三月と環
「頼れる男になりたい?」
三月は環からの突然の相談に目を白黒させた。
仕事から帰ってきて部屋で寛いでいる三月を訪ねてきたのは、珍しいことに環だった。
その手には毎度の事ながら王様プリンのぬいぐるみが抱えられている。
なんでも、三月に相談があり、帰ってくるのを待っていたのだという環の話を聞けば、それはとても意外な相談だった。
「うん。みっきー、頼りになるし、みんながみっきーは男前だ!っていつも言ってるから」
「そうかぁ?俺なんかより大和さんとか、十さんとかの方が…」
「ヤマさんはからかってくっからヤダし、リュウ兄貴もヤダ!」
声を荒げた環はすぐに、罰の悪そうな顔をしながら、いや…あの…。と、部屋着のフードを握りしめる。その様子からして三月は、奈々美に関わる事なんだろうとすぐに理解した。
「そうは言ってもなぁ…。急にどうしたんだ?」
「…ななみんがさ」
「ん?」
「ななみんが、なんか悩んでるのはわかったのに、俺なんもしてやれなくて。話なら聞くって言ったんだ。でも、何も言ってくれないし。俺、頼りにならないんだろうなって…思って…」
王様プリンに顔を埋めた環に、三月は小さくため息を吐く。
「それは、心配させたくないだけなんじゃないか?」
「…それは頼りにならないとは違ぇの?」
難しい事を聞くなぁ…。と三月は頭を抱えた。
「例えば、オレが何か悩んでたとする」
「うん」
「でも真っ先に相談するのは一織じゃない」
「…なんで」
「弟にはかっこいいとこだけ見せたいし、心配させたく無いからだよ。別に一織が頼りにならないからじゃなくて、オレが一織から頼られる存在でいたいんだ」
わかるか?と、三月から声をかけられた環は、なんとなく…。と言いながらぬいぐるみを抱え直した。
「でもそれは、みっきーがいおりんのお兄ちゃんだからだろ?ななみんは俺のお姉ちゃんじゃない」
「そうだけど、奈々美さんは環のこと弟みたいにかわいがってくれてるし、オレと同じこと思ってると思いけどなぁ」
「…俺は、それをどうにかしたいの!」
環の必死の形相に三月は自身の頬をポリポリと掻いた。大方、自分の気持ちを自覚して、彼女に男として意識してほしい。と言ったところだろうか。
しかし、三月は今までの2人の距離感を考えて、ハードルが高いな…。と、再び頭を抱えた。
なぜなら、本来男として意識してもらうための行動を、環は常に奈々美に取っているからだ。手を繋いだり、あーんをしたり、ハグをしたり…。2人にとっては幼少期からの延長線でしかないのだろうから、尚更厄介だった。
「とりあえず、子ども扱いされないように、環がちゃんとしてるところ見せていくしかないんじゃないか?」
「……俺、ななみんに子ども扱いされてんの?」
「えっ?あー…例えば、頭撫でてくれたりするだろ?」
「うん」
「環は、大和さんとか壮五が同じ事してきたらどう思う?」
「えー…子ども扱いすんな!って思う。あっ…」
「そういうこと」
「子ども扱いは嫌だ。けど、でもななみんに撫でられるのは嬉しいし…あー!もう!わっかんねぇ!」
好きな人からの子ども扱いはつらいよなぁ。三月はそんな事を思いながら唸っている環に目を向ける。
力一杯ぬいぐるみを抱えている姿は、大きな子どものようだった。子どものよう、と言っても彼はまだ高校生だし、子どもで間違いはないのだ。
そんな彼を異性として意識させるには、何か大きなきっかけが必要だろう。しかし、環はマイペースゆえに突拍子もない行動を取る恐れがある。
「環、焦っちゃダメだぞ」
「…うん」
「ちょっとずつ、頑張れよ!オレは応援してるから」
「へへっ、みっきーあんがと」
照れたように笑う環を見て、うまくいきますようにと、三月は心の中で静かに祈った。
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