無人島生活はじめます
「私、今日から無人島生活をはじめます」
「…無人島?」
え?急にどうしたの?と首を傾げるオレに向かって、じゃーん!と効果音をつけながらゲーム機を掲げる奈々美。
画面には、つい最近発売された人気ゲームのタイトルが表示されていた。
「お仕事忙しくてみんなに遅れを取ったからね…。ふふふ、今日の私は本気だよ」
ドヤ顔でローテーブルの上のももりんとポテチと、そのポテチを食べる用のお箸を見せつけてくるその様子からして、おそらく奈々美は明日オフなのをいいことに夜更かしする気だ。しかも不摂生までして…。
「本当、奈々美はそのシリーズ好きだよね」
「好き!どうぶつが可愛いの!しかも今回は島!」
テレビに繋げるから一緒にやろ?と、オレの手を掴む奈々美に、オレは明日の入り時間を頭の中で確認しながら、大人しくついていく。
たしか明日は昼前にスタジオ入りだから、多少夜更かししても大丈夫かな。
なんて、思っていたオレが甘かった。
「…ねぇ、何回リセットするの?」
「あと一回!これで本当に最後にするから!」
何度目かわからないそのセリフを聞いて、オレはももりんに口をつける。
ゲーム機をテレビに繋げるところまでは早かった。しかしその後、無人島を選ぶところからいつまで経っても進まないでいる。どうやら、お目当ての島があるらしく、それが出るまでリセットを続ける気のようだ。
欠伸を噛み殺しながら、オレは奈々美をぼんやりと見つめる。お願いー!とテレビに向かって拝み始める必死な顔がなんだかかわいくて、思わず小さく笑みを溢す。
そんなオレの心を知らずに彼女は、あー!!と頬を押さえながら叫んだ。
「モモちゃんと見てみて!ほら!これ!」
興奮気味の彼女が指さしたのは、画面に表示されている地図だった。
「ハートの池!やっと出た!!」
やったー!と言いながらスマホで写真を撮っている彼女越しに、改めて画面に表示されている地図を見る。4つ表示されている無人島の地図のうちの1つに、水色のハート型が描かれている地図があった。おそらくこれが奈々美の言う、ハートの池なんだろう。
「すごーい!かわいい!これレアなの?」
「多分!島はここで決定!はー…道のりが長かった。でも無人島生活はここからが本番だからね」
うん、そうだろうね。と心の中でツッコミながら、再びテレビに向かって拝み始めた奈々美は、もも、もも、もも…。と呟いている。
「お願い、特産品……やったー!桃だー!!」
みて!桃だよ!と大興奮の奈々美の頭を、はいはい、よかったね!と言って撫でなる。そう言えば前に俺がやってるサッカーゲームで好きな選手が出た時は、奈々美がオレの頭撫でてくれたっけ。なんて一人でほっこりしてるオレを他所に、どうぶつ可愛いー!!と、興奮しながらゲームを進めていく奈々美。
しばらくして島の名前を決める場面になり、悩むのかな?と思いきや、あらかじめ決めていたようで『ももりん島』と素早く入力していた。
「えっ?なんでその名前?」
「モモちゃんが、ももりん好きだから!」
いや、好きだけど!ツッコミを入れると、奈々美はくすくすと笑いながら話を続けた。
「モモちゃんが好きなものの名前つけようって、前から決めてたの!」
「なんで?!奈々美が好きなものの名前つければいいのにー!」
「そしたらモモちゃん島になっちゃうもん!今度陸くんと一緒にやる予定だから、モモちゃん島じゃバレちゃう」
それだけはダメでーす!と言ってゲームに戻る奈々美だけど、ももりんも結構グレーでは?と思ってしまう。まぁ、でも奈々美が楽しそうだからいいか。と言うか、自分の好きなものはモモちゃんって、さらっと嬉しい事言ってくれたよね?えぇ…何、かわいい…眠気吹っ飛んだ…。
「この島は、モモちゃんと過ごすならこんな島がいいなぁ。っていうのをテーマに作るんだー!」
楽しみ!と笑顔で言いながら、あれ…サッカー場って作れるのかな…?と首を傾げる奈々美。ゲームの話だってわかってるのに、なんだか無性に愛おしくなって、オレは横から勢いよく奈々美に抱きついた。
「わっ!びっくりした!」
「奈々美〜!いつかモモちゃんが本物の島買ってあげるからね!!!」
「えっ?どうしたの?急に」
「そしたら島で一緒に暮らそうね!!!」
オレのいきなりの発言が相当面白かったのか、奈々美はけらけらと笑っている。
「私は、ハートの池がある島がいいなぁ」
「ハートの池なんていくらでも作ってあげる!」
「ふふっ、じゃあいいよ!楽しみにしてる!」
ユキとバンさんも誘おう。でも万理さんは虫が嫌いだからダメだね。でも来て欲しいよね。うーん…。なんて2人で解決策を探した結果…
「万理さんが移住してくるまでには、高層マンション建てようって話になりました!」
久々に4人で食事をしている時に突然始まった、奈々美の無人島移住計画を、ユキとバンさんはきょとんとしながらも、黙って聞いてくれた。
「えっ?ありがとう…?」
「ユキさんのために野菜もいっぱい育てますからね!」
「ありがとう。野菜は無農薬でお願いね」
勿論です!と笑っている奈々美を見ながら、笑っているユキと、ちょっと困っているバンさんを見て、うん!今日も平和だな!!と、オレはももりんを一気に飲み干した。
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