ホワイトデー




「あっ、そう言えばこれ」


金曜の夜いきなり訪ねてきて、当然のように私の家に泊まった万理は、朝方思い出したかのように小さな箱を渡してきた。


「なにこれ」
「バレンタインのお返し」


あぁ、すっかり忘れてた。なんて呟けば、そうだろうと思った。と、苦笑いを溢された。


「別にお返しなんてよかったのに」
「俺があげたかっただけだから」


…さらっとこういうこと言うの、本当ずるいと思う。
私の考えてることなんかお見通しとでも言いたげに、にこにこと笑ってる万理を尻目に、プレゼントを開ければ、色違いのルージュが2本。


「えっ、まってこれ高いやつ…」
「プレゼントに対して第一声がそれ?」
「…万理だってそうだったじゃん」


口を尖らせながらもキャップを開ければ、1本はベージュ系の落ち着いた色、もう1本は暗めのピンクで私好みの色だった。


「そっちなら仕事でも使えるでしょ?」


そう言ってベージュ系のルージュを指差す万理に、そこまで考えてくれたのか、素直に嬉しくなる。


「ありがとう…。こっちの色すごい好み」

暗いピンクのルージュを片手にそう言えば、よかった。と万理が微笑んだ。

「好きそうだなって思ったんだよ。あと…」
「あと?」


いや、なんでもない。と言いながら帰り支度を始める万理に、気になるじゃんか!と詰め寄れば。万理はため息をつきながら、そっと私の手から、ピンクのルージュを抜き取って、私の顎へとそっと手を添えた。
コツンっと床に何かが落ちる音がして、下を向こうとした私の顔を、万理の手が阻止する。



「ちょっ、万理?」
「ほら、動かないで」


万理がそう言うと同時に、唇に違和感。
慌てて万理に目を向けると、楽しそうな顔をしながら、私の唇にルージュを引いている。
なんとも言えない羞恥心で、顔に一気に熱が集まるのがわかった。
そんな私にくすくすと笑いながらも、満足いく出来に仕上がったのか、万理は少し顔を引いて、うん、いいね。と頷く。


「なっ、なに…?」
「ん?」
「ん?じゃなくて…って、ちょっ!やだ近っ……んっ!」


いきなり距離を詰めてきた万理から逃げようとする私なんてお構いなしに、万理は私をソファに押し倒し、そのままキスをした。
どんなに腕で押し退けようとしても、力が強くてびくともしない。
触れるだけのキスを何度もされて、息苦しくなってきた頃、万理の唇がチュッと音を立てて離れた。

もうやだ、本当すぐキスしてくるの何なのありえない!そんな思いを込めながら万理をキッと睨みつければ、自身の唇についたルージュを指で拭い、万理は楽しそうにこう言い放った。




「このルージュ付けてるおまえと、キスしたくてさ」




数秒後、いつかの夜のように、乾いた音が部屋に響いたのは彼の自業自得だと思う。



2020.03.14
Happy White Day to you!



back


novel top/site top