君が見る夢は




「なんで、ななみんがいんの?」

口元から鼻までを覆っていた黒いマスクを、顎までぐいっとおろしながら、タマは不機嫌丸出しの表情と声色で尋ねてくる。
かくかくしかじかと、事情を説明するが、ふーん。とだけ返され、タマはすぐに十さんに支えられたまま、再び微睡始めた片瀬ちゃんの元へと向かう。

「ななみん、起きて?帰ろ?」

タマは片瀬ちゃんの耳元でそう言いながら、十さんの腕から彼女を離そうとするが、十さんは離すまいと、彼女を支えていた腕にぐっと力を入れた。
それに驚いたのは俺と八乙女だけで、タマは屈んでいた姿勢を元に戻し、じっと十さんを見た。

「…リュウ兄貴、離してくんねぇ?」
「…嫌だって言ったら?」

十さんのまさかの返しに、は?と呟くタマの目つきはどんどん険しくなっていき、まさに一触即発という感じで、俺は耐えられず、あー!そうそうタマに用があったんだよ!と、自分の荷物をまとめてタマの肩に腕を回し、出口の方へと押しやる。

「は?!ちょっ、ヤマさん!」
「俺たち、もう帰るな!八乙女、悪いあとよろしく!」

おう。と言いながら八乙女が頷いたのを確認した俺は、そのまま抵抗するタマを連れて店を後にした。








「ちょっ!待てよヤマさん!」

なんなんだよ!と、怒鳴るタマの声で歩く速度を緩める。そして俺は、最初は3人で飲んでたこと、面白半分でタマを呼んでしまったことを説明した。

「本当に悪かった。まさか十さんが来るなんて思ってなくて…」
「……別にいいけどさ」

そう言いながら先に歩いて行ってしまったタマ。もっと拗ねたり怒ったりすると思った俺は拍子抜けしてしまい、その場に立ち尽くす。
ヤマさん、早く帰ろ。と声をかけてきたタマの横に俺は慌てて並ぶ。さっきさ、と呟いたタマが続けた言葉に、俺は再び足を止める。

「ヤマさんが、連れ出してくれてよかったかも」
「え?」
「俺、最近イヤな子なんだ」

イヤな子…?そう聞き返せばタマは、そー。と言いながら、足元の小石を蹴り始めた。

「ななみんがリュウ兄貴と仲良くしてるの見ると、心臓がギュってなるんだ。そんでさ、なんかイライラもするんだ。なんで俺からななみんを取ろうとすんだ!って。この前いおりんの事も叩いちゃったし…多分今日もヤマさんが止めてくれなきゃ、リュウ兄貴に酷いこと言ってた…かも」

そう言いながら夜空を見上げたタマは、空に向かって白い息を吐き出す。な、イヤな子だろ?と、振り向いたタマの顔は、寂しそうで今にも泣き出しそうだった。






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「こいつ、今まで人を好きになった事無いんだと」

すっかり眠ってしまった奈々美ちゃんを座敷の上に横にし、俺と楽は余った食事に手をつけていた。

「そう…なんだ…」
「まぁ、なんでかまでは知らねえけどな」

そう言いながら、グラスに残っていたお酒を飲み干す楽を尻目に、俺は奈々美ちゃんに目を向ける。
気持ちよさそうに眠っている彼女は、今どんな夢を見ているのだろう。

「龍、もう諦めモードだろ?」

楽の言葉に、思わず肩を震わせる。あの時の決心は自分の中だけのもので、まだ誰にも言ってないのに、なぜわかったんだろう。と楽に顔を向ければ、俺の考えはお見通しなのか、ふっと鼻で笑われた。

「どんだけ一緒にいると思ってんだ?そんくらいわかる」
「…楽」
「でも、四葉には取られたくない。違うか?」

頬杖をつきながら詰め寄る楽に、そうだよ。と返せば、そうこなくっちゃな。と、不敵な笑みを浮かべる楽。でも、そんな楽は知らないんだ、奈々美ちゃんが、さっき俺の腕の中で呟いた言葉を。


『なんか…すごい落ち着く……環くんみたい』


彼女はいつも無意識に、環くんを求めてる。環くんは、いつも彼女に求められている。そんな彼に、どうやったら敵うというのだろう。
でも、やっぱり諦めた方がいいのかも。そう呟きながら、俺は奈々美ちゃんに再び目を向ける。

ねぇ、気持ちよさそうに寝ている君は今、誰の夢を見ているの?



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