心の声が伝わればいいのに




「あれ?片瀬ちゃん?」
「あっ、二階堂さん。おはようございます!」
「はよ。今日休みじゃなかったんだっけ?」
「いやーそれが…」


翌日、私は二階堂さんと環くん2人の雑誌の撮影現場に来ていた。(なんでも、グループ内最年長と最年少での特集らしい)
本来今日の撮影は、来月から私の代わりにIDOLiSH7の現場に入るのスタッフが顔合わせを兼ねて参加予定だったのだが、体調を崩してダウンしてしまい、その穴埋めで急遽参加する事になったのだ。

「はー、大変だなぁ…。それより、昨日は無事帰れた?」
「はい。大丈夫でしたよ」
「本当に歩いて帰ったの?」
「勿論です!」

そんな話を二階堂さんとしていると、えっ?!ななみん?!と、環くんの声が聞こえて、思わず小さく肩を跳ねさせた。二階堂さんより一足遅れてスタジオにやってきた環くんは、私の姿を見るや否や駆け寄ってきた。

「環くん、おはよう」
「おはよう!えっ!なんでいんの?!今日は会えない、って思ってたのに」

目をキラキラと輝かせながらそう言う環くんに、二階堂さんに話したように急遽参加になった旨を伝える。すると環くんは、会えて嬉しいオーラを全開にしながら、やったー!と抱きついてきた。その姿に、なんだ何も変わってないじゃないか。と、安心して、思わず小さく声をあげて笑ってしまった。
そしてそのまま、いつもしていたように頭を撫でようと、環くんの頭に腕を伸ばすが、その腕はスッと避けられてしまった。
思ってもいなかった環くんの行動に、えっ…?という戸惑いの声が溢れる。

「えっと、あのさ、ななみん。その…頭撫でられんの、なんか嫌だ。俺もう、子どもじゃないし」

視線を落としながらそう言う環くんに、心臓が大きな音を鳴らした。

「…えっと、そう、だよね。ごめんね」

先日の事があってから、環くんと会うのは初めてだったけれど、意外と会っちゃえば大丈夫かも。なんて思っていた矢先にこれで、酷く動揺する。
私、顔に出てないかな、大丈夫だよね?あぁ、どうか気付かれてませんように。そんな思いを抱きながら、どうにか心を落ち着かせる。
そんな私の心なんてつゆ知らず、傍で私達のやりとりを見ていた二階堂さんが、ぷっと吹き出した。

「そうだよな〜!タマはもう大人の男だもんな、恥ずかしいんだよな〜?」
「はっ?!ちょっ、ヤマさんうざい!」
「片瀬ちゃんの代わりにお兄さんが撫でてあげるからな!」
「やーめーろー!!」

ぎゃーぎゃーと騒いでいる2人を見ながら、深呼吸をする。大丈夫、きっと気付かれてない。
そんな事を考えていたら、奈々美さーん!と、少し遠くから山田くんが声をかけてきた。

「あっ、二階堂さんおはようございます」
「おー!おはよう。昨日はありがとな」
「こちらこそ!あっ、それで、奈々美さん。僕、今朝奈々美さんの家に腕時計忘れてきちゃったみたいなんですけど…」
「えっ?あぁ、あれね。持ってきたよ」

これだよね?と、鞄から山田くんの腕時計を取り出して差し出すと同時に環くんが、はっ?と声をあげた。その声は低くて、さっきまで騒いでいたのが嘘かのように一気に不機嫌になったのがわかった。

「ななみんの家に忘れたって、どういうこと?」
「あぁ、四葉くん居たの。どういうことって?別に、僕は昨日泊まった奈々美さんの家に、忘れ物をしちゃっただけだけど」
「はっ?!泊まった?!」
「だから、そうだって言ってるじゃないか」

ねっ?奈々美さん。と、笑顔で訪ねてくる山田くんの言葉にに、うっ、うん…。と返事を返せば。環くんが私を勢いよく振り返り、詰め寄ってきた。

「たっ、環くん?」
「なぁ、どういうこと?ななみん、たくみんと付き合ってんの?」
「えっ?!付き合ってなんかないよ」

どうしてそういう話になるの?!と、山田くんに助けを求めるために、チラッと視線を送れば、山田くんは楽しそうにニコニコしているだけだった。
環くんは後退りする私の両肩をガッ!と掴み、更に詰め寄ってくる。

「じゃあたくみんの事好きなの?」
「なっ、なんでそうなるの?」
「好きなのかって聞いてんの」
「えっ、環くんどうして怒ってるの…」
「いいから答えろよっ!」

環くんの大きな声に、スタジオに居た全員が一斉にこちらを振り返る。それと同時に二階堂さんが、タマ!と、環くんの名前を呼ぶ。
どうした?なんかあったのか?と周りのスタッフのざわつきが聞こえ始める。
それと同時に無意識のうちに溜まっていた涙が、私の頬を伝った。





「…そんなんじゃ、ないのに」



ごめん。と呟きながら私に伸びてきた環くんの腕を振り払って、私はスタジオを飛び出す。後ろから聞こえる、環くんの声を無視して、私は無我夢中で階段を駆け上った。
全力で走って、肺が苦しい。


でもそれ以上に、胸に広がる別の苦しみが、つらかった。






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今日もななみんに会えないのか。
朝起きて一番最初に思って肩を落とした。

ななみんが何か悩んでると気付いたあの日以降、ななみんとは会えてない。
あれからななみんはどうしているんだろう。ひとりで悩んで辛くはなっていないだろうか。そんな事が毎日気がかりだった。



今日はヤマさんも2人での撮影で、トイレに寄ってからスタジオに入れば、なぜかそこにはヤマさんと話してるななみんが居た。

久々に会えたのが嬉しくて、つい駆け寄って、なんでいんの?!って聞いたら、今日来るはずだった人が、体調不良でダウンしたって。体調悪いのはかわいそうだけど、おかげでななみんに会えたから、俺的にはラッキーだなんて言ったら、きっと神様に怒られるだろうな。でも、そんくらい嬉しいんだ。
思わず抱きついちゃうくらいにはテンションも上がって、会えなかった分今日はいっぱい話さなきゃなんて思ってたら、ななみんがいつもみたいに俺の頭を撫でようとしてきた。

子ども扱い、されたくない。

ふと、そんな気持ちが頭ん中に広がって、思わずその腕を避ける。ななみんに撫でられるのは大好きだ。でも、みっきーと話してわかった。今のななみんは俺のこと小さい時のまんまだって思ってるから、だから…

「えっと、あのさ、ななみん。その…頭撫でられんの、なんか嫌だ。俺もう、子どもじゃないし」

いっぱい考えて、そう言った。
でも、ななみんの目は、なぜだか見れなかった。
ななみんは、そうだよね、ごめんね。なんて言ってたけど、その顔はなんだか寂しそうで、俺が傷つけちゃったんだってすぐにわかった。

謝んなきゃ。

そう思ったタイミングで、ヤマさんが絡んできた。本当鬱陶しいし、タイミング最悪だし、ななみんの前で変なこと言うのやめて欲しい!そんな事を思いながらヤマさんから逃げてたら、たくみんが来た。

たくみんは、ななみんとヤマさんにだけ挨拶して、俺の事は相変わらず無視。そっちがその気なら俺だって無視してやんよ。って思ってたのに、ななみんとの会話には口を挟まずにはいられなかった。

「ななみんの家に忘れたって、どういうこと?」

たくみんを睨みつけながらそう尋ねれば、たくみんは、昨日ななみんの家に泊まった。ってドヤ顔で言ってきた。は?なんだよそれ、泊まったって、どうゆう事だよ。
イライラが止まらなくて、俺はななみんに詰め寄った。
たくみんと付き合ってんの?って聞いたら、付き合ってないって言ってたけど、その後俺の後ろにいるたくみんに、視線を投げて助けを求めてるのに気付いた。
それがまた無性にイライラして、後退りするななみんの両肩を掴んで、更に詰め寄った。

「じゃあたくみんの事好きなの?」
「なっ、なんでそうなるの?」
「好きなのかって聞いてんの」

俺が聞きたいのは、好きなのか好きじゃないのか、ただそれだけなんだよ。俺が怒ってる理由とか、そんなんどうでもいいじゃんか。


−お願い、違うって言ってよ。
「いいから答えろよっ!」

ヤマさんに呼ばれてはっとした時にはもう遅くて、ななみんの目からは涙が溢れてた。
初めて見たななみんの涙に、胸が締め付けられる。


「…そんなんじゃ、ないのに」


そう言ったななみんの表情は、すごく悲しそうだった。心の声とは違って、俺の口から出た乱暴な言葉が、彼女を傷つけてしまった。そう自覚したらまた胸がギュっと締め付けられて、俺まで泣きそうになった。
ごめんと呟きながら伸ばした俺の手は、振り払われて、ななみんはそのままスタジオを飛び出した。

俺はとっさにその背中を追う。
でも、何度呼んでも、ななみんは止まってくれない。

「ななみん!待って!…くそっ!」

階段を数段飛ばしで登って、なんとか踊り場でななみんを捕まえた。離してよ。と感情の無い声で言われて、思わず肩が跳ねたけど、ここで離しちゃダメだって、なんとなくそう思った。

俺は俯きながら肩で息をしているななみんを連れて、そのまま屋上へと向かった。




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片瀬ちゃんとタマが出て行った後、スタジオ内はなんとも言えない空気に包まれた。
そんな中、爆弾を投下したたくみはなんだか楽しそうで、なんて言うか、こう、ちょっと怖かった。
しばらくするとオサムさんがやってきて、奈々美は?と聞かれたので、先ほど起きた事を掻い摘んで話す。
オサムさんは少し困った表情で、ため息をつきながら、とりあえずたくみに俺のメイクをするように指示を出した。



メイク室に移動した俺達は、早速メイクに取り掛かる。俺は先ほどの表情が気になって、たくみに話をかける。

「あのさぁ、たくみ」
「なんですか?二階堂さん」
「いや、昨日本当に片瀬ちゃんの家に泊まったのかなー?って…」

俺がそう尋ねれば、えっ?泊まりましたけど。と、あっけらかんと言うたくみ。

「昨日、奈々美さんを送ってる途中で気分が悪くなってしまって、家で休ませてもらったんですけど、回復しなかったのでそのまま泊まらせてもらったんです」
「あぁ、そうだったのか。俺はてっきり…。いや、でも、それならタマにもそう言ってやって欲しかったんだけど」

ポリポリと頭を掻きながらそう言えば、なんでですか?と、返される。まさかの返しに、へっ?と間の抜けた声が出た。

「いや、なんでって…そしたら2人は喧嘩しなかっただろ」
「どうですかね。彼幼稚ですから」
「…タマの事か?」
「えぇ。見ててイライラしちゃうんです。さっきも、彼が勝手に感情的になって、奈々美さんを追い詰めただけじゃ無いですか。あんな状態で、僕の話を聞いてくれるとはとても思えません」

なので、口を挟みませんでした。そうにっこりと笑うたくみの言うことも一理あるか…。と頭の片隅で考えていたら、それにね二階堂さん。とたくみは話を続け、再びにっこりと笑った。



「僕、欲しいものを手に入れるのに、手段は選ばないタイプなんです」



なんちゃって!とメイクに取りかかったたくみのその笑顔は、やっぱりちょっと、怖かった。



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