君に似合うのは




今日は某テレビ局の開局記念パーティー。

ありがたいことに招待してもらったオレ達は、少し早めに到着できて、お世話になってるいろんな人に挨拶をして回っていた。
大体の挨拶も終わって、少し一息付こうかとユキと話していたら、千さん!百さん!と元気いっぱいな声で呼ばれる。声の主を振り返れば、そこにはIDOLiSH7のみんながいた。


「おー!みんなー!」
「おはようございます!」

みんな口々に挨拶をしていると、彼らをみてユキが不思議そうに口を開いた。

「あれ?大和くんは?」
「ヤマさん、前の仕事押してるから、後から来るって」
「折角のパーティーなのに、大和ついてないね」

ほら、美味しいものも沢山あるよ!と言いながらテーブルを指差せば、環がいち早く反応して陸と2人で騒いでいる。そんな賑やかな声の中みんなで談笑していると、不意に服の端を誰かに引っ張られた。


「もっ、百さん」


振り向けばそこには、グレー地に白の花柄のシースルードレスに身を包んだ奈々美がいた。そのドレスは先日オレと一緒に選んだドレスで、奈々美のパブリックイメージのクールにぴったりだった。
陸を筆頭にみんなが口々に、あっ!奈々美さんだ!なんて挨拶をするが、奈々美はそれに軽く返事をながら、お話中すみません。と言って頭を下げる。その声は少し不安げで、顔を覗けば今にも泣きそうだった。

「…奈々美ちゃん」

どうしたの?と、俺が尋ねるのと同時に、奈々美〜?と、彼女を呼ぶ声が聞こえた。その声を聞いた奈々美は、俺の背中に身を隠す。



「おや?モモ?なんでこんなところにいるのさ」
「了さん…。それはこっちのセリフなんだけど」

そう、人をかき分けながらやってきたのは、了さんこと、ツクモプロダクションの社長、月雲了だった。了さんはニヤニヤと怪しい笑みを浮かべながら、赤ワインの入ったグラスを片手に襟を正した。

「そんなの、招待されたからに決まってるじゃない。そんな事もわからないの?ほんっとモモって…まぁ君のことはいいや。それより奈々美、酷いなぁ。僕の顔を見て逃げ出すなんて。まだ僕のことがこわいのかな?」
「えっ…いや、あの…」
「あぁ、その今にも泣きそうな顔、最高だよ!君は泣き顔が1番かわいいからね。モモもそう思わない?」
「はぁ?笑顔の方がかわいいに決まってんじゃん!」

賛同を求める了さんを睨み付ければ、了さんはオレの言葉で眉間にシワを寄せた。

「笑顔…?そんなもの僕はいらないね。それより奈々美、ほら、早く泣いてよ。今日は奈々美の泣き顔が見るために来たんだから」
「なっ、泣かないです!」
「え〜!やだやだ!泣かない奈々美なんてかわいくない!何したら泣いてくれる?そうだ、このパーティーをめちゃめちゃにしようか?料理なんて美味しくなさそうだしね。全部ひっくり返しちゃおうか」

そう言いながら了さんは、近くのウェイターが運んでいたお皿を取り上げてひっくり返した。べちゃべちゃと音を立てて床に落ちた料理を、思いっきり踏みつけながら、床にお皿を叩きつける了さんに、奈々美が小さく震えたのがわかった。
奈々美は了さんに恐怖心を抱いているのだ。
了さんがツクモの社長になる前から、何かとちょっかいをかけられていた奈々美は、了さんの言動全てが怖いのだと前に話していた。
ぎゅっとオレのジャケットを握る力が強くなったのがわかった。


「あれ?これくらいじゃ泣かなくなっちゃった?残念。あーあー、つまんなーい!もう帰ろっと。じゃあね、奈々美。今度はちゃんと君の泣き顔が見られるように、いろいろ考えてくるからね」


ひらひらと手を振りながら、オレと奈々美の横を通り過ぎた了さんが、あっそうだ。と振り返ってこう言った。

「もう、これもいらないから、奈々美にあげるね」
「きゃっ…!」

ぱしゃっという水音の後、グラスの割れるパリーンという音が会場に響いた。
了さんが、手に持っていた赤ワイン入りのグラスを奈々美に向かって投げつけたのだ。グレーのドレスの一部がみるみるうちに赤く染まっていく。
呆然と立ち尽くす奈々美を慰めるのが先か、了さんをぶん殴るのが先かなんて、天秤にかけるまでもない。

「っ…ユキ、ちょっと奈々美をお願い」
「わかった」
「奈々美さん、大丈夫ですか?」
「陸くん…うん、大丈夫だよ…」
「ななみん。これ、タオル借りてきた…」
「お客様、お怪我はありませんか…」

みんなが奈々美を心配する声を背に、オレは了さんを追いかけた。







了さんまでの距離はそう遠くないのに、人が多くてなかなか追いつかない。ようやく視界が開いて、了さんの背中まであと一歩と言うところで、ウェイターが料理の乗った台車を押しながらやってきた。それにぶつかりそうになって、咄嗟にオレは足を止める。

「もっ、申し訳ありません!」
「大丈夫大丈夫!こっちこそ、周り見れてなくてごめんね!」

ふと、了さんの方を向けば、彼はもうエレベーターに乗り込んでいて、オレに向かってバイバーイ。と言いながら手を振る。そのまま俺たちの間に壁を作るように、エレベーターのドアが閉まった。
くそっ…!と無意識に声に出していたのか、ウェイターは、本当に申し訳ありません!!と深々と頭を下げた。

「ごっごめん!違うんだよ!ちょっと最低な大人がパーティーに来ててさ…。それより、料理ありがとうね、超美味しくてつい食べすぎちゃう!」

みんな待ってるから、早く運んであげてよ。と、ウィンクをひとつ投げれば、さっきまでの怯え切った顔は何処へやら、ウェイターは、はい!と笑顔で会場へと料理を運んで行く。その後ろ姿を見送りった後、オレは閉じたエレベーターの扉をひと睨みして、再び会場へと足を向けみんなの元へと戻ったが、そこに奈々美の姿は無かった。

ユキに聞けば、俺が出て行った方とは逆の扉から出て、お手洗いに向かったらしい。ユキに一言お礼を言って、オレはクロークに立ち寄ってから彼女を探しに会場を後にした。








オレたち招待客がパーティー会場以外に行ける場所なんて、お手洗いか途中にある休憩スペースしかなくて、案の定奈々美は休憩スペースの端っこで、俯いたままタオルでゴシゴシと、自身のドレスについた染みを拭いているようだ。
時折聞こえる鼻をすする音に、了さんの勝ち誇った顔が一瞬頭に浮かび、オレは無意識のうちに拳を握っていた。



「…奈々美、大丈夫?」



オレの声に弾かれたように顔を上げた奈々美は、その大きな瞳からぽろっと大粒の涙を流した。それを拭うように手を伸ばせば、目を伏せながら頬をすり寄せる奈々美。オレは手に持っていた紙袋を傍へ置き、オレの腕の中で静かに泣く奈々美を抱きしめ、その頭をそっと撫でる。


「オレが近くにいたのに、ごめんね」

そう呟けば、彼女は顔をオレのお腹に額をつけたまま、首を左右に振った。まだ喋られる状態じゃないのだろう、何度も何度も首を振る奈々美の姿に胸が痛む。彼女の背中をポンポンと叩いていると、次第に落ち着いてきた奈々美が、ぽつぽつと言葉をこぼし始めた。

「…ドレス」
「ん?」

オレはその場にそっとしゃがみ、奈々美の両手を握り、後の言葉が紡がれるのを待つ。

「モモちゃんが、選んでくれたのに…」
「…うん」
「モモちゃんがっ、似合ってるって、好きだって、言ってくれたのに…こんな…。もう、パーティーにも、戻れない」

落ちないシミへと視線を落とすと同時に、再び涙が滲みはじめた奈々美の目元へ、オレはそっとキスをして、今にも溢れそうな涙を掬った。

「大丈夫、戻れるよ。…これ、奈々美へのプレゼント。本当は帰りに渡したかったんだけど」

開けてみて?と言いながら、オレは傍に置いていた紙袋を彼女へと渡す。なんで今?とでも言いたげな顔で袋を開けた奈々美は、それを見た瞬間ぎゅっと抱きしめて、再び涙を流した。


「本当は、こっちの色の方が奈々美に似合うと思ってさ」


オレが渡したのは、今奈々美が着ているドレスの色違い。ピンク地に白の花柄の、奈々美によく似合う可愛らしいデザインだった。
クールなイメージとは程遠くて、仕事では着られないだろうけど、いつかこれを着た奈々美と、どこかへ行けたらななんて、そんな事を考えながら秘密で買っていたのだ。

「奈々美のイメージとはちょっと違っちゃうけどさ、たまにはみんなにかわいい奈々美も見せちゃおうよ」

ね?と、ウィンクを一つ飛ばして、彼女の涙を指ですっと拭えば、うんっ!と、とびきりの笑顔が返ってきた。
やっぱり奈々美は笑顔が一番かわいい。


「オレ、先に戻ってるから、着替えたらまたオレのところおいで」
「うん。ありがとう、モモちゃん」

チュッとお礼のキスをしてくれた奈々美の後ろ姿を見送り、その足取りが軽い事に安堵の息を吐きながら、オレは一足先に会場へと足を向けたのだった。



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