Sanji
予期せぬ簒奪者の再来
こいつが帰ってきたとき、俺は本気で頭を抱えた。
昨日1日だけ彼女が預かった犬。この島にいる間預かることになった、って、蒼子ちゃんはどんだけいい子なんだ…!
とは思うが、こいつはいただけねェ。
昼飯準備までの空いた時間は、本来なら彼女の第1ティータイムのはずだった。
俺の淹れた紅茶をふくむ弾力のある唇。ふわりと髪のかかる首筋。幸せそうに細められる瞳。
『あたしと一緒のときくらい、サンジもゆっくりしてよ』
そう言って椅子を勧めてくれる彼女との時間。
だっつーのに。
「きみは本当に元気だねえ」
「わふ!」
なんっでこんな光景を指をくわえて見てなくちゃなんねェんだ。
普段クールな彼女のはしゃいでる姿はいいもんだが、俺にじゃなくてあいつに向けてだと思うと癪でしかねェ。
「おいで」
「ちょッ…、!!」
「わん!」
ちょっと待て!と言い終わる前に、広げられた彼女の腕に、ひいては胸に犬っころが飛び込んでいった。
それだけじゃ飽き足らず、彼女の首元に顔をうずめて横目で俺を見やがる。
「〜〜〜ッ!!」
それは俺の特権だ!!しかもそこ!クソいい匂いするんだぞ、あ゙あ゙!?わかってやってんのか、わかってやってんだな!!?ぶっ殺す!!!
ズカズカと歩を進めて彼女の前でピタリと止まる。顔に笑顔を張りつけることを忘れずに。
「サンジ?」
「俺もそいつ、触っていいかな?」
ふわり、と彼女が笑う。ああ、これだけでなんでも許せちまう。
こんな彼女をどこぞの男の毒牙にかけさせてたまるか。
「よかったね、サンジが遊んでくれるって」
犬は俺の手に渡されて嫌そうな顔をした。
どうやら今は、俺のプリンセスにこれ以上悪戯されなくてすんだようだと、ようやくほっと一息ついた。