Day6
しとしとと雨が降る。仕事が終わって帰る頃には、天気の悪さもあいまって辺りは真っ暗になっていた。
傘に当たる雨音を聞きながらマンション前に着いたとき、エントランス横の樹木で見えにくくなっている場所に3人の少年の姿が見えた。本当は入っちゃいけないところだけど雨宿りかなと通り過ぎようとしたら、1人の少年がカランと空き缶を落とす。
他の少年も食べていたらしいお菓子の袋をぽいぽいと捨て、行くか、と声をかけ合った。
「ちょっと、それは酷くない?」
と、思っただけのはずが、知らずそう口走っていて、その声に驚いた少年たちがこちらを向いた。わたしを認識した途端ぎょっとして「すいませーん!!」と走って行く彼らに、本当に思ってるならゴミ拾って行けよ、と思う。ゴミ袋になりそうなものあったかな、とかばんを覗こうとしたとき。
「蒼子ちゃん!!」
突然名前を呼ばれて振り返ると、慌てた様子のサンジさんが駆け寄ってくるのが見えた。
「どうかしたんですか?」
「大丈夫か?!」
わたしとサンジさんの声が重なって、「ん?」と首を傾げる。自分の声が邪魔をしたけど、大丈夫かと聞かれたような。
「えっと…?」
「さっきのヤツらとなんかあった!? なんもされてねェ!!?」
そう言いながらわたしの顔を見て、体の右側、左側と確認していくサンジさんに、わたしはといえばきょとんとするしかない。
「とりあえずなんともないみてェだな…」
はぁあ、と安堵のため息をついてうずくまるサンジさんに、心配されたんだとようやく悟る。
「あの、大丈夫です すみません」
腰をぺこりと折るわたしを見上げ、サンジさんがふ、と笑った。
「なんで蒼子ちゃんが謝るんだい?」
「や、なんか心配してくれたのかな、とか勝手に思ったので…」
いつも見上げてるサンジさんを見下ろすなんて新鮮だなと思っていると、彼は立ち上がり眉を下げて困った顔をした。
「そりゃ心配するさ。だからあんまり危ないことはしないでくれよ」
まっすぐそう言われることなんかそうそうないから、なんだか虚を突かれた形になって、はあ、と間抜けな声を出したわたしにサンジさんは再度笑う。
「で、さっきのアイツらは?」
「あー…あの子たち、あそこで雨宿りした後食べたもの捨てて行きそうになって。だからつい、それは酷くない?って言っちゃいました」
そしたら逃げていきましたけど、と伝えるとサンジさんはなんとも言えない顔をした。意外といろんな表情をする人だ。
「…蒼子ちゃん、君って人はどれだけまっすぐなんだ」
「うーん?よくわからないですけど、あの子たちも自分の家の庭にゴミ捨てたりはしないだろうし…自分がされて嫌なことをするのはよくないです!」
…と、思うんですけど、となんだか恥ずかしくなってごにょごにょ言うわたしに、サンジさんはあきらめたような納得したような顔をして、「んじゃまァ、ゴミ拾っちまうか」と歩き出した。