バレンタイン




学生の頃、バレンタインといえばそこそこ楽しみなイベントだった。気になる先輩にみんなでチョコをあげたり、友達と昼休みにお菓子パーティーを開いたり。そんな楽しかった思い出も遥か彼方。
社会人になった今、強く思う。

バレンタインというイベントは、ただただ面倒くさい。




「え、今年から無しでいいんですか?」


そう思っていた矢先に、今年から社内でのバレンタインは廃止にします!と、上司から連絡があった。なんでも、男性社員もお返しをするのが大変だからもう無しでいいんじゃないか。という話が上層部で出たのだという。

「日頃の感謝は日頃からきちんと伝えるって事で!」
「たしかに」
「その分彼氏に奮発してあげな!」

新しく、できたんでしょう?にやにやしながらそう聞いてくる先輩に、曖昧な笑顔を返す。
先日、おしゃべり好きの同僚に、うっかり新しい彼氏(偽装だけど)ができた事を溢してしまい、あっという間に女子社員に広まってしまったのだ。そうします〜。なんて返したものの、万理にチョコをあげるなんて微塵も考えていなかった私は、思い切って本人に聞くことにした。




「え?バレンタイン?」
「そう。チョコ欲しい?」
「…それって普通聞くものじゃないでしょ」

その日、元々2人で食事に行こうと約束をしていた。会って早々の突然の私の質問に、呆れた様子の万理の返答。まぁそうなんだけど。と言えば、万理は、んー…。と何やら悩み始めた。


「チョコはいらないかなぁ」
「…そっか」
「事務所に大量に届くやつ、毎年余っちゃうからさ…」

そう言いながら遠い目をした万理に、あぁ…。と状況を察した。どの道用意しなくていいなら出費が減ってラッキーだわ。でもなんか、いらないって、寂しいななんて思っていたら万理が、頬杖をつきながらじっと私を見ていた。


「ちゃんと聞いてた?」
「え?何が?」
「チョコ"は"、いらないって言ったの」
「……何が欲しいの」
「それはお前に任せるよ」



期待してるから。なんて爽やかな笑顔で言われて、会社のバレンタインより、憂鬱になった。




こんな事なら聞かなきゃよかった…!!







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「はい」


ゴンッと音を立ててテーブルの上に置かれたそれは、綺麗に包装された縦長の何かで…


「何これ」
「え?ワイン」
「じゃなくて」


あぁ、バレンタイン。と縦長の何か改めワインを、どうぞ。と俺の前に差し出す彼女。バレンタインだと言うのにムードもへったくれもないが、まぁ別にそんなの求める間柄でもないかと包装を解けば、中からは年代物のワインが出てきた。


「へぇ、高そう」
「第一声がそれ?」


不満そうな声を上げながらも、その表情は誇らしげだ。その表情から、ちゃんと選んでくれた事がわかって、俺は口角を上げた。それを誤魔化すように、お前も飲む?と声をかけて、グラスを取りに席を立つ。


「今日疲れてるから、飲んだらすぐ寝ちゃいそう」
「…ちゃんと起きてたら送ってくから、一杯だけ付き合ってよ」


折角だしさ。とグラスを差し出せば、しょうがないなぁ。と言いながらもどこか嬉しそうな彼女だが、起きてたら送ってくなんて、俺も飲んだら車出せない事気付いてんのかな。いや、多分気付いてないだろうな。
ガードが固そうなのに、隙が多すぎる彼女に心の中でため息をついた。
まぁ、誘った本人が何を言ってるんだ。って感じだが。

2人でグラスを合わせ、職場でもらったチョコレートをいくつか広げて摘む。ここのチョコレートはすごく美味しいんだとか、ここはすごく並ぶとか、手に取ったチョコレートひとつひとつに反応する彼女の話に耳を傾け、相槌を打つ。
そんなのんびりした時間を過ごしていたら、グラス一杯分のワインなんて、あっという間だった。


「あ…もうなくなっちゃった」


時間も時間だし、もう帰ろうかなぁ。と時計を見ながら呟く彼女に、明日休みなんでしょ?と、俺は空になった彼女のグラスにワインと、まだ帰したくない。という気持ちを注いだ。






明日の朝彼女が居るのは、きっと俺のベッドの中





Happy Valentine -Banri-
2020.02.14



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