バレンタイン




「なぁ、ななみん!今週の金曜って、なんの日か知ってる?」


撮影前のヘアセット中、環くんが突然尋ねてきた。
今週の金曜日といえば2月14日。
2月14日といえば…


「二階堂さんの誕生日でしょ?」
「そう!えっ、違う!いや、そうだけど、そっちじゃない!」

そっちじゃない…?あぁ、もしかして…

「バレンタイン?」
「そう!なぁなぁ、ななみん!俺、チョコ好きだよ」


うきうきとそわそわが入り混じった顔で鏡越しに私を見る環くんに、知ってるよ?と言えば、え…あ、うん…。とさっきまでの表情とは打って変わって、しょぼくれた表情をしていた。まさかそんな表情をされるとは思わなくて私は首を傾げた。

え…なんだろう…何が正解だったんだろう…。

環くんが喜びそうな話題を頭の引き出しの中から探して、コレだ!というものを取り出す。


「あ、そういえば王様プリンも期間限定のチョコプリンが出てたね。食べた?」
「食った、けど…。そうじゃなくて、俺チョコ!好きだよ!」
「え?知ってるってば」

どうしたの急に。と笑えば、…なんでもない。と今度は口を尖らせてしまった環くん。そんな私たちの様子を見て、隣でメイクをしていた二階堂さんがぷっと笑ったのが聞こえた。

「ヤマさん笑うなし」
「いや、ごめんごめん」
「え?二階堂さんは、どういう意味かわかったんですか?」

教えてください!と二階堂さんの方を向けば、あのな、タマはー…と口を開く二階堂さんと、その言葉を遮るように、ヤマさん!と声をあげる環くん。

「まじありえねー。ヤマさん、俺のオトコゴコロを弄んでる」
「いや、弄んでるのはお兄さんじゃないでしょ」
「…たしかに」

そう言いながら私を見上げる環くんに、え?何?と聞けば、はぁ…とため息をつかれた。


「なんでもない」
「えー…気になって今日眠れない」
「…それでいいよ。一晩中俺のこと考えてて」


正面を向いた環くんを二階堂さんがヒュ〜!と囃し立てる。そんな二階堂さんに環くんは、ヤマさんうっせー!と言いながら、お菓子の包紙を投げつけた。









バレンタイン当日、衣装さんや他の女性スタッフが手作りのお菓子やチョコレートを所狭しと並べる中、私は市販のお菓子をテーブルの端っこにそっと置いた。無いよりはマシだろうと、来る途中に買ってきたお菓子だけれど、甘いものが多い中で私の買ってきたお煎餅は少し場違いだった。

それにしても、みんなすごい気合いの入った差し入れだなぁと感心していると、IDOLiSH7のみんなが、おはようございます!とスタジオへとやってくる。

「わー!すごい!これ、手作りですか?!」
「うまそー!!」

目を輝かせながらお菓子でいっぱいのテーブルに近付いてきたみんなは、すごいすごい!パーティーみたい!と、騒ぎ始めた。その騒ぎの中心に居ながらも、ちらちらとこちらを見る環くんに、今なら平気かな?と手招きすれば、すごい勢いで駆けてきた。そのまま2人で機材の影に隠れるように移動する。


「なっ、なに?!」
「環くんに渡したいものがあって」
「えっ…!」

先程とは比べものにならないほど目を輝かせている環くんに、はい。とこれまた来る途中に買った市販のチョコレートを渡す。すると環くんは、そのチョコレートを暫く見つめた後に、ぎゅーっと私に抱きついてきた。

「ななみん、一晩中俺のこと考えてくれたの?」
「これが正解だった…?」

環くんに喜んでもらえるならと一応用意はしたけれど、先日の環くんのチョコ好き!アピールへの答えの正解がこれで正しいのか未だにわからない。


「正解、超嬉しい…」


そう言いながら私の頭に頬を寄せる環くんに、くすぐったいよ。と笑う。

「役に立ててよかった!メンバーの中で誰が一番もらえるか競ってるんでしょ?」
「……は?」

だからあんなにアピールしてたんでしょ?と言えば、環くんは私の顔を見てはぁ…とため息をつきながら、へなへなと脱力して私の肩に頭を置いた。


「え?環くん?大丈夫?」


私の問いかけに返事をするかのように、私を抱きしめている腕にぎゅっと力を込めた環くんの頭を、そっと撫でれば、環くんが再びため息をついたのがわかった。

「や、やっぱり正解じゃなかった…?」
「んー…そうなんだけど…。なんかもう、今はこれが正解でいいかも」

そう言いながら、包みを開けた環くんはチョコを見て固まった。何かおかしな事があったのだろうか?と不安になって、私は環くんの顔を覗き込んだ。

「ごめんね、バレンタインにチョコレートあげるの初めてだから、どんなのがいいかもわからなくて…なんか違った…?」
「えっ、あっいや!違くはない!違くはない、けど…」

今までバレンタインと無縁だった私は、誰かにチョコをあげるのは初めてで、とりあえず売り場に置いてあるチョコレートの中で、一番バレンタインっぽいものを選んだのだ。


「ハート形のチョコってかわいいよね、バレンタインって感じだし」


ね?と、環くんの手の中にあるチョコレートに落としていた目を再び彼の顔に向ければ、そこには顔を真っ赤にした環くんがいた。






Happy Valentine -Tamaki-
2020.02.14



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