掻き乱れろハートビート
「かっこいいなぁ」
人の部屋だというのに遠慮なくベッドに寝転んだ彼女は、雑誌を眺めながらぽつりと呟いた。それにつられるように手元から目線をあげれば、短いスカートから伸びた足が視界に飛び込んできてなんとも目の毒だ。それを知ってか知らずか、名前は呑気に頬杖をついて鼻歌なんて歌っていた。
部屋の主であるこちらは必死こいて宿題と格闘しているというのに、まったく良いご身分である。とはいえ名前はそんなものとっくに終わらせたというだけの話なので、妬むのもお門違いとはわかっているのだが。
「なーにがかっこいいんスかー?」
「あ、駄目だよサボったら。早く終わらせなよ」
「きゅーけーっスよ、休憩」
「休憩多すぎでしょ」
至極正論でツッコまれつつも黄瀬は名前の隣に寝転がり、ついでに腰の辺りにするりと手を回す。真面目に問題を解くのにも飽きてきたし、彼氏彼女が二人きりでベッドの上ならば、そういうことを期待したくもなる。仕方ない仕方ない、お年頃だから。なんて言い訳。
けれど名前はあっさりその手を掴んで放り出すものだから、やっぱダメかと心中で盛大に溜め息をついた。
「ほら見てこれ、かっこよくない?」
「……何かと思ったら俺じゃないスか」
「この涼太めっちゃ写真映りいいし、かっこよく見える」
「ちょ、それ普段かっこよくないみたいに聞こえるんすけど!」
「あははは」
「否定して!?」
笑いながら雑誌を閉じた名前は、床に雑多に置かれた次の雑誌へと手をのばす。拾い上げたそれをペラペラとめくっていたかと思えば、目当ての物でも見つかったのか手を止める。次は何が載っているのやと目線をやれば、そこにはまた金髪のイケメンが映っていた。
「まーた俺じゃないすか」
「そりゃそうじゃん。涼太載ってなきゃ私メンズなんて読まないよ」
「……へぇー」
あっさり言い切られ、結構に嬉しくなって口元が緩んだ。自分の顔の良さは自覚しているが、一緒に映るメンツも女の子には相当人気があると聞く。それ故メインターゲットの購買層だけでなく、モデル目当てで買う層も近頃は多いと聞いていたが、名前は本当に黄瀬にしか関心がないらしかった。
それを証明するように、黄瀬の載ったページばかりをじっくりと眺め、それ以外はさっさと飛ばしてしまう。普段あまり好きだのなんだのとわかりやすく素直に表現をしない彼女の愛情を、垣間見た気がした。
「名前っちは、本当に俺のこと好きっすねぇ?」
「……うーん、そうだね。涼太の顔は好きかな」
「顔だけっすか!?」
「うそうそ」
「っ、もー!」
からかうようにクスクス笑う名前に仕返ししてやろうと抱きついて脇腹をくすぐれば、可愛らしい悲鳴があがった。身をよじり逃げようとするのを捕まえて、更に抱き寄せれば淡く甘い匂いが黄瀬の鼻腔をかすめる。それから自身の硬い体とは違う柔らかい感触がよりダイレクトに感じられて、先程諦め捨てた筈の煩悩が再び蘇ってくるのを感じた。やばい。
「……」
「……っ、涼太? どしたの、疲れた?」
「……いや、まぁ……はは」
不意に動きを止めた彼氏に、笑い転げたせいで息を荒げた名前が訝しげに振り返る。ほんのりと頬を色付かせた、涙目で。
あ、今その顔はヤバいッス。可愛い、可愛いし、ちょっとエロい。
思考が一気にぐるぐると掻き混ぜられ、理性の糸がほどけていくのがわかる。親は、姉ちゃんは、宿題、時間、アレ、と自分を留めるべき要因が次々に頭をよぎって、その都度かき消されていく。まだ当分誰も帰ってはこない、宿題もなんとかなる、から時間は余裕。懸念事項のアレも、たしかまだある。
「眠いの?」
「……いや、むしろ真逆っすわ」
おもむろに体を起こし、サイドチェストに手を伸ばす。引き出しを開けて箱を手に取れば、名前がぎょっとしたのがわかった。
しかしそれには気付かなかったフリをして箱を振れば、中で確かに袋の擦れ合う音がする。以前、土壇場で箱を開けたら中身が空で痛い目に遭った、確認と補充は大切だ。
「……あ、の……黄瀬くん? 黄瀬涼太くん?」
「……どーしたんすか?」
「いやあの、なんでそんな、物を今」
「ゴムないと、困るっしょ」
手に持った避妊具の箱を見せつけるように目前に翳せば、慌てた名前が取り上げようとしたのか手を伸ばしてくる。しかし帰宅部の彼女がキセキの世代の反射神経その他諸々に適うはずもなく、綺麗に整えられた爪先は虚しく宙を掻いた。
それでも諦めずに身を起こして逃げようとする名前の上にすかさずのしかかり、痛くないであろう程度にその腕をシーツへ押さえ付ける。黄瀬を見上げる名前は彼自身の影にすっぽり収まってしまい、征服欲が満たされる感覚に口元がまたニヤつくのがわかった。
「や、やだからね。しないからね!」
「……まぁまぁそう堅いこと言わずに」
「堅いとか堅くないとかそういう問題じゃなくて、」
「ねぇ、絶対だめっすか?」
「……だめ」
「どうしても?」
「だ、だから……」
「お願い」
「ううぅ……」
慌ただしく動き回る瞳を至近距離でじっと覗き込めば、名前は迷うようにぎゅっと目を閉じる。もう少し押せばイケる、確信した。
顔は好き、なんて冗談のように言っていたが、名前が本当に自分の顔を好きなことぐらい知っている。……もちろん、それ以外だって好きでいてくれている筈だが。
とにもかくにも、距離を縮めて見つめられるのに名前は弱い。知ってて、最大限に利用した。おかげで、頭の中がぐらぐらに揺れているのがわかる。だからこそ、あと一押し。
「っ、んむ……!」
「名前っち、好きっす」
「ひゃっ!」
「好きだから、したい」
唇にキスを一つ落として、それから真っ赤に染まった耳朶を一噛みしつつ、耳元で囁いた。面白いぐらいに体を震わせて顔を真っ赤にした名前が、ゆるゆると目蓋を開く。先程以上に潤んだ瞳と、視線が絡まった。
ダメだって言ってるのに、と呟く声音は弱々しい。事実上の敗北宣言だった。
本当にダメな時はここで怒る。悲しき経験済み。
「かーわいいなぁもう……」
「……ばか、嫌い」
「俺は大好きっすよ?」
「…………」
「心配しなくても、優しくするから」
「……いつもそう言うけど、涼太全然優しくないからね」
「え、嘘。俺めちゃくちゃ優しくしてるっしょ」
「……優しくない!」
あれー? なんて首を傾げつつ、シャツのボタンに手をかけた。
:2021-04-11
人の部屋だというのに遠慮なくベッドに寝転んだ彼女は、雑誌を眺めながらぽつりと呟いた。それにつられるように手元から目線をあげれば、短いスカートから伸びた足が視界に飛び込んできてなんとも目の毒だ。それを知ってか知らずか、名前は呑気に頬杖をついて鼻歌なんて歌っていた。
部屋の主であるこちらは必死こいて宿題と格闘しているというのに、まったく良いご身分である。とはいえ名前はそんなものとっくに終わらせたというだけの話なので、妬むのもお門違いとはわかっているのだが。
「なーにがかっこいいんスかー?」
「あ、駄目だよサボったら。早く終わらせなよ」
「きゅーけーっスよ、休憩」
「休憩多すぎでしょ」
至極正論でツッコまれつつも黄瀬は名前の隣に寝転がり、ついでに腰の辺りにするりと手を回す。真面目に問題を解くのにも飽きてきたし、彼氏彼女が二人きりでベッドの上ならば、そういうことを期待したくもなる。仕方ない仕方ない、お年頃だから。なんて言い訳。
けれど名前はあっさりその手を掴んで放り出すものだから、やっぱダメかと心中で盛大に溜め息をついた。
「ほら見てこれ、かっこよくない?」
「……何かと思ったら俺じゃないスか」
「この涼太めっちゃ写真映りいいし、かっこよく見える」
「ちょ、それ普段かっこよくないみたいに聞こえるんすけど!」
「あははは」
「否定して!?」
笑いながら雑誌を閉じた名前は、床に雑多に置かれた次の雑誌へと手をのばす。拾い上げたそれをペラペラとめくっていたかと思えば、目当ての物でも見つかったのか手を止める。次は何が載っているのやと目線をやれば、そこにはまた金髪のイケメンが映っていた。
「まーた俺じゃないすか」
「そりゃそうじゃん。涼太載ってなきゃ私メンズなんて読まないよ」
「……へぇー」
あっさり言い切られ、結構に嬉しくなって口元が緩んだ。自分の顔の良さは自覚しているが、一緒に映るメンツも女の子には相当人気があると聞く。それ故メインターゲットの購買層だけでなく、モデル目当てで買う層も近頃は多いと聞いていたが、名前は本当に黄瀬にしか関心がないらしかった。
それを証明するように、黄瀬の載ったページばかりをじっくりと眺め、それ以外はさっさと飛ばしてしまう。普段あまり好きだのなんだのとわかりやすく素直に表現をしない彼女の愛情を、垣間見た気がした。
「名前っちは、本当に俺のこと好きっすねぇ?」
「……うーん、そうだね。涼太の顔は好きかな」
「顔だけっすか!?」
「うそうそ」
「っ、もー!」
からかうようにクスクス笑う名前に仕返ししてやろうと抱きついて脇腹をくすぐれば、可愛らしい悲鳴があがった。身をよじり逃げようとするのを捕まえて、更に抱き寄せれば淡く甘い匂いが黄瀬の鼻腔をかすめる。それから自身の硬い体とは違う柔らかい感触がよりダイレクトに感じられて、先程諦め捨てた筈の煩悩が再び蘇ってくるのを感じた。やばい。
「……」
「……っ、涼太? どしたの、疲れた?」
「……いや、まぁ……はは」
不意に動きを止めた彼氏に、笑い転げたせいで息を荒げた名前が訝しげに振り返る。ほんのりと頬を色付かせた、涙目で。
あ、今その顔はヤバいッス。可愛い、可愛いし、ちょっとエロい。
思考が一気にぐるぐると掻き混ぜられ、理性の糸がほどけていくのがわかる。親は、姉ちゃんは、宿題、時間、アレ、と自分を留めるべき要因が次々に頭をよぎって、その都度かき消されていく。まだ当分誰も帰ってはこない、宿題もなんとかなる、から時間は余裕。懸念事項のアレも、たしかまだある。
「眠いの?」
「……いや、むしろ真逆っすわ」
おもむろに体を起こし、サイドチェストに手を伸ばす。引き出しを開けて箱を手に取れば、名前がぎょっとしたのがわかった。
しかしそれには気付かなかったフリをして箱を振れば、中で確かに袋の擦れ合う音がする。以前、土壇場で箱を開けたら中身が空で痛い目に遭った、確認と補充は大切だ。
「……あ、の……黄瀬くん? 黄瀬涼太くん?」
「……どーしたんすか?」
「いやあの、なんでそんな、物を今」
「ゴムないと、困るっしょ」
手に持った避妊具の箱を見せつけるように目前に翳せば、慌てた名前が取り上げようとしたのか手を伸ばしてくる。しかし帰宅部の彼女がキセキの世代の反射神経その他諸々に適うはずもなく、綺麗に整えられた爪先は虚しく宙を掻いた。
それでも諦めずに身を起こして逃げようとする名前の上にすかさずのしかかり、痛くないであろう程度にその腕をシーツへ押さえ付ける。黄瀬を見上げる名前は彼自身の影にすっぽり収まってしまい、征服欲が満たされる感覚に口元がまたニヤつくのがわかった。
「や、やだからね。しないからね!」
「……まぁまぁそう堅いこと言わずに」
「堅いとか堅くないとかそういう問題じゃなくて、」
「ねぇ、絶対だめっすか?」
「……だめ」
「どうしても?」
「だ、だから……」
「お願い」
「ううぅ……」
慌ただしく動き回る瞳を至近距離でじっと覗き込めば、名前は迷うようにぎゅっと目を閉じる。もう少し押せばイケる、確信した。
顔は好き、なんて冗談のように言っていたが、名前が本当に自分の顔を好きなことぐらい知っている。……もちろん、それ以外だって好きでいてくれている筈だが。
とにもかくにも、距離を縮めて見つめられるのに名前は弱い。知ってて、最大限に利用した。おかげで、頭の中がぐらぐらに揺れているのがわかる。だからこそ、あと一押し。
「っ、んむ……!」
「名前っち、好きっす」
「ひゃっ!」
「好きだから、したい」
唇にキスを一つ落として、それから真っ赤に染まった耳朶を一噛みしつつ、耳元で囁いた。面白いぐらいに体を震わせて顔を真っ赤にした名前が、ゆるゆると目蓋を開く。先程以上に潤んだ瞳と、視線が絡まった。
ダメだって言ってるのに、と呟く声音は弱々しい。事実上の敗北宣言だった。
本当にダメな時はここで怒る。悲しき経験済み。
「かーわいいなぁもう……」
「……ばか、嫌い」
「俺は大好きっすよ?」
「…………」
「心配しなくても、優しくするから」
「……いつもそう言うけど、涼太全然優しくないからね」
「え、嘘。俺めちゃくちゃ優しくしてるっしょ」
「……優しくない!」
あれー? なんて首を傾げつつ、シャツのボタンに手をかけた。
:2021-04-11