Zoro
傷痕
ボタンの使い方を知らないゾロのシャツが風ではためく。寝っころがるそのほどよく焼けた肌には、無数の傷跡があった。
「蒼子、くすぐってェよ」
つつ、とひときわ大きな傷跡に指を這わせると、まぶたを閉じたまま咎められた。だけどその声はとても甘い。
「それならボタン留めてくださいよ」
「へーへー」
生返事のゾロに笑って、今度はさっきよりしっかり指先でなぞった。
「、痛そ」
「ンなもん、痛くもかゆくもねェな」
ゾロがふと目を開けて、わたしの手を取る。それをただ見つめていると、ゾロはわたしの手を目線の高さまで上げた。
「こっちの方が痛そうだ」
手の甲から腕にかけて走る傷痕。それから視線を外したゾロはわたしの目を真っすぐ見つめた。
…なぜだろう。単細胞のはずなのに、ときどき全部知られているんじゃないかと思うときがある。
わたしはたまらず視線をそらした。
「大事なものをかばってけがしたって、前に話したよね?」
「あァ」
「名誉の負傷っていうか、男の勲章っていうか…。そーいうものだと思ってた」
そう、本当にそう思っていた。誇らしいとさえ、思っていた。
遠くでルフィとウソップの声がした。バシャン、という音まで聞こえて、また誰かが海にでも落ちたのかな、なんて頭の片隅で思う。
ゾロが静かに体を起こした。それでも手は離されなくて、それに安心している自分がいる。
視線を落として彼の手の感触だけを感じながら話を続けた。
「けど、みんな言うんだよね。女のコなのに可哀想ね、って」
「……」
「そう言われ続けて、隠したくてしょうがなくなった」
服で隠してみたところで、水仕事をするときは袖をまくるし、それでなくても手の甲までは隠せない。
大丈夫? 可哀想ね。 綺麗な手なのに。
ねぎらいの言葉なのはわかっていたから、笑顔でこれくらい大丈夫だと言い張った。
「可哀想、なのかな」
ゾロは何も言わず、さっきのわたしみたいに傷に触れた。短い爪の節くれだった太い指がゆっくりとそれをなぞっていく。
ゾロに触れられた個所がじんわりと温かい。
「蒼子、」
ぼんやりしていたところに呼ばれて、ピクンと反応してしまったわたしを、彼は喉の奥で笑った。
「おれはそうは思わねェな」
「、…」
「男の勲章、なんだろうが」
顔を上げると、ようやく目を合わせたな、とゾロはニヤリと口元を緩めた。その顔を見たらふっと力が抜けて、胸にあったしこりが一緒にとけていった。
「それにな、」
「なに?」
「そこ舐めたらお前、すげェやらしい顔する」
「っ、なにそれ!?」