同じ時を、貴方と




※夢主=岡崎事務所マネージャー

 ホテル・ミドーのスイートルームでの万理くんへのサプライズが終わった後、私達はRe:valeの2人が用意してくれたルームサービスでお酒を楽しんでいた。と言っても、お酒があまり強くない私は紡ちゃんと2人でソフトドリンクで喉を潤している。
 仕事でとは言え、こんなに素敵なホテルに泊まれて幸せだな。なんて、普段足を踏み入れることさえできないであろうスイートルームを改めて見渡しながら、隣にいる彼の様子を盗み見る。幸せそうな彼の表情に、つい笑みが溢れそうになって唇を引き結んだ。

 私と万理くんはお付き合いをしている。昔からの知り合いであるユキに誘われて岡崎事務所に入社して数年、ある日突然「万が見つかった」とユキに聞かされた。万理くんと再会した時は涙が出るくらい嬉しくて、ユキに引かれるくらい大泣きをした。
 そこから私たちが付き合うまで、そう時間はかからなかった。何か大きなきっかけがあったわけではない。定期的に食事に行ったり、休みの日に出かけたり、そうやって一緒に過ごす時間が増えていったある日、万理くんから告げられた「もうどこにも行かないから、この先の人生ずっと俺の横に居て欲しい」なんて、まるでプロポーズの様な告白に、頷く以外の選択肢など、私は持ち合わせていなかった。

 仕事で公私混同しないようにと、呼び方も変えて、適度な距離を保って居たと言うのに、付き合ってすぐに姉鷺さんから「2人って付き合ってるんでしょ?」と言われた時は万理くんと顔を見合わせて苦笑いをしてしまった。これは後から知った話だが、どうやらユキが言いふらしていたらしい。





 シャンパンのボトルが数本分空になった頃、各事務所のマネージャー達によるうちの子自慢大会が始まった。

「やっぱりTRIGGERが最強よ!」
「ŹOOĻだって負けてませんよ」
「うちのRe:valeこそ王者です!ね!片瀬さん!」
「そうです!岡崎さんの言う通りです!」
「IDOLiSH7だって!」

 ですよね、万理さん! と紡ちゃんが万理くんに話を振るも、返事がない。あれ、万理くんがこの手の話題に乗らないなんて。そう思って隣に座ってる万理くんの顔を覗き込もうとしたと同時に、肩に重みがかかり、私の頬を濃紺の長い髪が撫でた。

「ばん……!お、大神さん!?」
「あら、大神さん寝ちゃったの?」
「結構飲んでましたからね」
「僕たちもそろそろ部屋に戻りましょうか」

 宇都木さんの言葉をきっかけに、片付けを始める4人を手伝おうと立ちあがろうとして、腰に回っている腕に気付いた。

「ふふ、大神さんって、意外とかわいいところがあるのね。奈々美ちゃんと居る時はいつもそうなのかしら?」

 姉鷺さんが微笑ましく私達を見て溢した言葉に、顔が熱くなる。身動きが取れない私と、私を抱き枕にして気持ちよさそうに寝ている万理くん。申し訳なさと恥ずかしさが混ざって、ただただ身を固くしているしかなかった。
 そしえ、片付けを終えた4人は嵐のように去って行った。去り際、紡ちゃんはラピスタグラムで得た知識を持ってして私達の写真を撮影し、「後で送りますね!」と親指を立てた。宇都木さんからは「この部屋はお2人でゆっくり使ってください。誕生日プレゼントってことで」と言う有り難いお言葉をいただいた。その言葉に反応した姉鷺さんの「ほどほどにするのよ。明日動けなくなっても、アタシは助けないわよ」なんて意味深な発言からの、岡崎さんの「大丈夫です。千くんには秘密にしておきますから……」のコンボには、顔に熱が集まったけれど、仕方がないと思う。

「万理くん、起きて」

 軽く体を揺すってみるけれど、気持ちよさそうに眠っている万理くんは起きる気配がない。それどころか、揺らした事で重心が傾いて、頭の位置が私の肩から胸を通って膝へと移動して、膝枕をする形になってしまった。

「もう……。プレゼント渡せないまま誕生日過ぎちゃったし、当の本人は寝ちゃってるし。寂しいんですけど」

 ひとりごちながら、万理くんの乱れた前髪を手で直す。ふと見えた傷跡を指で撫でると、それに反応するかのように万理くんの瞼がゆっくりと開いた。

「あ、起きた」
「んん……奈々美……?おはよう……」
「おはよう。ふふっ、でもまだ夜中ですよー」
「夜中……っ!?」

 眠る前の事を思い出したのか、慌てて私の膝から起き上がった万理くんは、周囲を見回した。

「あれ、皆さんは!?」
「それぞれ自室に戻りました」
「やばい……全然記憶が無い……」
「でも、ついさっきだよ。時間にしたら15分くらい」
「え……俺、変なことしてなかった?」

 変なことって言うのは、どのレベルの事だろう。酔って寝落ちして彼女に抱きつくのは、変なことなのだろうか。

「してたような、してなかったような……?あ、後で紡ちゃんが写真くれるって」
「何の写真なんだよ……」

 頭を抱えて項垂れている万理くんは醜態を晒したとでも思っているんだろうか。どちらかと言うと恥ずかしい目に遭ったのは私なんだけど、こんなに動揺してる万理くんなんか面白いからしばらくこのままでいいかな。なんてしばらく眺めていた。

「そう言えばね宇都木さんが、この部屋私たちで使って良いって」
「本当に?」
「うん。誕生日プレゼントだって。あっ!」

 そう言えば渡せてなかったんだった。と、ソファの横に置いたままだった紙袋の存在を思い出した。

「はい!これ!私からのプレゼント」
「ありがとう。開けて良い?」
「もちろん!」

 プレゼント開けてもらう時って、ドキドキする。喜んでもらえるかな、気に入ってもらえるかな。そんな僅かな緊張を胸に、万理くんがリボンを解き、箱を開けるのを見届けた。

「うわぁ……」

 感嘆の声を溢した万理くんの手には、ブランド物の腕時計。この前一緒に買い物に行った時、悩んだ挙句万理くんが購入を見送った物だった。

「万理くんが珍しくあんなに悩んでたから、本当に欲しかったんだろうな、って思って」
「うん。実は、あの時買わなかった事ちょっと後悔してたんだ」

 早速腕につけてしばらくそれを眺めた後、万理くんは私に向き直ってそっと抱きしめてくれた。

「改めまして、誕生日おめでとう万理くん」
「本当にありがとう。プレゼントも、大事にするよ」
「どういたしまして。あとね、腕時計にしたのにはもう1個理由があるの」
「何?」

 万理くんの肩に埋めていた顔をそっと上げて、シルバースカイの瞳を見つめる。

「もうどこにも行かないから、この先の人生ずっと俺の横に居て欲しい。……万理くん、前に私にそう言ってくれたの、覚えてる?」
「もちろん」
「私、その言葉が本当に嬉しかったの。だから、これからの人生、ずっと万理くんと同じ時を刻めますようにって願いを込めて」

 そう言って、私はパーティ用のバッグから、ある物を取り出して万理くんの目の前に掲げた。

「えへへ、実はペアウォッチだったりします」

 私の言葉に目を丸くした万理くんは、何か言おうと口を開きかけてぎゅっと引き結んだかと思えば、私の背中に再び腕を回した。先ほどとは違って、まるで私の存在を確かめるように、強く抱きしめてくれた。

「万理くん?」
「ちょっと待って、今、幸せを噛み締めてる」
「よかった。引かれないかなってちょっと心配してた」
「引くわけないだろ」

 その言葉を最後に静寂が訪れる。何も言わなくなった万理くんの肩が少し震えてる気がして、それと同時に私の肩がほんのり湿ったような気がして、大きな背中を私も力一杯抱きしめる。

「もし」
「……ん?」
「もし前みたいに、万理くんがどこかに行きたくなっちゃったらね」
「……うん」
「その時は、私も連れてってね」

 1人にしないから、1人にしないでね。そんな想いを込めて、顔を少し傾けて万理くんの首筋にキスをした。それを合図に腕の力が緩んで、ゆっくり離れる。湿度を帯びてキラリと光った瞳はまるで数時間前に見た宝石のようで見惚れてしまった。

 どちらからともなく重なった唇の隙間から甘い息が溢れた時にはもう、明日のことを考える余裕なんて私達には残されていなかった。




HAPPY BIRTHDAY BANRI
2026.9.8




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