どの本よりも魅力的な
それはある日図書室で見つけた一冊のノートから始まった。
その日は仕事がオフだった。
四葉さんがMEZZO"の仕事で欠席だったため、図書室に寄ってから帰ろうと、気まぐれに足を向けたのだ。
放課後に図書室を使う生徒はそう多くなく、場所的に1人で居ても騒がれる事ないため、こうしてたまに足を運んでいる。
新入庫の棚を一通り見て、そのうちの一冊を手に取り、窓際の日当たりの良い席へと、私は腰を下ろした。
読書に集中してしまい、気が付けば外は薄暗くなっていた。そろそろ帰ろうと顔を上げると、一番奥の席に一冊のノートが置かれている事に気付く。
誰かの忘れ物だろうか。と、ノートの置かれている席へと足を向けた。
手帳サイズのそのノートは、薄いピンク色で表紙にはろっぷちゃんのシールが貼られていたが、持ち主の名前は特に書かれておらず、仕方ない。と、表紙を開いて私は後悔した。
そう、それはただのノートではなく、日記だったのだ。
読んではいけないと思いながらも、綺麗で丁寧なその字は、図書室のどの本よりも魅力的で、私はその日記に目を通した。
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1月6日(月)
新年なので、今日から日記をつけることにした。
日記をつけるのは初めてだけど、毎日頑張って書くぞ!
今日は朝、寒くて手がかじかんでしまった。
明日は絶対に初売りで買った手袋をしよう!
1月7日(火)
日記って1日1ページ使った方がいいのかな?
そんなに書くことないから5日で1ページになりそう。
今朝おろした手袋は、通学中に駅で落としてしまったみたいで、帰る時には見当たらなかった。
でも帰りに駅に寄ったら、落とし物として届いてた!
ありがとう、届けてくれた人!
1月8日(水)
今日は新学期に入って初めて、四葉くんと和泉くんが登校してきて、クラスのみんなが騒いでいた。
なんでも、年末の歌番組で活躍したらしい。
私は普段テレビを観ないから、全然わからなかった。
そして席替えをして、一番後ろの席になった。
一番後ろの席は本が読めてラッキーって思ったけど、前の席が四葉くんで、黒板が見えづらかった。
前の席の子で黒板が見えなくなるなんて思ってもなかったなぁ。
4時間目と5時間目は、四葉くんは寝てたから黒板がちゃんと見えた!
この先ずっと寝ててくれたらなぁ…なんちゃって!
1月9日(木)
4日目にして早々にネタがなくなってきた。
家と学校の往復だけって、つまらないなぁ。
今更部活に入るは微妙だし、バイトでも始めてみようかな。
できれば、本屋さんでバイトがしたいな。
今度学校の近くの本屋さんで、バイトを募集してないか聞いてみようと思う。
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1ページ目が終わり、ページをめくるが、そこにはまだ何も書かれていなかった。非道徳的な事をしたなと今になって罪悪感を感じたが、中身を読んだことにより、この日記の持ち主が、四葉さんの後ろの席の片瀬さんだということがわかった。
一度持ち帰って、明日渡そうか。と考えたが、最終下校時刻までまだ時間がある。
彼女が忘れた事に気付いて取りにくるかもしれない。と、私はそのノートを司書さんに渡して帰ることにした。
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外はもう薄暗くて、部活をやっている生徒以外は校内におらず、少し怖かった。
そんな校内を、私は一人走っている。
放課後立ち寄った図書室に忘れ物をした事に気付いてしまったからだ。
明日にしようかと悩んだが、忘れたものがノートや教科書ではなく、数日前からつけ始めた日記だったため、誰かに見られる前に。と、慌てて引き返している最中だ。
途中で男子生徒とすれ違ったり、先生に注意されたりしながら、私はやっとの思いで昇降口から一番遠い、図書室に到着した。
着いて早々自分の座っていた席を確認するが、ノートは見当たらない。帰り支度をし始めている司書さんに、忘れ物をした旨を伝えれば、これ?と、ノートを差し出される。
「そうです!これです…!」
「さっき届けてくれたのよ。さ、今日はもう閉めるから、あなたも早く帰りなさい」
届けてくれたのは何年何組の人でしたか?と聞くも、匿名希望だったと言われ、結局私の日記を届けてくれたのが誰なのかわからないまま、私は帰路についた。
夜、宿題を終えて今日の分の日記を書こうとノートを開く。
昨日で1ページ目が終わり、今日から2ページ目だ!と、ページをめくると、そこには見覚えのない筆跡でこう書かれていた。
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持ち主を探るために、中を見させていただきました。
日記とは思わず、すみません。
明日からは四葉さんが寝てたら、後ろから起こしてくださいね。
本屋さんでバイトができるといいですね。
学校の近くより、家の近くの方が何かと楽だと思いますが。
表紙のろっぷちゃん、とてもかわいいですね。
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綺麗で丁寧なその字は、とても魅力的で、日記を読まれた恥ずかしさを感じるよりも先に、なぜか心が躍った。
そして、とある考えが私の頭の中を巡った。
もし、明日も同じところに日記を置いて帰ったら、また何か書いてくれるのだろうか。
そんな思いを頭の片隅に置きながら、今日の分の日記をつけた私はろっぷちゃんのシールを1枚台紙ごと切り抜き、ページの間に挟んで鞄の中にしまう。
早く明日にならないかな。
そう思いながら眠りについた。
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翌日、日記を読んでしまった気まずさと、勝手にメッセージを書いてしまった気まずさが相まって、同じクラスにも関わらず、片瀬さんには特に話をかける事はしなかった。(といっても、今まで一度も喋ったことが無いのだけれど…)
そして昨日読んだ本の続きが気になり、私は四葉さんに断りを入れ、昨日と同じく放課後に図書室に立ち寄る事にした。
相変わらず人は少なく、本を一冊手に取りそのまま昨日と同じ席へ腰をかける。
今更ながら、本なんて図書室で読まずに、借りて家で読めばいいのでは?と思われるかもしれないが、以前本を借りたまま長期のロケに入ってしまい、期限内に返せなかった事があり、それ以来私は図書室の本を借りるのをやめたのだ。
きりのいいところまで本を読み進め、そろそろ帰ろうかとふと顔を上げると、一番奥の席に昨日同様ノートが置かれていた。
そう言えば、片瀬さんは帰りのホームルームが終わり次第、すぐに教室を出て行った事を思い出した。そういう生徒は沢山いるため、特に気にしていなかったが、恐らく図書室に来ていたのだろう。
それにしても、また忘れ物か。と、ため息をつきながら、ノートの置かれている席へと足を向ける。
もう持ち主がわかっているし、中身を見ずともいいだろう。と、そのノートを手に取り表紙に目を向けると、表紙には吹き出し型の付箋が貼られていた。
『昨日ノートを届けてくれた人へ
ノートを開いてみてください!』
その吹き出しはろっぷちゃんの口元に伸びていて、まるでろっぷちゃんが喋っている言葉のように見える。
付箋の言葉通り、私はノートのページを開く。
1ページ目は昨日と変わらず、ここ数日間の日記が書かれている。そして2ページ目を開くと、ノートから何かが抜け落ちた。
慌てて拾えばそれは、表紙に貼られているものと同じ、ろっぷちゃんのシールだった。
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1月10日(金)
昨日は学校に日記を忘れてしまって、とっても焦った。
でも、優しい誰かが届けてくれたみたい!
どうも、ありがとうございます。
四葉くんはお仕事も大変そうなので、3回に1回くらい起こすところから始めようと思います。
アドバイスをもらった通り、バイトは家の近くで探してみようかな。
あなたもろっぷちゃん好きなんですね!
私も大好きです。
よかったらお礼にシールをどうぞ。
P.S.このノートは読んだら、窓側の一番奥の本棚の一番下の段に置いておいてください。
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追伸通りに窓側一番奥の本棚、その一番下の段を見ると、そこは本屋のように本と本の間に見出しプレートが挟まれていて、そのプレートには『片瀬 奈々美』と、彼女の名前が書かれていた。
どうやら彼女は図書委員会らしい。
この学校では図書委員は専用の本棚を使用できると聞いたことがある。他の名前のプレートもある事から、彼女以外にも数名この本棚を使用しているのだろう。
私はノートを開きペンを走らせ、そのプレートのすぐ隣に例のノートを差し込み、足早に図書室を後にした。
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放課後、日直の仕事を終え、図書室に足を向けた。
ホームルームが終わるや否や急いで置きにきた例のノートは、私が置いた席の上には無く、指定した本棚の私のネームプレートの横に差し込まれていた。
ノートを開くと昨晩挟んだシールは見当たらず、その代わりに昨日と同じく、綺麗で丁寧な字でこう書かれていた。
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ろっぷちゃん、ありがとうございました。
大切にさせていただきます。
もしよければ、あなたの好きな物も教えていただけませんか?
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それは、図書室のどの本よりも魅力的で、心が躍るのを感じた。
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