君しか知らない




「ただいま〜!」

静かな室内にオレの声が響く。
今日は奈々美がオフでうちに来てるはずなのに…。さてはまた寝てるな?なんて思いながらリビングへの扉を開けて、目に飛び込んできた光景にオレは思わず声を上げた。


「えっ?!奈々美どうしたの?!」



そう、奈々美がソファに倒れ込んでいたのだ。



モモ、ちゃん…。と力なくオレの名前を呼ぶ奈々美に、誰にやられたの?!なんて声をかければ、これ…。とスマホの画面を向けられる。
そこに映っていたのは、オレ達Re:valeの新曲のMVだった。


「…え?これがどうしたの?」

奈々美を起き上がらせながらそう尋ねれば、彼女はぷるぷると震え始めた。そして何やらぶつぶつと呟き始めた。

「……こ…すぎる…」
「え?」

辛うじて聞き取れそうなワードに反応するオレに、奈々美はガバっ!と音がつきそうなほど勢いよく顔を上げた。その顔は若干赤く、目もきらきらと輝いていた。


「モモちゃん、かっこよすぎる…!」
「うわっ?!」

そう言いながら抱きついてきた奈々美に、オレはバランスを崩しソファに倒れ込む。
俺の胸にくっついたまま興奮気味に、あのね、あそこがよかったよ!と、動画を見返す奈々美がすごくかわいくて、えー?どこどこ?と頭を撫でながら、オレはただただ彼女の話を聞くことにした。


「ここの!ソロカットの、アップの!ここ!ウィンク…!あと、ここの、ユキさんと2人のところ、モモちゃんほっぺ押さえてるのかわいい、ギャップ…!ユキさんもかわいい!」
「ここのユキいいよね〜!」
「うん!でも、モモちゃんが一番!あとあと、このトランプ持ってるところも…!」


その後も興奮は冷めず、どんどんヒートアップしていく奈々美。新しい駅すごい!とか、電車がかわいいとか、このトランプ欲しい〜!とか、いろんな感想を言ってくれる奈々美は曲の一番最後、オレとユキがビルに映っているシーンで動画を一時停止し、一段と声を大きくした。

「ここ…!」
「あ〜これ…」
「このモモちゃんの、表情…!」

えっちすぎるよぉ〜。と言いながら脱力する奈々美。そのままオレの肩口に顔を埋める彼女の頭を撫でながら、オレはスマホを奪い画面に映っている自分を見る。
確かに、普段ファンには見せない表情だし、このMV全体を通して見ても、まぁ、自分で言うのも何だけど、ギャップがすごいと思う。(勿論、ユキのほうがかっこいいけど…!)


「で、このMV見て、オレがかっこよすぎて倒れてたの?」
「そう、モモちゃんがかっこよすぎて倒れてたの」

そう言いながら上体を起こしオレの胸から離れた奈々美は、少し頬を染めながら下唇をキュッと咥え頬を膨らましていた。え?なんでむくれてんの?と、彼女の頬を指でつつけば、ぷすっと音を立てながら彼女の口から空気が抜けた。

「モモちゃんが、かっこよすぎるから…」
「さっきからそればっか!」
「だってかっこよすぎるんだもん…!それに、こんなモモちゃん…」

そこまで言うと奈々美は更に頬を染めて、オレから視線を逸らした。奈々美が言いたいことはなんとなくわかったオレは、ニヤつく顔を必死に抑えながら上体を起こし、その勢いで今度は彼女と向かい合う形で座る。そして、黙ったままの奈々美の耳に唇を寄せて、彼女の言葉の続きを囁く。




「こんなえっちなモモちゃん、私しか知らなくていいのに、って?」




わざと、えっちの部分を強調したオレの声に反応したのか、少し跳ねた奈々美を尻目に、オレは真っ赤な耳をひと舐めする。可愛い声をあけながら慌ててオレの肩を押して離れた奈々美を追っておでこ同士をくっつければ、潤んだ瞳がじっとオレを見つめていた。


「…ごめん、なさい」
「なんで?やきもち、かわいいよ」
「…めんどくさくない?」
「めんどくさいなんて、思うわけないじゃん!」

だから泣かないのと言いながら、涙が溜まった目尻にチュッと音を立ててキスを落としせば、奈々美はオレにギュッと抱きついてきた。

「困ったなぁ…。私、どんどんモモちゃんの事好きになってく」
「オレだってそうだよ」
「みんなのモモちゃんなのに、わがまま言いたくなっちゃう」
「ふふっ、そんなみんなのモモちゃんにわがまま言えるのは、世界で奈々美だけ!それにさ…」


そこまで言って、オレは奈々美をゆっくりとソファに沈めて、そのまま深くキスをする。ちょっとだけのつもりが、溢れる奈々美の声になんだか止まらなくなっちゃって、オレは奈々美に胸を叩かれるまで無我夢中に彼女を味わった。
肩で息をしながらオレを見つめる奈々美に、今度はチュッと音を立てながら軽くキスをして、奈々美はさ、と話を続ける。



「奈々美にしか見せないオレの顔、沢山知ってるでしょ?」



ね?と首を傾げれば、奈々美は顔を真っ赤にして頷きながら、小さな声でこう言った。



「……今日も、見せてくれる?」



オレはその言葉に口角を上げながら、返事の代わりにキスを返した。



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