ずっと
「まじありえねー。みんな自分の名前以外にも喋ってたじゃんか」
楽屋に入ってからずっとこの調子で文句を言いつづけている環を、壮五が困り顔でなだめている。そんな状況に一織はしびれを切らし、大きなため息をついた。
「四葉さん、いい加減うるさいです」
「だって、いおりん」
「だってもなにもありません。どうせこの先しばらくお世話になるんです。話すチャンスはいくらでもあるでしょう」
そもそも、先日の雑誌撮影では一方的に自分の事を知り、メンバーに探りを入れてくる彼女を"こわい"と言っていた環が、なぜこんなにも彼女と話せなかっただけで文句を垂れているのか、一織には理解ができなかった。
そんな一織の疑問を解消する言葉を、環に投げかけたのは陸だった。
「ねぇ、やっぱり環と片瀬さんは知り合いなの?」
「そう。ずっと探してた」
「ずっと?」
ずっと。と続ける環は壮五を一瞥した。そんな環に壮五は、話してもいいんじゃないかな?と声をかける。
意を決したように、環は自身の幼少期について嬉しそうに一織と陸、そして壮五にも、語り聞かせた。
同じ施設で育った事。
いつも後ろをついて回っていた事。
守ってあげなきゃならない存在だという事。
そして、彼女に髪を結われるのが好きだった事。
「最初はさ、名前が一緒なだけだと思ったけど、今日会ったらあれは間違いなく、ななみんだ!って俺すぐわかったんだ」
「すごいや!それって運命ってやつじゃん!」
「だろ?」
「なるほど。それで片瀬さんは、二階堂さんに執拗に四葉さんについて質問をしてきたんですね。四葉さんが彼女の知っている、"四葉環"であるか確認するために」
「多分。だから今日会ったら真っ先に話しかけたかったのに、ヤマさんが邪魔した」
挨拶の時の事を思い出し、環はまた口を尖らせる。そんな環に陸は笑顔で、早く言ってくれればよかったのに!と声をかけるも、違かったら恥ずいじゃんか。と、頬を掻きながら呟く環。その様子は傍目から見て微笑ましい光景だったが、一織は眉間にしわを寄せた。
「四葉さん、もしかして片瀬さんの事が好き、とか言いませんよね?」
「好きに決まってんじゃん」
「…聞き方を変えます。片瀬さんに恋愛感情を抱いていませんか?」
「れんあいかんじょー?」
なに、どういう事?と、隣にいる壮五に聞くも、壮五の言葉は一織のため息にかき消された。
「わからないならいいです。ただ一つ、私たちはアイドルです。知り合いだからと言って、女性と親しくしすぎるとスキャンダルのネタになります」
それだけは、忘れないでください。
一織は環の目をまっすぐ見ながら、淡々と言い放った。それと同時に、楽屋にノックの音が響き、ドアが開く。
そこには身支度を整えた三月が立っていた。
「あ!三月だ!もう終わったの?」
「おぅ!もう直ぐ大和さんとナギも終わるからみんなを呼びに来たんだ。俺達打ち合わせあるし、楽屋に1人で残るのって寂しいだろ?4人で行っても余裕ある部屋だし、みんなで行けばいいんじゃないか?」
じゃあ、お言葉に甘えようか。と言う壮五の言葉を皮切りに、4人はメイク室へ足を向ける。
環は自分の心臓がドキドキと、大きく脈打っているのを感じていた。いざ会うとなると緊張してしまうのも無理はない。
しかし、メイク室はもう目と鼻の先。
環の気持ちを他所に、先頭を歩いていた陸が元気よく扉を開けた。
いよいよ再会の時。
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