Sanji


フラワーシャワーに抱かれて


「くそお世話になりました!!!」

そう頭を下げたおれを、蒼子ちゃんは優しい瞳で迎えてくれた。

波が船を揺らし、ルフィとヨサクは舟をこぐ。
アイスティーを手渡すと、蒼子ちゃんはここへ座れととんとんと隣を示した。

「いい人たちだね」

船の縁にグラスを置いて水面を見たまま、彼女はぽつりと呟いた。なぜか蒼子ちゃんの前では素直に「そうだな」なんて言葉が口をつく。

「よく言えました」

「、っ……」

ぽんぽんと頭を撫でられて、目頭が熱くなった。とっさに下を向くと、柔らかな香りが強くなって、気づくと彼女の肩に頭を置いていた。

なぜだろう、クソ安心できる。

「羨ましい」

「…なにがだい?」

「あたしは名前も知らないあの人たちのこと、キミはきっとずっと忘れないでしょう?」

「……あァ」

彼女が話すたびに伝わる振動が、ますますおれを素直にさせる。
名残惜しみながら彼女の肩口から顔を上げると、蒼子ちゃんはまっすぐにおれを見て笑った。その顔は淋しそうにも見える。

「そんな人たちがいるキミになのか、キミに覚えてもらっていられるあの人たちになのか、わからないけど」

それでも羨ましい、と彼女は言った。

「おれがいるのに?」

「 ? 」

「誰かを覚えていたいならおれを覚えていればいいし、誰かに覚えていてほしいならおれが覚えてる」

「…これから一緒にいるのに、覚えるも覚えないもないと思うけど」

一瞬目を開いた後すぐにくすりと笑った蒼子ちゃんに、おれも微笑む。

「それもそうだ」

「……ありがと、サンジ」

遠慮がちに笑った嬉しそうな顔がクソきれいだったってのは、今もこれからも、青い海とおれだけが知っていればいい。



(お、起きられねェ…)

「ねえ、ヨサク寝てて進路わかるの?」

「ああ、そりゃそうだ!おいお前、なに寝てやがる!!」

ガゴンッ!!

「ぎゃあああァーーっ!!!」

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