全部疲れてるせい




あの日以来、お互い忙しく万理とはなんとなく連絡を取る日だけが続いていた。おはようから始まりその日は何があったとか、そんな日常的な会話をして、おやすみで終わる。ただそれだけのやりとりを、だらだらと。

そんなある日、万理から買い物に付き合って欲しいと連絡が入った。なんでも一緒に働いている女性社員が退職するにあたり、みんなでプレゼントを贈る事に決またらしい。その買出し係に万理が指名されたため、プレゼント選びを手伝って欲しいとの事。


-別にいいけど、同じ会社の人と行った方がいいんじゃない?

-みんな忙しいからさ。じゃ、今度の土曜14:00に迎えに行くから、住所送っといて。


暗に、おまえどうせ暇だろ?と言われているようで少し腹が立ったが、その反面少し楽しみな自分もいる。
そんな私はラビチャに住所を打ち込みながら、何を着て行こうかな、なんて頭の片隅で考えるのだった。



そして土曜日、時間通りに家にやってきた万理は、来て早々顎に手を添えながら私の頭のてっぺんからつま先までを舐めるように見やる。
品定めされているようで気分が悪く、何よ。とジト目で尋ねれば、なんでもないよ。と胡散臭い笑顔で返された。きっとこれ以上聞いても万理は答えてくれないだろうし、なんでもないならいいや。と特に気にせず靴を履く。
その間に万理は私の荷物を持って玄関を出ていた。
以前待ち合わせの際に利用したカフェでもそうだったが、万理は人の荷物をさらっと持ってくれる。
そんな些細な気遣いに感心しながらも、周囲から"男に荷物を持たせる女"として見られるのでは、と少し考えてしまった。

「ねぇ」
「ん?」
「荷物くらい自分で持つから、大丈夫だよ?」
「え?…あぁ、つい癖で」

そう言いながら、はい。と荷物を返される。
癖でって…荷物を持たせるような女と付き合ってたのか、はたまた癖になるほど沢山の女と付き合ってきたのか。なんとなくモヤッとした気持ちを抱きながら、鞄から鍵を出して閉める。
すると、くすっと小さな笑い声が聞こえた。

「…何?」
「いや、おまえってわかりやすいなぁって」
「はっ?何が!」
「俺の名誉のために言っておくけど、荷物持つのに慣れてるのは仕事柄。うちにはプリンに夢中で荷物を置いてっちゃうような子が居るからね」
「なっ、何の話?!」

私の考えが見透かされていたのが恥ずかしくて、下手な誤魔化しをするも、身体は正直で顔に熱が集まるのが自分でもわかった。
その様子を見た万理は再びくすくすと笑い出したかと思えば、ぽんっと私の頭に手を乗せ、ぐっと顔を寄せてくる。


「女だと思って、やきもち焼いたんでしょ?」


耳元でそう囁かれ、私は反射的に耳を押さえる。

にやついた顔で私を見下ろす万理をバッグで軽く叩きながら、早く行くよ!と逃げるように歩みを進めれば、後ろからは、はいはい。と楽しそうな万理の声が聞こえた。

きっと今私の顔はさっきと比べ物にならないほど真っ赤なんだろう。







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奈々美の私服姿を見て驚いた。
率直な感想は、こいつこんなにスタイルよかったんだな。だった。
ボディラインがわかるニットのワンピース姿を見て、思わずそんな感想を抱いてしまうくらいには、ウエストは細く、出るところは出ている。
以前会った時は仕事後だったこともあり、オフィスカジュアルという服装上あまり気にして無かったが、そう言えば寝ぼけた奈々美に抱きつかれた時、それなりにあるな…。なんて思ったのを思い出した。
しかし、そんな事を本人に言えばデリカシーが無いとか言って怒られそうだし、不機嫌になられてもめんどくさい…。ジト目で、何よ。と言う彼女の問いかけに、なんでもないよ。と笑顔で返しておいた。


車を運転しながら、そう言えば奈々美は学生時代、そこそこ人気があった事を思い出した。
落ち着いた性格で、誰にでも分け隔てなく接するタイプ、おまけに顔も悪くない。目立つタイプの男子生徒からも、女子とあまり関わりのなさそうな男子生徒からも、それなりに人気があった。
一番近くに居たからか、俺はその良さに気付かないまま青春時代を過ごしたが、今思うとあの頃の俺の異性の基準は全て奈々美だった気もする。(それでも、俺は奈々美本人には恋愛感情を抱いた事は無かったのだが)

奈々美も高校時代には何度か告白されていたようだが、俺の知る限り出会ってから高校卒業まであいつに彼氏がいた記憶はない。
大学に入ってからは彼氏ができたようだったが、その頃にはもう疎遠になっていたから詳細は知らないし、正直そこにはあまり興味がなかった。

それより興味があるのは、今の奈々美だ。

昔と変わらず落ち着いた性格だが、その性格に昔より磨きがかかり、今の彼女は外見も相待ってクール系という言葉が似合う女になっていた。ただ、少しからかっただけで顔を赤くする奈々美が、正直面白くて仕方がなくて、もっとからかってやりたいなんて感情が芽生える。
そんな事を彼女に伝えれば、人をおもちゃにしないでよ!なんて怒るのだろうか。それとも、蔑んだような目で俺を見ながら、万理ってクズな上にゲスいんだね。とでも言い放つだろうか。
そんな事を考えていたら、いつの間にか唇が弧を描いていたのか、助手席に座っている奈々美から、何ニヤニヤしてんの…。と冷たい視線が飛んできた。

そして確信した。確実に後者だ、と。




「今日どこまで行くの?」
「ソライロモールにしようと思ってたけど」
「いいね。私行きたいお店あるから、寄ってもいい?」
「いいよ」

そう言えば、やった!と少しご機嫌になった奈々美は、なんか音楽流していい?と俺の返事を待たずに車に内蔵されている音楽プレーヤーをいじり始めた。

「うわ、Re:valeばっかり」
「ファンだからね」
「ふーん…。なんだっけ、あんたの相方だった…マキ?」
「ユキ、ね」
「あー、そうそうユキ。連絡取ったりしてるの?」
「まぁ、それなりに。仕事でも会うしね」

自分から質問をしてきたくせに、大して興味がないのか、へぇ。と言いながら未だにプレーヤーをいじっている奈々美は、あっIDOLiSH7だ。と再生ボタンを押した。

「好きなの?」
「まぁ、結構好き。CMとかでもよく聴くし。センターの子かわいいよね」
「あぁ、陸くんね」
「そうそう。…そういえば、万理もアイドルのマネージャーなんでしょ?なんて子達なの?」

地下アイドル?と聞いてくる奈々美に、まぁそのうちバレるだろうし、こいつになら言っても平気かと、IDOLiSH7だよ。と言えば、自分から聞いてきたくせにこれまた、へぇ。と興味なさそうな返事が返ってくる。

「反応薄いな…」
「え?いや、すごいなぁって思ったよ?」
「あぁそう…」

俺の表情を見た奈々美は、本当だって。と口を尖らせた。それ以降、静かになったと思えばスマホに夢中になっている奈々美。信号待ちでその画面を覗けば、IDOLiSH7のプロフィールを見ていた。

「俺に聞けば良いのに」
「え?ちょっと、勝手に覗かないでよ!」

スマホを自身の胸に抱きながら慌て始めた奈々美は、俺をちらっと一瞥して、いや、なんか…と呟き始めた。

「休みの日くらい仕事の事忘れたいじゃん…。まぁ、私から話振っといてなんだけどさぁ」
「…そんなん、気にしないのに」
「本当に?じゃあ聞いていい?」

少しだけ目を輝かせながら、先程とは打って変わって、遠慮なく彼らについて聞いてくる奈々美に、俺は答えられる範囲で答えていく。ほんの少しだけ、さっきの彼女の気遣いが嬉しかったなんてそんな事を思ってしまったのは、きっと少し混んでいる道を運転して、疲れているせいだろうと、俺は自分に言い聞かせる。
そうこうしているうちに目的地に着いた俺達は、人の多さにげんなりしながら早々にプレゼントを選び終え、カフェで一息つく事にした。



「いいの見つかってよかったね」
「お陰様で。付き合ってくれてありがとう。俺はもう用はないし、後はおまえの行きたい店付き合うよ」
「あー…。それなんだけど、すごい混んでそうだし、いいかなぁって…」

差し出されたフロアガイドの彼女が指を指しているところを見れば『うさみみフレンズショップ☆』と書かれていた。
たしかに、子連れの多い土曜日このようなお店の混み具合は想像に容易い。あぁ…。と納得していれば、これに行きたかったんだよね。と今度はイベントガイドを差し出される。

「ろっぷちゃんグリーティング…?」
「そう、ショップで3,000円以上買えば参加できるんだって。ろっぷちゃんと一緒に写真撮れるの」
「おまえ本当さぁ…」
「なに?」

頬杖をつきながら首を傾げてる奈々美は、ぱっと見キャラクターものが好きそうな女には見えなくて、ギャップがすごいの一言に尽きる。まぁ、そんなところがかわいいんだよなぁ。と、ふと考えては、いやいやこいつをかわいいと思うなんて、人混みに揉まれて疲れたせいだ、絶対にそうだ。と自分に言い聞かせながら目頭を抑えた。

「え?急にどうしたの?疲れた?大丈夫?」
「いや、大丈夫…。それより、折角だから行ってみたら?思ったより空いてるかもしれないし。今日しかないんだろ?」
「そうなんだよね。うーん……じゃあ、行くだけ行ってみてもいい?」
「勿論」

俺がそう言えば、ありがとう。と少し照れたように頬を染めた奈々美に、こういう時素直なところもかわいいよなぁ。なんてふと考えては、俺は再び目頭を抑えるのだった。



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