店を後にする。念の為、すれ違いにならないように羽鳥にも連絡をしたらすぐに既読がついた。

──あと30分くらいで落ち着きそうだから会いに行くね。

 そのメッセージに、返信はしなくていいよという意味を込めて、お気に入りのOKのスタンプをひとつ。その意図がわかったのか、既読になった後特にメッセージは来なかった。




 ウィンドウショッピングもそこそこに、私はわかりやすい場所で彼を待つ。今日は2月にしては暖かくて、外で待っていてもへっちゃらだ。特徴的なモニュメントの写真を撮って、これの前に居るね。とメッセージを送って、しばらくSNSをチェックしていると不意に肩を叩かれた。振り向けば、そこには久々に会う最愛の人がいた。

「待たせてごめんね」
「ううん。全然大丈夫。お仕事お疲れ様」

 ありがとう。と笑う羽鳥はやっぱり少し疲れているように見えて、思わず彼の頬に手を伸ばす。そんな私に困ったように笑った羽鳥は、頬に触れている私の手に自身の手を重ねて握り、そのまま自然な流れで手を繋いだ。大丈夫? と問いかけるよりも先に彼が口を開く。

「ディナーに行く時間はなさそうだから、軽くお茶でも飲まない?」
「そうしよ!あそこのお店がいい」

 そう言って指を刺したのはついさっきまで私が仕事をしていたカフェで、多分羽鳥も私があのお店にいたことはわかっているんだと思う。その証拠に、不思議そうな表情で首を傾げている。

「同じお店でいいの?」
「うん。実はさっき食べたいスイーツが二種類あって迷っちゃって」
「なるほど。食べられなかったもう一種類を食べたいんだ?」
「ううん。羽鳥と一緒に食べたいと思って我慢したの。だから一緒に食べてほしいなって……羽鳥?」

 何も言わずにじっとこちらを見ていた羽鳥は、今度は優しく微笑み握っているだけだった手の力を緩めて指を絡めた。

「どうしたの?」
「やっぱり、今日奈々美ちゃんに会えてよかったなって思って」
「今の流れで……?」
「うん」

 首を傾げた私の手を引いて足を進めた羽鳥の半歩後ろを歩きながら彼の横顔を見上げれば、心なしかさっきよりも晴れやかに見えた。



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