お節介お兄さん




失礼します。という声と共に個室のふすまが開けられる。

「遅くなってすみません」

室内に入ってきたのは、寒さで頬を赤く染めた片瀬ちゃんだった。


「よっ、お疲れ」
「あれ?八乙女さん?」

いい加減楽って呼べよな。なんて言ってる八乙女を、それはまたそのうち、と笑って流しながら、俺の横、入り口に一番近い席に腰を下ろす片瀬ちゃん。
そう、今日はまさかの、俺と八乙女と片瀬ちゃんの3人で食事に来ている。


例の特番の収録も無事に終わり落ち着いた今日、俺は片瀬ちゃんとご飯に行く約束していた。先日の一件から、俺は彼女に聞きたい事が沢山あるからだ。
ドラマの撮影も終わり、店に向かおうと楽屋を出ると、たまたま廊下で八乙女に会い、なんやかんやあって彼も一緒に来ることになった。
仕事の関係で到着が遅れるという片瀬ちゃんに、八乙女も居る旨を知らせようとしたのだが、サプライズの方が面白いだろ?と言う八乙女の謎の提案により、知らせるのを辞め、今に至る。

「お二人は、今日同じ現場だったんですか?」
「いや、局でたまたま会った」
「そーそー。んで、片瀬ちゃんとご飯行くって話したら、八乙女が俺も行きたいっつてさ。俺的には片瀬ちゃんと2人がよかったんだけど」

なんて言いながらテーブルの下で片瀬ちゃんの手を握る。しかし彼女は、そうなんですね!と、さして気にしていない様子だった。
そして、もう何か頼まれました?とメニューを見ている彼女に、いやまだ何も。と言いながら、俺と八乙女はアイコンタクトを取る。

そう、今日のこのタイミングで、俺は片瀬ちゃんについていろいろと聞こうと思っていたのだが、八乙女も来るとなれば話は別。
予め八乙女と話し、まず片瀬ちゃんは、どこまでいけば"異性"を意識するのか、確かめる事にしたのだ。
そして早速ステップ1の手を握るを実行したが、全く反応がないため、食事が運ばれてくるや否や、俺たちは次のステップに進む事にした。


「かんぱーい!」
「お疲れ様です」
「お疲れ」

そう言いながら3人でグラスを合わせ喉を潤す。
テーブルの上に所狭しと並べられた料理。その中で、片瀬ちゃんが食べたいと言っていた料理をわざと八乙女の前に置き、俺たちは再びアイコンタクトを取る。黙って頷いた八乙女は、奈々美。と、彼女を呼ぶ。

「これ食いたかったんだろ?」
「わー!そうです!ありがとうございます!」

と、器に手を伸ばそうとする彼女の目の前に、ほら。と、八乙女が一口大の料理が乗せられているスプーンを差し出す。
所謂、あーん。を八乙女が片瀬ちゃんにしているのだ。
流石に照れるかと思った片瀬ちゃんだったが、いただきます!と、なんの躊躇いもなくそのスプーンに口をつける。
そして、おいしいー!と、満面の笑みを向けながら、八乙女さんもどうぞ、と、彼女の前にある料理を同様にスプーンに乗せて八乙女の前に差し出す。
まさかの返しに照れるかと思えば、そこはさすが抱かれたい男上位。ありがとな。と言いながら、彼女の腕を掴みそのまま料理を口に運んだ。
見てるこっちが恥ずかしくなるようなやりとりだが、本人たちは何も気にしていない様子で、美味いな。ですよね!なんて会話をしている。

「二階堂さんもどうぞ?」

そう言いながら差し出された料理を、俺はいいやと断れば。そうですか?と、そのまま自身の口に運んだ。
ステップ2の間接キス及びあーんも彼女には効果がないようだ。
ふと、ステップが低すぎやしないか?なんて思い、提案者の八乙女を見るが。彼はまた黙って頷くだけだった。




その後、口元についたソースを指で取って舐める、肩を抱く、腰を抱く…ありとあらゆる手を尽くしたが、なびかないどころか、顔色ひとつ変えない片瀬ちゃん。
そりゃそうか、今試したことって普段からタマと片瀬ちゃんがやってることだもんな…もう打つ手なしか…っていうか、俺達一応アイドルなんだけどな…。と、アイドルとしての自信も失いかけた時に、そう言えば。と八乙女が口を開いた。

「奈々美は酒飲まないのか?」

いつもソフトドリンクだよな?と、続けた彼に、あー…と歯切れの悪い返事をする彼女。

「お酒、好きなんですけど、私お酒飲むとすごくおしゃべりになっちゃうんですよね」

だからあんまり飲まないようにしてて…。と、本日初めての照れ顔を見せた彼女に、いやここで照れるんかい!と、心の中でツッコミながらも、1杯くらい飲めば?と勧めてみる。

「いや、でもあまり強くないので、寝ちゃうかもしれないし…」
「迎えの宛てはあるから安心しろ」

そう間髪入れずに言う八乙女に、誰の事だ?と聞こうとしたが、片瀬ちゃんの、じゃあ…1杯だけ…。という声と重なりそうになったため、慌てて飲み込んだ。





そして、1杯だけと言いながらも気付いたら3杯も飲んでいた片瀬ちゃんは、想像以上におしゃべりになっていた。



「それで、環くんってば私の誕生日の時に、おり紙で作ったハートくれたんですよ!めっちゃ可愛くないですか?それから七夕のとき、短冊に書いたお願いが…」


そう、彼女は聞いてもいないのにタマとの思い出話をひたすら話しまくっている。へぇ。とか、そうなのか。とか、相槌を打っている八乙女はいいやつだな。なんて思いながら、俺はこの流れで片瀬ちゃんの事がわかれば儲けもんだ。と、誘導尋問することにした。

「片瀬ちゃんはタマの事が大好きなんだな」
「はい!大好きです!」
「でもさ、久々に再会したタマは身長も伸びてたし、イケメンになってたわけだろ?うっかり、恋愛感情抱いちゃったりしないの?」
「恋愛…感情…?」

そう呟いたかと思えば、片瀬ちゃんは先ほどのおしゃべりモードが嘘だったかのように、静かになり、うーん。と考え込んでしまった。
地雷踏んだか…?と、話題を変えようとしたタイミングで片瀬ちゃんが口を開いた。

「ないですね!私、人を好きになった事がないので!」

そうあっけらかんと言う彼女に、なるほど…。と、納得する。それにしても意識しなさすぎでは?と思うが、それはまた別の話なのだろう。そんな事を考えながら、じゃあさ。と、続ける。

「タマが他の女の子と仲良くしてたらどう思う?」
「えー?またその質問ですか?流行ってるんですか?」

片瀬ちゃんの言葉に、また?と頭の上にはてなが飛ぶ。勿論、俺がこの質問をするのは初めてだ。誰からされたのかと聞けば、環くんですよ。と、まさかの答えが返ってきた。

「オレがななみん以外と仲良くしてたらどう思うー?って、だからお友達ができたんだなーって思って嬉しいけど、ちょっと寂しいよーって答えました」
「あー…なるほど」

タマがどういうつもりでそれを聞いたかはまだわからないが、タマはもしかしたら片瀬ちゃんの事…。そんな事を考えてると、あと。と、彼女がグラスを傾けながら話を続けた。

「十さんの事どう思ってるの?とも聞かれました」
「え」
「まぁ、それについては答えないまま話が進んじゃったんですけどね!」
「へぇ…。それで?お前はなんて答えようとしたんだよ」

八乙女がそう言うと同時に、ふすまの向こうでガタガタと、大きな物音がした。不思議に思いふすまを開ければ、そこには気まずそうに立っている十さんが居た。

「あれ?十さん?」
「十さん!お疲れ様です!」
「お、お疲れ様…」
「早かったじゃねえか。とりあえず入れよ」

お邪魔します。と言い、少しそわそわしながら室内に入ってきた十さん。この様子からすると、ちょっと前から話聞いてたな…。そんな彼をを尻目に、八乙女を見やれば、サプライズの方が面白いだろ?と、笑われた。

「いや、本当びっくりしたわ」
「驚かせてごめんね。楽が伝えてくれてると思ってたから…。でも、明日も早いし、ちょっと顔を出しに来ただけだから」
「えぇ…そうなんですか…?折角なので、一緒に飲みましょうよ!」

そう言いながら立ち上がろうとした片瀬ちゃんは、想像以上にお酒が効いていたようで、あれ?と言いながらバランスを崩し、そのまま十さんの胸元にダイブした。

「え?!だ、大丈夫?!」
「あれ、すみません、なんかふらふらしちゃって」
「おい、奈々美が最後に飲んでたの、お前のじゃないか?」
「は?!まじか、これ結構度強いやつ…」

そう言いながら片瀬ちゃんを見ると、十さんに支えられながらも、んー…なんか…すごい落ち着く…。と、彼の胸の中でうとうとし始めた。
そんな彼女に、顔を赤くしながら慌て出す十さんに、思わず八乙女と2人で笑っていると、笑ってないで助けてくれ!と言われたが、そこにさらに八乙女が追い討ちをかける。

「龍、奈々美ん家知ってるだろ?送ってってやれよ」
「え?!」
「あれ?そうなんですか?あっいや、でもちょっと待って…」

俺は、はっ!と重要な事を思い出し、冷や汗をかく。そして慌ててラビチャを確認するが、時すでに遅し、そこには、りょーかい。という文字と王様プリンのスタンプが表示されていた。
そして間髪入れず、ふすまの開く音が部屋に響く。

「ヤマさーん。来たけど、用って何?」
「四葉?」
「環くん…」
「あ、がっくんとリュウ兄貴じゃん。よっす」

そう、俺は八乙女が十さんを呼んでるとはつゆ知らず、先ほどタマに、用があるからちょっと来てほしいと連絡してしまったのだ。
寮の近くのお店だった事もあり、連絡したらすぐに来てくれたタマ。しかし、タイミングが悪い…!
幸い、十さんの影になっていて、タマはまだ片瀬ちゃんがいる事に気付いていない。俺が今タマを外に連れ出せば…!そう考え動き出そうとした瞬間、環くん…?と、うとうとしていた彼女がタマの声に反応してしまった。


「えっ?ななみん?」


あぁ… 最悪の事態が起きてしまった…。



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