好きだから
「モモちゃん、大好き!」
「オレもだよ〜」
「えー!ウソ!気持ちがこもってないもん!」
「そんなことないよ!?奈々美、大好き!」
「私も大好き!」
ぎゅ! っと思い切り奈々美に抱きしめられながら、もうそろそろ解放してくれと心の中で悲鳴をあげた。
今オレの身に何が起きているかというと、かれこれ30分近く酔っ払ってる奈々美の相手をしているという、地獄のような時間を過ごしているのだ。いや、酔っ払ってる奈々美はかわいいし、こうやっていちゃいちゃできるし、最高ではある。何が地獄かというと……
「ねえ、奈々美さん」
「なんですか?百瀬くん」
「もうそろそろいいですか」
「ふふっ、だーめ!」
そう言ってオレの唇の端にキスを落とす奈々美。ソファに座っているオレの腰に彼女が跨り、向かい合っている状態で約30分。その間、オレから触れようとするとダメ! と怒られ、もちろんキスもお預け状態だ。奈々美からのスキンシップにただ耐えるだけのこの状況を『地獄』と言わずになんと言うのか。
「なんでこんなに焦らされてるのオレ……」
「焦らしてないよぉ」
「焦らしてるでしょ!この後何されても文句言えないからね!?」
「何もされないもーん。モモちゃん、明日早いから今日はえっちダメだもん」
「え!?この後するんじゃないの!?」
「しませーん!」
オレに抱きついたまま、耳元でくすくすと笑う奈々美は、わざと胸を押し付けてくる。いや、確かに明日早いってラビチャで伝えてたけど、明らかに誘ってるじゃん。え、何、誘うだけ誘ってする気ないとか、タチ悪すぎる……でもかわいいから許しちゃう……。そんなことを考えながら虚空を見つめていると、不意に耳たぶを触られた。
「……モモちゃん、今日はピアスしてないんだねえ」
「もう寝る予定だったからはずしちゃったんだよね」
「そうなんだぁ」
ふにふにとオレの耳たぶをいじっている奈々美と、されるがままになっているオレ。そろそろ解放してくれないと、我慢できなくなっちゃうんですけど。と心の中で嘆いたと同時に、耳に今でと違う柔らかい感触が。
「モモちゃんの耳、やわらかくてきもちい」
ダイレクトに聞こえるリップ音と、耳たぶを咥える柔らかい唇。時折かかる吐息を熱っぽく感じるのは、彼女の体内に残っているアルコールのせいなのか、はたまた別の理由なのかは判断が難しい。
「いや、ちょ、奈々美本当勘弁して」
「もうちょっとだけ……」
「あー!もう無理!」
オレに抱きついてる奈々美を引き剥がして、彼女の唇にキスをする。触れるだけのキスから、だんだんと深く、甘く。奈々美の口の中はまだほんのりアルコールの匂いがして、オレがいない所でどんだけ飲んだのこの子。なんて、心の中で舌打ちをした。
「んっ……モモちゃん」
「ん?」
「ごめんなさい」
「何で謝るの?」
「迷惑だったでしょ……?」
「んー、迷惑というより、困惑?」
もう奈々美も気付いてるであろう、熱を持って硬くなったそれをわざと彼女に押し当てるように動かす。反射的に引かれた細い腰を腕で押さえれば、気まずそうにオレの様子を伺ってきた。
「人のことその気にさせておいて、するつもりないなんてどういうつもり!?って」
「……本当はね、モモちゃんとえっちしたいの」
「え、なのにお預けするの!?」
「だって、明日早いって」
「そんなやわじゃないんだけどなぁ」
「シてくれる……?」
潤んだ瞳でオレを見つめる奈々美に返事代わりのキスをして、俺たちはどちらからともなくベッドルームへと足を向けたのだった。
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「最近彼氏とレスなんですよね〜」
ドラマの共演者やスタッフさんたちとの女子会の最中、みんなお酒も進んでほどほどに酔いが回ってきた頃、いつもお世話になってるヘアメイクさんが、相談があると言って口を開いた。
「えー、わかる。私も」
「この業界忙しいから、正直それどころじゃなくなるよね」
「そうそう、朝早いとそんなこといいから1分でも長く寝かせてって思っちゃう」
「あるあるよね〜」
みんなが口々に言う言葉の意味がわからなくて、レス……? と呟いたのを拾われて、みんなの意識が一斉に私に向いた。
「レスって、なんですか?」
「え、やだ純情……」
「奈々美ちゃんってお相手いるの?」
「お相手?」
「彼氏とか、セフレとか」
「えっ!?えっと、その……」
「ちょっと、ダメダメ!奈々美ちゃんはうちの事務所の箱入り娘なんだから」
焦っている私を助けてくれたのは、同じ事務所の先輩だった。心の中で先輩に感謝をしつつ、お酒が入ってる時ほどこの手の話題には気を付けないとな。なんて、少し反省した。
「でももう25歳でしょ?」
「年齢とか関係ないんですー!それより、レスの話でしょ〜!」
きゃっきゃと盛り上がる彼女達の話を聞いてると、話題になっている『レス』はそういう話なんだって事を理解して、なんだか心がザワザワしてきた。何というか、ちょっと、いや、かなり、私とモモちゃんにも当てはまるからだ。
「こっちがその気になってる時ほど向こうが疲れてて、断られたりするのよね」
「同業者だと特にじゃない?」
「そうそう。まあ仕方ないけどね」
「でも断られると自信無くすよね」
「わかる〜」
どんどん進んでいく話に、私達に当てはまるものが多すぎて焦りが強くなる。私から誘う事は少ないし、誘った時に断られた事はないけど、私が次の日早いからって断る事は正直多い。もしかしたらモモちゃんも、自信無くすな。なんて思ってたりするのかもしれない。あれ、そう言えば、最後にしたのっていつだったっけ。そんな事を考えたら、自然とグラスを持つ手に力が入った。
「でも結構重要な問題だよね」
「レスじゃなくても、タイミング大事だしね」
「がっついて引かれたりしたら最悪よ」
「そうそう。私、それが理由で元彼と別れたもん。性欲強すぎて無理!って」
「えっ!?」
さっき気を付けないとって反省したばっかりなのに、思わず声が出てしまって慌てて両手で口を押さえた。みんなの意識が再び私に向いて、にやにやと音が聞こえてきそうな顔で見られる。
「え、なになに、その反応、奈々美ちゃんやっぱりそういう相手いる感じじゃん〜?」
「もしかして奈々美ちゃんもレス?」
「いや、純情に見えて実はって方かもよ?」
「まあまあ、とりあえずお姉さん達に聞かせてごらん?」
ぐいぐいくるみんなから逃れるにはどうしたら良いのかと頭を悩ませていると、ちょうど良く店員さんが追加の注文を持ってきてくれた。そこで話の流れがストップして一安心。それから私が話の中心になる事はなく、何とか難を逃れられた。
でも、心に残るモヤモヤは無くならなくて、私はいつもより多めにお酒を飲んでしまった。が、それがいけなかった。
解散した後に乗り込んだタクシーで、自宅じゃなくてモモちゃんの家の住所を伝えていたと気付いたのは、私の酔いが少し覚めてきた頃だった。その時私はモモちゃんの腰に跨っていて、疼いてる自分の下腹部に気付いてないふりをして、ただただ酔っ払いを演じた。
多分、モモちゃんは今私が誘ったら、シてくれるんだと思う。でも明日早いってラビチャで言ってたし、こんなことされて迷惑なのかもしれない。だっていつもよりも全然早い時間なのに、もう寝る予定だったって、そんなの、私がシたいなんて言ったらモモちゃんの負担になっちゃう。頭の片隅ではそう理解してるのに、まだぼーっとしてる頭が正常な判断をしてくれない。
あとで、一人ですればいい。そうしたらモモちゃんには迷惑かからないもん。でも、もうちょっとだけ。そんな気持ちで目の前にあるモモちゃんの耳たぶを咥えた。いつもそこにあるお揃いのピアスが無いことが、今は無性に不安になった。
『私、それが理由で元彼と別れたもん』
飲み会の席での会話を思い出して、不安が大きくなっていく。最後にシたのがいつかも覚えてない、シたいけど今はタイミングが悪くて、でも私はがっついちゃってる。全部ダメだ。今の私の行動が裏目に出るのはわかってるし、モモちゃんの静止の声も聞こえる。でも、体が言う事を聞かない。モモちゃんが欲しい。だから、もうちょっとだけ、そう呟いたとほぼ同時にモモちゃんが、もう無理! と声を上げた。
嫌われちゃった。そう思っていたら降ってきたキスの雨。何度も重なる唇に、絡められた熱い舌に、泣きそうなほど安心する。それと同時に心が落ち着いてきて、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「モモちゃん」
「ん?」
「ごめんなさい」
私の突然の謝罪を、モモちゃんは優しい表情で聞いてくれる。
「何で謝るの?」
「迷惑だったでしょ……?」
「んー、迷惑というより、困惑?」
そう言ってモモちゃんが熱を持って硬くなったものを私の中心に押し当てた。反射的に引いた腰を、逞しい腕に押し戻される。
「人のことその気にさせておいて、するつもりないなんてどういうつもり!?って」
もう寝ようとしてたモモちゃんをその気にさせてしまった事への申し訳なさを改めて感じながら、もうここまできたら言うしかない。と、本音を吐露した。
「……本当はね、モモちゃんとえっちしたいの」
「え、なのにお預けするの!?」
「だって、明日早いって」
「そんなやわじゃないんだけどなぁ」
心外だ。とでも言いたげな表情で私をまっすぐ見つめるモモちゃん。ここまできたら、私が言う言葉は、ただ一つ。
「シてくれる……?」
恥ずかしさとか、興奮とか、期待とか。いろんなものが混ざって、視界が徐々にぼやけていく。返事の代わりに降ってきたキスに大好きが溢れて、やっぱり私にはこの人しか居ないなんて、そんな当然のことを改めて思ってしまった。
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