爆弾投下




「いやあ、ちょうどみんな出払っててね。暇してたんだよ」
「は、はぁ…」
「あ、これ食べる?三月くんが焼いてきてくれたクッキー」

遠慮しないで。と差し出されたクッキーを、じゃぁ…と1枚受け取り、口に運びながらふと思った。
私、なんでこのおじさんと優雅にお茶してるんだっけ…?




遡る事数分前

事務所の周りをうろついていた私に声をかけてきたおじさんは、私が万理の知り合いだとわかるや否や、事務所内に私を招き入れてくれた。
そしてあれよあれよと言う間にお茶の用意がされ、お構いなく。と席を立とうとしたところに、おじさんが抱えていたピンクのうさぎ…?が私にダイブしてきたのだ。
そのあまりのかわいさと抱き心地の良さに、少しくらいならいいじゃないかと悪魔が囁き、今に至る。


「それで、君は…」
「あっ、片瀬 奈々美です」
「奈々美さんだね。奈々美さんは、万理くんとどんな関係なんだい?」
「どっ、どんな…?えっと…一応、恋人…?です」

突然の質問に、疑問形でそう答えれば、君があの!とおじさんは笑顔になった。なんでも、万理からなかなか紹介してもらえずにいたから、彼女がいるなんて嘘なんじゃないかと思っていた!と言うのだ。
嘘という言葉に少し肩が跳ねたが、にこにことしているおじさんを見る限り、バレてはいなさそうだ。


そして私はあることに気付いた。いや、まさかとは思いながらもティーカップを置き、おじさんを見つめる。

「あの、つかぬ事をお聞きしますが…」
「ん?」
「いや、あの、万理の上司の方…ですよね?」
「上司といえば、上司なのかな?小鳥遊音晴、この小鳥遊事務所の社長です」

よろしくね。と差し出された手を握りながら、やっぱり社長だった…!と緊張で急に胃が痛み出したのを感じた。







「それでね、最近うちの娘が結婚したからね、万理くんはどうなんだい?って話になってね」
「なるほど」

話す事が好きなのだろうか、初対面の私とも気兼ねなく話してくれる音晴さんと私は、あっという間に仲良くなった。(ちなみに社長と呼んだら、君の社長ではないから名前で読んで欲しい。と言われたので、お言葉に甘えて音晴さんと呼ぶ事にした。)
いろいろと話しているうちに、私の知らない万理をこの人は知ってるんだろうなぁ。と思い、私からも質問をしてみることにした。


「あの!万理って、職場ではどんな感じなんですか?」
「とても頼れるし、優しくて、みんなから愛されてるよ。この小鳥遊事務所になくてはならない存在さ」
「そう、なんですね…」

真っ直ぐ私を見ながらそう言う音晴さんに、なんだか自分が褒められているような、不思議な感覚に陥って、少し照れくさかった。それを誤魔化すようにカップに口をつければ、音晴さんは小さく笑った。

「それに万理くんは、真面目で仕事熱心だからね。羽を伸ばせる場所があるのか、正直心配だったんだ。でも、君のような素敵な人が居るなら、大丈夫かな」

相変わらずにこにこと人当たりの良さそうな笑顔でそういう音晴さんを、騙してしまっているという事実に罪悪感が生まれる。でも、ここで本当は恋人じゃないんです。なんて言える訳もなく、曖昧な笑顔を返すことしかできなかった。



「君たちはまだ若いから」
「へっ?」
「きっとこの先いろいろあると思うけどね。想いを伝えられる距離にいるうちに、自分の想いはきちんと伝えるんだよ。好きも嫌いも、全部ね」

そう言いながら窓に歩み寄り、外を眺める音晴さんの背中は少し寂しそうだった。そんな風に思っていると音晴さんが、おっ!と声を上げて振り向く。

「万理くん、帰ってきたみたいだよ」
「えっ?」

時計を見ればもうすぐ14時になるところで、思ったより早い戻りに心の準備ができておらず焦り始める。いや、別にスマホを持ってきただけなんだから、心の準備もなにもないのだが、万理の職場に来ているという事を改めて考えたら、なんだか緊張してしまった。
そんな私の緊張が伝わったのか、私の膝の上ですやすやと眠っていたピンクのうさぎこと、きなこが目を覚まし、きゅきゅっ?と鳴きながら私にすり寄ってきた。
…かわいすぎる!ときなこを抱きしめながらそのふわふわを堪能していると、ガチャっと扉の開く音がした。


「お疲れ様です…」

その声は紛れもなく万理のもので、私はゆっくりと振り返り、音晴さんの声に続き、お疲れ様。と返す。すると驚きのあまりか、入口で固まっている万理。そしてその後ろから、ぞろぞろと若い男の子達が入ってきた。
お客さんですか?と笑顔を向けてくる赤髪の彼は、まごうことなく、IDOLiSH7のセンターの七瀬陸で、そういえばここは彼らの事務所なんだった。と再び緊張が私を襲う。
それも束の間、一番最後に入ってきた背の高い水色頭の少年もとい四葉環の言葉に、万理が頭を抱えたのがわかって思わず吹き出した。


「あっ、バンちゃんの彼女」







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「なーなー、名前なんて言うの?」
「片瀬 奈々美です」
「ふーん…じゃあ、ななみんだな」
「えっ?」
「はいはい!俺、七瀬陸です!」
「ワタシは六弥ナギです。アナタのような美しい女性に出会えて光栄です」
「人の彼女口説くな!」

わーわーと騒ぐ彼らの中心に居るのは、少し緊張しながらも楽しそうに笑っている奈々美で、なんでここに…?と未だに混乱している俺は、社長に声を掛けられた。

「彼女、いい子だね」
「えっ?」
「僕の暇つぶしに付き合ってくれてね。おかげで有意義な時間を過ごせたよ」
「それは良かったです」

変な事喋ってないだろうな…なんて頭の片隅で考えながらしばらく社長と話してると、奈々美が突然、あっ!と言いながら席を立った。そしてみんなにごめんねと断りを入れ、鞄を抱えながら俺の元へやってくる。そして鞄の中から俺の仕事用のスマホを取り出した。


「はい」
「あぁ、ありがとう」
「もー、間違えないでって言ったのに」
「悪かったって」
「私のは?」
「えっ?あぁ、鞄の中に…」

そこまで言いかけて沢山の視線を感じた俺がそちらに目を向ければ、7人が興味津々と言った表情でこちらを見ていた。約3名は車の時と同じようにニヤついていて、そんな彼らから逃げるように背を向ける。


「鞄の中?私、これから内見だからもう行かなきゃなんだけど」
「え?内見?」
「そう。引っ越そうと思って」

そう言う奈々美は、なんだかいろいろと吹っ切れたような清々しい表情をしていて、そんな彼女を見て俺は無意識のうちに安堵の息を吐いた。
未練が無くなったなら、俺ももう遠慮しなくていいかな。まぁする気なんかなかったけど。なんて悠長に考えていると、新しい爆弾が社長の手によって投下された。


「家を探してるなら、万理くん一部屋余らせてるって言ってたし、一緒に住んだらどうだい?同棲、考えてたんでしょう?」
「えっ?」
「あっ、いや、社長…!」

ニコニコと笑っている社長と、それを慌てて止めようとする俺。そして、同棲だって…!と、興味津々な7人。
そんな中奈々美は一人状況理解ができておらず、同棲?なんの話?と首を傾げている。


「あれ、もしかしてまだ秘密だったのかな…?」

俺だけに聞こえる声量でそう言いながら、すまないね。と眉を下げる社長に、いや!そう言うわけじゃ…!と弁解をする。そんな俺を、どうゆう事よ。と、じと目で見つめてくる奈々美だが、こんなところで話せるはずもなく、とりあえず俺は社長の、どのみち、今日はもう仕事もないし、一緒に行っておいでよ!というお言葉に甘えて、急遽奈々美と一緒に物件を見に行くことになったのだった。








「また来てくださいね!」
「あー…機会があったら」
「今度もっとバンちゃんの昔の話聞かせてな」
「ちょっと、それ話したの秘密だって!」
「あっ、そっか」

しーと、自分の口に人差し指を当てながら環くんに詰め寄る奈々美に、ほら行くよ。と声をかける。

「はーい。じゃあ、頑張ってね。応援してる」
「ありがとうございます!」
「またなー」

見送ってくれた陸くんと環くんに手を振りながら、車に乗り込んだ奈々美がシートベルトをしたのを確認した俺は、ゆっくりと車を走らせた。







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「なぁ、スマホ取り違えるって事はさ…」
「ちょっ、兄さん…!」
「あぁ、ミツ。万理さんは朝まで奈々美さんと居たんだろう」
「万理さん、いつもとシャンプーの香りが違ってましたしね…」
「Oh...ソウゴは着眼点がヘンタイっぽいです」




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