君の温もりに触れる




ネクリバの外ロケが終わり、ようやく帰宅したのは23時少し前。
今日のゲストは新人の女の子アイドルで、正直フォローがめちゃくちゃ大変だった。その子からの露骨な媚び売りと、やたら多いスキンシップを受け流しつつ、休憩中も彼女の相手をしていたから、1日で2日分くらいの仕事をしたかのような疲労感を感じていた。

いつもは同じ事してもこんなに疲れないのに。

はぁ…。とため息を吐きながら部屋着に着替え終わったタイミングで、スマホが着信を知らせた。
こんな時間に誰だろう?
そう思いながら画面を見ると、そこには愛しの彼女の名前が表示されている。名前を見ただけで、頬が緩んだのがわかった。



「もしもし?」
『あ、モモちゃん?お疲れ様』

奈々美の声を聞いた瞬間に、疲れが吹っ飛び、そのままベッドへと沈み込む。
彼女は今、映画の撮影で沖縄に行ってる。たしかもう向こうに行って2ヶ月近くになるんじゃないだろうか。なんでも、天候が悪くて撮影が中断したり、いろいろあったらしい。
しばらく彼女に会えてないのが疲れの原因かもなんて、馬鹿みたいな事をふと思ったけれど、声を聞いただけで疲れが飛ぶんだからあながち間違っていないかもしれない。

『今大丈夫?』
「うん、大丈夫。どうしたの?何かあった?」
『ううん。ただ早く声が聞きたくなっちゃって…』

オレも奈々美の声聞きたかった。と言えば、電話の向こうで奈々美が嬉しそうに笑ったのがわかった。
それから最近こんなことがあったあんなことがあったなんて、お互いの近況を報告し合う。奈々美と話すのは楽しいし、疲れは吹っ飛んだはずなのに、彼女の優しい声を聴いていたらだんだん眠くなってきてしまって、反応が鈍くなっていく。


『モモちゃん眠い?もうすぐ会えるし、もう電話切ろうか』
「…切っちゃだめ。奈々美の声もっと聞いてたい」
『…なんか今日のモモちゃんかわいいね』
「ん〜?…いつもはかっこいいのにって?」

そうだね。とくすくすと笑っている奈々美の声が心地良くて、目を瞑りながら頭の片隅で考える。

明日オフでよかったな。
あれ、そういえば、奈々美っていつ帰ってくるんだったっけ。



そんな事を考えていたら、俺は夢の世界へ落ちていた。












朝、微睡の中で布団を手繰り寄せようと手を伸ばすと、昨日まではなかった温もりを隣に感じた。
久々に感じたその温もりを胸に閉じ込めるように抱きしめれば、モモちゃん…?と小さくオレを呼ぶ声が聞こえる。

「ん〜…おはよぉ」
「…奈々美だ。…なんで?夢?」
「えぇ?…ふふっ、夢じゃないよ」

ただいま。そう言って優しく抱きしめ返してくれた奈々美の存在を確かめるように、オレは腕に力を込める。
そしてまだ覚醒しない頭で一生懸命考えた。
ただいまってことは、帰ってきたってこと。いつ?昨日?そういえば、昨日電話してる時ナビの音が聞こえたから、もしかしたら車の中だったのかも。電話切ろうかって言われた時も、もうすぐ会えるしって言ってた。そっか、奈々美が帰ってくるのは昨日だったんだ。…帰ってきて、その足でオレに会いにきてくれたんだ。



「…ごめん」
「ん?なにが?」
「寝ちゃってた」
「全然大丈夫だよ」

気にしないで。と言いながらオレの頭を撫でてくれる奈々美。
あぁ、本当やってしまった。疲れすぎて、昨日が奈々美が帰ってくる日だって、すっかり忘れてた。帰ってきたら笑顔でおかえりって言って、抱きしめて、キスしようって決めてたのに。それに、2人で朝までいっぱい話そうねって約束してたのに。
柔らかい髪に頬を寄せながら唸ってるオレに、奈々美がくすくすと声を上げて笑った。

「そんなに落ち込まないで」
「…昨日に戻りたい」
「私は戻りたくない!」
「…じゃあ夜だけでいいよ。ちゃんと奈々美が帰ってくるの待ちたい」

オレの言葉を聞いて、奈々美がくすっと小さく笑った。大人気なくいじけててごめんなさい。でも本当ショックなんだもん。
そんなオレに、じゃあさ、モモちゃん!と明るく声をかけてくれる奈々美。

「1個だけお願い聞いてくれる?」

ゆっくり目を開けながら、何?と顔を向ける。久々に奈々美の顔をちゃんと見て、ようやく脳が目を覚ましはじめる。

「折角久しぶりに会えたんだから、今日はモモちゃんの笑顔がいっぱい見たいなぁ。あと、いっぱいぎゅってしてほしい!キスは…恥ずかしいからちょっとでいいかも」

ね?お願い。頬を染めて上目遣いで、ちらっとオレを見ながらそういう奈々美に、胸がキュン!と鳴った。

えっ、かわいい。久々に会ったからいつもよりかわいくみえる。いや、いつもかわいいんだけど。でもやっぱり、今日はいつもよりかわいい。かわいすぎて、いじけてるのがバカらしくなってきた。

完全に目を覚ました脳をフル回転させたけど、今この状況での第一声は、もー!奈々美かわいすぎ!!しか思い浮かばなかったうえに、気付いた時にはもう口に出していた。

「いじけてるモモちゃんもかわいかったよ」
「それはもう忘れて…。っていうか、お願い1個じゃないじゃん!」
「…やっぱり1個じゃないとダメ?」
「全然ダメじゃない!なんならあと100個でも聞いてあげちゃう!」

よかった。と笑う奈々美に、自然とオレも笑顔になる。さっきまで落ち込んでいたのが嘘みたいだ。やっと笑顔になった!と嬉しそうにオレに抱きつく奈々美の頭を撫でながら、まだ言ってない言葉がある事に気付いた。



「奈々美」
「ん?」
「おかえりなさい!」


満面の笑みと共に返ってきた2回目のただいま。の言葉を合図に、オレはそっと唇を落とす。久々に触れたその唇は、いつもより甘かった。



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